月報2022-11後半
11月30日(水) 明日のアー『カニカマの自己喪失』
https://www.youtube.com/watch?v=FUi_uGwesos
大北栄人氏が主催する劇団「明日のアー」の公演を配信で見た
プープーテレビ初期の頃から大北さん藤原さんのファンだけど、明日のアーについてはあんまり知らなくて最近まで見てなかった
以前別の公演観たときにはなんかちょっと難しくてピンとこなくて、でも今回のは上記YouTubeのプレビューで見れるコントのように分かりやすく面白い!って感じがした(藤原さんのキャラが好きって要素も大きい)
配信映像としても見やすくなっていて、今回カメラを3台使っているのと公演2回分の素材を使って編集していると言っていた
今回は本物とニセモノということがテーマになっている
いろいろと通俗的で儀礼的な本物っぽいやり取りと、そこからずれたエラーであるものが休む間もなくどんどん展開されていく
それらが暴れ草刈り機によって容赦なく刈り取られていったりする
演目としては30くらいあってそれが途切れること無く1時間半続くので密度がすごい
終盤のほうではけっこうエモくて感じ入るものがあり、これってもはや映画になっても面白そうだなって思った
演劇としての面白さと、娯楽映像としての面白さが両方あるように感じる
演劇と映画、どっちが良いとかは無いとは思うけど、メジャーさで言うとやっぱ映画なのかなと思ってて、舞台からロケにしたら一気に映像としてメジャーに刺さるんじゃないかという雰囲気が感じられた
おしゃれにすると『街の上で』みたいな系統のイメージ。おしゃれにする必要は無いんだけど
でもこういうノリの映画って、普通の映画として期待したノリとは違うからなんだこれって感じるケースも多いかもしれない
まだ生の公演は観に行ったことないから機会があれば行きたい
大北さんのインタビュー
演劇としては一定の認知がされてきたけど動員が頭打ちなのでお笑いの方に結びつけていきたい
お笑いだとM-1のように周知や評価されやすい仕組みができている
演劇の笑いはドラマの中での副産物
配信最終日に明日のアーの人たちが配信映像を流しながらコメントする会をやっていておもしろかった
@asunoah: 映像配信終了日となる11月30日夜9時から配信映像の同時視聴をYouTubeチャンネルにてLIVE放送します。 https://pbs.twimg.com/media/Fio2XgTUcAAy7ld.jpg
ひらがなの「の」の字がゲシュタルト崩壊して鈴鹿サーキットになるというコントがあったけど、それを演じてた人が鈴鹿サーキットって何ですか?ってこの場で聞いていた
コントの内容って風刺的で上から目線になりがちだけど、それゆえに演じている人自身それについての知識が無かったりするのが実は重要なのかもしれないねと言っていた
今回は単に物を落としてパニックになるみたいなシンプルなコントが多くなってきている
頭のいいギャグに飽きたからドジをやっている
芸人だともっとひねるのであんまりこういうことやらない
うまいことをやらない、というのがいい
12年前にやってた「ふざけて骨折するまでSHOW」がめちゃ好きだったな~と思い出してた
https://www.youtube.com/watch?v=v664DPOEWrM
https://www.youtube.com/watch?v=iREloRWQYk0
みんな声が出るようになったので、ガヤ(みんなで一斉に喋る)のシーンでも分かりやすくなり映像として見やすいものになった
藤原さんが腹から声が出てる
後半の牛乳工場のコントで、全然ウソの工程なのに途中まで本気にしてた人がいたらしい
集団で力合わせて本当のノリでやってると本当になってしまう
でも小学生だとそこの真偽が分からないので笑えない
ホームセンターのコント、「あなたに聞きたいんです」というのが、ひろゆきの「それってあなたの意見ですよね」に対するアンサーになっているという話を聞いて深い!!って思った
11月28日(月) 名前を連呼する演出
https://www.youtube.com/watch?v=kP_SxmTzgQM
ワールドカップ中に『シン・ウルトラマン』のノリのCMが良く流れてたけど、これをディレクションしたのけっこうすごいっていうか、やっぱ名前の連呼ってプリミティブであり違和感もあって強いよなって思った
商品名ではなく人名なのがすごい
https://www.youtube.com/watch?v=NrcHjgyKxXA
先日観に行った『宮松と山下』でも、本編内容と関係なくタイトルを連呼するバージョンの予告編が作られてた
https://www.youtube.com/watch?v=0F6DdrNMLp8
佐藤先生の往年の湖池屋CMシリーズからしてやっぱ名前連呼だよなーってなった
でも選挙演説なんかだと名前を連呼されても面白くないけど、あれは映像に同期してないからなんだろうか
11月24日(木) 落車事故動画に学ぶ
https://gyazo.com/f8f15d1c962ac77b1a8e660adbcc75f8
ツールド・フランス並みの落車を決めました(大汗) 過信は禁物改めて理解しました。これを教訓にします。
(現在救急車で搬送されてます)
ロードバイクでの落車した人の動画
前方に一回転してしまうので怖い。骨盤を骨折して救急車で運ばれたらしい
自分はこんなに回転することはなかったけど、同じように下りカーブでリアが流れて体勢崩した感じだったのですごく分かりみがある。恐ろしい
路面に叩きつけられるダメージは骨折する前だったらあんまり想像できなくて、ふーんって感じだったかもしれない
怖い動画だけど批判されるのを覚悟した上で注意喚起として上げてくれているのはありがたい
リプ欄では色んな人が心配したり批判したり意見やアドバイスを言っているけど、そのほとんどにちゃんと返事を返している
自分も事故ったことについて反省しか無かったので、何を言われても受け止めるしか無いなという気持ちになる
「このくらいで救急車呼ぶな。歩いて行け」と言う人にまで返事していてすごい(骨盤骨折してるのに…)
原因としてはブレーキングの技量不足とかタイヤに問題があるのでは?とか言われていた
荷重のテクニックもあるけど、まずはやはりコーナーに入る前にあらかじめ速度を落とすべきだったようで、特に曲がりながらブレーキというのは危ないらしい
https://gyazo.com/42da7ace5cc9a5bceae9c6d2d65e13e0
コーナーリング中は不安定なのでそれまでにブレーキングを完了させておき、ブレーキをリリースしながら曲がるべきとのこと
上級者からするとそんな事も知らないのか?という感じだろうけど、これは実際教習とか受けてないし上級者と走ったこともないので学べるのであればちゃんと学んでおきたかったという気持ちが強い…
単独事故だったから本人が痛い思いをして教訓にできたけど、対向車があったりしたらと思うと恐ろしい
実際ロード乗りのそれなりの割合の人は学ぶ機会もなく走ってるんじゃないだろうか
何事も試してみないと分からないことではあるけど、ミスした結果のダメージがでかい…
こういう事例が上げられることで知見が共有されていってほしい
11月20日(日) 『宮松と山下』を観に行く
https://gyazo.com/67d2f0c1a52f9eafa0839f92385be6ec
大学時代の恩師である佐藤雅彦先生、そして藝大佐藤研の関友太郎氏と平瀬謙太朗氏の3人による「5月」という監督ユニットが制作した初の長編映画を新宿まで観に行った
主演は香川照之で少し前にスキャンダル騒ぎがあったので心配していたけど、公開自体は無事予定通り行われた
佐藤先生といえば90年代に15秒のTVCMを数多く手掛けていたので、いわばスプリンターがマラソンを走るようなものというか、長編映画になるとどうなるのか?というのが自分的に一番の関心事だった
昔『kino』という映画を作っていたけど、あれを観たときにはやっぱり短編を合わせても全然長編にはならないものだなと感じた
じゃあ長編とは一体なんなのか?という漠然とした問いもその頃から芽生えていた
ミシェル・ゴンドリーだと数々のMVが面白いし、長編の『エターナル・サンシャイン』もめちゃ良かった
本作は果たして長編になっているのか?と勝手に心配していたけど、冒頭からしっかり間を使って長編という雰囲気が漂っているのは良かった
エキストラを演じる男の話ということで、主体的な役割を持たない、フォーカスが合わない、フレームの外に生きるという舞台裏的な視点が面白く、序盤は構造的にわりと分かりやすくクラクラ感を出していた
後半になると構造的な部分は抑え、余白たっぷりにアートな方向に寄せていったなーと感じる
メディア芸術をセンスではなくルールを見出して構造から作るというのがSFCでの佐藤研だったので、正直もっとクラクラするような構造的な面白さでいってほしかったという(勝手な)気持ちがある。けどまあそれだとあんまり長編映画の文脈として評価されづらい気はする
話自体は主演香川照之ということもあって、設定的にちょっと似ている『鍵泥棒のメソッド』や『ゆれる』の印象がちらついた
エキストラの話ではあるけど、結局主人公としてフォーカスしているので、エキストラ役を演じる香川照之の背後に映る本当のエキストラの人たちが気になってめちゃくちゃ追ってしまった
佐藤先生もカメオ出演していたらしい
そういう意味ではビアガーデンのシーンが演出的に一番妙味を感じた
ビアガーデンに人がたくさんいるのに本番撮影前のエキストラ達だから全くの無言で静まり返っているというシーンになっていて、ビアガーデンという場所からするとありえないちょっとした違和感というのが構造的に好きだなーって思った
https://youtu.be/rGkhcwHTaI8?t=792
あんま関係ないんだけど、昔『Thirty Flights of Loving』というゲームのビアガーデン的なシーンで群衆が浮かんでいく演出があって、開発者コメンタリーによると意図しないバグだったんだけど気に入って採用したという話を思い出していた
https://gyazo.com/c69e41143299cd0ce31687d019829e7d
観終えて外に掲示してあった解説を読むと、脚本的には橋本忍っぽいのをやりたかったと書かれてた
そうなると『切腹』のようにもっと畳み掛けるようなインパクトを期待してしまうし、橋本脚本でやっていたみたいに2つの話をニコイチにするような密度が欲しかった感じはする
観た人の感想を漁っても、脚本的なところにはあまり触れず香川照之の演技がすごいって話ばっかりだった…
『複眼の映像』では橋本忍が黒澤明と小國英雄との3人で脚本作りしていた話があったので、それが3人監督という体制ではどのようなシナジーを生むことができたのだろうかと思ったりした
橋本脚本の場合は共同でネタ出しするのではなく、まずは橋本一人で第一稿を書ききって、それを元に黒澤が第二稿を書き、小國は敢えて書かずにレビューに徹するという体制にしていて(ここがすごい)、それが数々の名作を生むためには理想的だったと言っていた
11月19日(土) 入院3日目、退院
なんとか一晩やり過ごして退院日の朝を迎える
https://gyazo.com/13a959b947da524d6b5c5d68046a5498
朝食
一昨日の夕食以来だから1日半ぶりの食事
点滴と心電図を外してもらい、身体にいろいろつけてたものからすっかり解放される
何事もなく歩けるのがこんなに便利だとは
再び10段階の痛みのチェック。特に痛みはないので0点と回答
https://gyazo.com/fd6cbf6e0deb69b99596441ff386be84
先生から術後の説明を受ける
こんな感じで無事にプレートで固定された
骨折というとギプスでガチガチに固定するイメージがあるけど、鎖骨の場合は手術痕にガーゼを貼ってるくらい
上から防水フィルムも貼ってあるのでシャワーも浴びられる
あとは三角巾で腕を吊っている(邪魔なときは外してる)
2,3ヶ月は腕を上げず重いものを持たないようにして経過を見ていく
今のところは特にリハビリとかは無い
前かがみに脱力して腕を下げる運動を5回3セット毎日やってくださいと言われた
飲み薬が処方される。抗生物質が2日分、あとは痛み止めが2週間
https://gyazo.com/746b79f6e20d746dc18fa79c6d4184c5
着替えて荷物をまとめ、会計してあっさりと退院
今回の医療費は16万円ほど
高額医療費制度は所得によって適用額が異なり、自分の所得だと絶妙に適用されないくらいだった
帰宅
やっぱり自宅のベッドとストレスレストーキョーが良すぎる
11月18日(金) 入院2日目、手術
一晩過ごして手術当日
病院のベッドは自宅ベッドと違ってかなり腰が痛くて寝るのがつらかった
https://gyazo.com/449bfbf5b36ab0034a6a010e72f315a8
コイル入りのマットレスに比べるとどうしても体圧の分散が難しい感じ
長期入院だとかなりつらそう。慣れなのかもしれないけど
手術着に着替えて手術室まで歩いて行く
麻酔で一瞬で終わるはずだけど、手術室の物々しさにだんだん緊張してくる
手術前に麻酔の先生にいろいろ説明される
全身麻酔で筋肉の動きも止めるから呼吸が止まりますと言われる
話し方がなんかすごい独特で聞き取りづらく、いかにも麻酔医っぽいなって感じてしまう(偏見)
点滴と酸素マスクを装着され、だんだんトローンとしてきますよと言われて意識を失う
手術が終わり意識を取り戻したときには人工呼吸器を装着されていたようで、自分で呼吸しようとしてもできなくてちょっともがく
寝かされたまま運ばれて病室に戻る
左腕には点滴、胸には心電図、手術した右腕は麻酔がきいていて感覚が全く無い
足は血流を促すような装置が装着されている
口には酸素マスクが装着されていてこれがけっこう苦しく感じて外したかったけど、術後3時間は装着してないといけないと言われる
全身身動き取れない状態でまずは3時間過ごす
眠ろうとしても1時間くらいで目を覚ましてしまいなかなか経過しない
https://gyazo.com/771a5e7ed4611d72966668cc476e583a
3時間経過して酸素マスクを外し、やっと少し楽になる
右腕の感覚が無く、ただずっしりとした重さのみがある
両腕を切り落として人体軽量化したら100m走とかでより記録を伸ばせるんじゃないかとか思ったりした
だんだん指先の方から感覚が戻ってくる
最初指が腹の上にあると思っていたら、腰の方にあったのですごく不思議な感覚だった
一回トイレ行きましょうか、ということで足の装置も外して立ち上がる
右手の感覚は無いし、左手は点滴持って歩かないといけなくてだいぶ不便
右目にゴミが入ってしまったのがめちゃくちゃつらかった
右手は動かないし、左手では何度やってもうまく取れない
まだ顔を洗うこともできなかった
https://gyazo.com/1cfa3cccb58143144b7f0b0f319ce91b
夕食
朝、昼と食べてなかったので食べたかったけど、お腹の調子が気持ち悪くて全く食べられなかった
お茶だけ飲む
夜
今日は一日寝てたのでなかなか寝られない
ゆうべはそんなに気にならなかったけど、同室の人のいびきがかなりうるさく感じるのもつらかった。こういうときのために高い金払って個室利用するのか
右腕の感覚が戻ってくると、だんだん痛みも出てきた
痛みのせいもあって寝付けないので夜中に初めてナースコールを押す。痛み止めが欲しいと言ったら座薬を入れられた
11月17日(木) 入院1日目、読書
骨折してから約2週間、ようやく待望の手術のために入院が始まった
今回は手術の前後を含めて2泊3日の入院
入院するにあたっていろいろと手続きが多い
入院申込書
手術同意書
麻酔同意書
輸血同意書
入院患者のアンケート的なやつ
タオルや衣類などのレンタル申込み(1日400円)
…などを一通り記入して提出
入院時には頭金として5000円払う
https://gyazo.com/f1a8374b5474a6f6fa92227ce8c4962e
部屋は追加料金のかからない4人部屋を選択
追加で5000円や1万円払うと2人部屋や個室になる
もっと窮屈なのを想像してたけど、4畳半くらいあるし窓からの景色も良かった
現状の痛みはどのくらいですかと聞かれる
人生最大の痛みを10点として何点かという質問
腕を下げていれば0点、水平以上に上げようとすると3点くらい
隣の患者の人は8点とか言ってたのですごいつらそうだった
同室の患者の人、カーテンで仕切られてて目にすることはなかったけど、みんな看護師にありがとうって言ってて礼儀正しい感じ
自分と同様に整形外科で入院していて若そうだった
自己中で他人につらく当たる人は高齢者って印象が強いけど、あれは世代的なものなのか、体調が厳しい状態になると礼儀も何も無くなるんだろうか
氷河期世代になると他人を怒るよりも自罰的な気がする
https://gyazo.com/0e867515ea925bfbb168610b3f5fbd26
11時からの入院だったので部屋に着いて早々に昼食の時間になった
なんか入院食ってもっと最悪なのを想像してたので、まあ社食っぽいというか味付けもしっかりして全然おいしくて安心する
食器やおぼんがプラスチックじゃなければ食べるモチベーション的にもっとマシになるんだろうなと感じてしまうけど、食器で味が左右されるのって改めて考えてみると不思議な感覚かもしれない
小中学生時の学校給食がどうにも最悪な体験としてずっとトラウマになっていて、トーストしてない食パンとか、謎のうどんとか、白米と牛乳という食べ合わせの悪さとか(これのせいで全く牛乳を飲まなかった)、ああいう嫌な思い出のせいで施設で提供される食事にめちゃくちゃ抵抗がある
今どきの給食だともっとマシなんだろうか
絶対に小中学校の教員にはなりたくないなと思ってるくらい給食が好きじゃない
売店で飲み物数本と明日の手術で必要になるTパンツというものを買う
部屋には冷蔵庫があるけど、テレビと一緒のシステムで有料になっていてテレビカードを買わないと電源が入らないとのことだった
別に常温で構わなかったのでそのまま入れた
16時に入浴(シャワー)
https://gyazo.com/4e3c224119d2bfcf1ecca918454c9d33
18時には夕食
入院すると食事くらいしかイベントが無いからこういう写真を撮りがちなんだろうなって思う
いつも一汁一菜だから自宅の食事より豪華かも
21時に消灯
https://gyazo.com/6912e9e35461ab2e23638cd800b9eb03https://gyazo.com/ebedc0eee9e1662b5de1d1082f9ccb5a
今日は手術前で完全にヒマなのでずっと本を読んでいた
kindleにも積読がたくさんあるけど「電子機器は原則として持ち込み不可」とのことなので文庫本を持ってきた
これはタブレットとかでもダメなんですか?って事前に聞いたらちょっと苦笑いで曖昧な答え方をされた
連絡や決済用にスマホは利用できるので、あくまで公にはOKとは言えない形骸化した原則なんだと思う
特に音が出たりキーボード音がうるさかったりするとトラブルになりそう
病室で寝ようとすると隣の患者のイヤホンのかすかな音漏れでも気になってしまうくらいだった
『ユニヴァーサル野球協会』は1968年に書かれたアメリカの小説
自宅でダイスを振って架空の野球リーグを一人で進行していく中年会計士の男が主人公
こういう箱庭ゲーム的なものが好きな人にはピンと来そうな感じの物語
タイトル自体はけっこう昔から聞いて気になっていて、電子書籍化されてないので文庫版を買っておいた
たぶん伊集院光のラジオとかで知ったんじゃないかなと思う
読み始めてみると、架空の野球界で新鋭のピッチャーが数十年に一度の完全試合を達成しようとするところから始まり、そのスタジアムの熱気と試合を進行する男の興奮が文体に満ち満ちていてかなり楽しくなってしまう
これほどの熱気が外界の現実とはまったく関わりがなく、あくまでこの主人公の男の脳内でしか繰り広げられていないという状況にすっかり親近感をおぼえる
こうした内面世界がやがて内面だけにとどまらず外面にも影響を及ぼしていく
乱数によって一喜一憂するというのはゲームの基本だけど、この架空の野球リーグはその世界の中で56年間も積み重ねられている
選手は歳を取れば引退し、名選手であれば監督になったり理事長になったりもする
冒頭の完全試合を決めた投手の父親もかつての黄金時代を作った名選手だったりするなど、現在の選手や監督などを引き合いにして過去の選手の栄光や因縁などがあふれるように語られていく
それらはまったく全て架空であり、この小説の主人公の脳内にしか存在しないもので読者には共感などしようがないというのに、とにかく主人公にとってはそれが現実と同等かそれ以上に大事になっているということがめちゃくちゃ伝わってくる
こうした架空の歴史を積み重ねるゲームというのはいろんなシミュレーションゲームのジャンルとしてあるけど、特に競馬シムの『ウイニングポスト』なんかが近いんじゃないかと思う
競馬は活躍馬を配合して次世代を作っていくものなので、開始時は現実と同様の競馬世界であっても数十年進行させていくとプレイヤーにしか分からない全く独自の血統体系になっていく
ここはわりとバランスが難しいところで、全てが架空になってしまうと誰にも共有できないし思い入れも持ちにくい。そのため歴史上の一定期間でプレイするモードが追加されるようになったりもした
『ユニヴァーサル野球協会』だとリーグ発足時から全てが架空のものとして創造されており、選手名やチームなどひとつひとつ全て自分で作っていくというかなりハードな設定。だけどそれゆえに、年月が進行していっても細部まで思い入れが持続しやすいのかもしれない
この本から着想を得た『ユニヴァーサル相撲協会』というシミュレーションが作られている
https://www.youtube.com/watch?v=XltBJWnPhGI
「ゲーム性はまったくありません」と作者の方が言っているとおり、見ているだけだし普通のゲームのように楽しめるものではない
ただシーズンの経過とともに優勝争いや三賞の発表、対戦成績、番付変動、故障による休場など、ランダムのゆらぎにすぎない歴史が形作られていくところに不思議と思い入れをもって眺めてしまう
以前作った全く操作しなくていい野球シム(お米の買い付け管理だけやる)も、対戦チームの能力分布と各イニングのスコア算出についてはわりと納得感のある計算式にしていて、全国制覇を目指していく過程を眺めるだけで勝手に一喜一憂するという点では目指しているところが近い感じはする
表からは見えないけど、甲子園はトーナメント戦なので4096校(2^12)を裏でちゃんと戦わせて対戦相手として勝ち上がってくるようにしている
こういうのでいずれ学校シムを作りたいというのはずっと思ってる
ランダムなパラメータの生徒が毎年入ってきて学級を形成し、生徒間の活動や相性によってソーシャルグラフやヒエラルキーが構築されていく
バランスに問題があれば学級崩壊を起こしたりする
それを眺めて席替えやクラス替え、退学など最善の一手を考える、という地味な経営改革シミュレーションがやりたい
『ユニヴァーサル野球協会』の具体的なゲームシステムはわりと後半になって説明される
選手は年齢や成績に応じてルーキー、レギュラー、スターの3タイプに分かれ、スターはルーキーに対して強く、ルーキーはレギュラーに強いなどシンプルながらなかなか納得感のあるシステム
ダイスを3つ使い、その出目と前述のタイプの組み合わせに応じた行動結果一覧表が用意されている
これは当時実際にこういうゲームがあったのかなと思う
箱庭ゲームは基本、エンターテインメントとして理想的に発展していくのでその過程が楽しいのだけど、それがゆえにいくつか不満も感じていた
現実の競馬だと競走中に骨折して安楽死というのが最悪の悲劇である反面、ドラマとして深く思い入れを残したり、番狂わせを生じさせたりする
でも『ウイニングポスト』だとそもそもシステム的にそうしたアクシデントが起きる仕組みが無かったし(プレイヤー管理馬だけはあったかも)、わざわざネガティブな要素を入れる必要もないという判断にも思える
架空の箱庭で悲しいことが起こらないというのはストレス無く遊べるけど、良いこともあれば悪いこともあるというのが現実なので、そこに少し物足りなさを感じてしまう
その点『ユニヴァーサル野球協会』では良いことも悪いことも起きるようにフェアに作ってあって、そこがいい
フェアであることによって偶然の積み重ねに意味が生じていく。出目が悪いからといって受け入れないと歴史が無価値になってしまう
現代はとにかくなんでも世界中にシェアできてしまう時代であるのに対し、誰にも共有することもなくただひたすら己の内面にのみ存在し、それがあたかも神話的な力を持つという物語にすごく好感を抱いた
誰に知られることもなくアウトサイダー・アートを描き続けたヘンリー・ダーガーにも通じるかもしれない
https://gyazo.com/d05b6661c87742691298cf09915e75b2
「そのうち妙なことを思いついたんだ。ヨーロッパ風の教会じゃなく野球場こそが、ほんとのアメリカの神殿じゃないかって」
「スコアカードさえあれば十分だってわかったからさ。本物の試合なんていらなくなってしまったんだ」