ホモ・サピエンスの拡散
遠い昔に一度アフリカを出て、
再び生まれ故郷の大陸に閉じ込められることになったという見解は、分子人類学の結論と一致する。
現在生きている世界中の人間の集団から得た一連のDNAデータを徹底的に比較した結果から、
私たちの種の起源はアフリカ大陸のどこかにあることがわかっている
(おそらく東部か南西部である可能性が高い)。
その起源となる 集団は後に北、南西へと広がって、故郷の大陸すべて、
そして最終的にはユーラシアと世界全体に 移り住んだ。
そうやって広がるうちに個体群は拡大し、地域ごとに多様化した。
アフリカ大陸の中では
少なくとも一四の異なる現代人の系統が祖先の個体群の血を引いていることが判明しており、
それ ぞれが独自の変化を遂げている。
遺伝子の多様性の度合いだけをとってみても、
世界各地のデータと 比べると、
アフリカではそれ以外の土地よりも長く人類の進化が続いていたことがわかる。
反論の余地などないかのように、
世界各地に見られる主な遺伝子系統はすべて、アフリカで発見された種類が
多様化した下位集合であると解釈することが最も適しており、
ここでもまた私たちの種の起源がアフの
一連の分子の研究は、起源となった個体群はアフリカにあっただけでなく、
非常に小さい集団 だったと結論づけている。
ヒトの個体群には様々なDNAの系統が存在するが、
その種類はほかの種、 近縁種のものと比べると多くない。
西アフリカのチンパ ンジーの個体群は、今日の人類全体よりもmtDNAに多様性があると言われている。
これは次の 二つの説のどちらか一方、あるいは両方を意味している可能性がある。
一つは私たちの種そのものの 起源がかなり新しいため多様化する時間があまりなかった、
もう一つは起源となった個体群がきわめ 小規模だったとする説である。
結果としては、両方の要因が関与したように思われる。
ホモ・サ ピエンスが非常に若い種であることは明らかだ。
だが、それだけではない。今日のヒトのDNA変異 型の拡散状況に関する詳細な分析から、
古代のヒトの個体群が更新世末期に一度。
あるいは複数回の厳しい人口減少を経験してきたことを強く推定させるようなパターンも示している。