実有の類型
いいテーマですね!「説一切有部(せついっさいうぶ)」の存在論における 五つの「有(存在)」 の分類について、順に整理して解説します。
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説一切有部の存在論の特徴
説一切有部は、アビダルマ仏教の中でも「実在論(リアリズム)」的な立場をとった部派仏教で、あらゆる法(ダルマ)は「三世実有」(過去・現在・未来の三世にわたって実在する)という独自の見解を持っています。その中で「有」の捉え方を細かく分析し、五種の「有」として体系化しました。
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1. 実有(じつう)
• 意味:本質的に存在するもの。他に依存せず、独立して実在する。
• 具体例:色法(物質的なもの)、心法(心そのもの)、心所法(心の働き)、無為法(涅槃など)。
• 説一切有部の核心であり、ダルマ(法)はこの「実有」であるとされます。これは、過去・現在・未来にわたってその自性が存在し続けるという「三世実有」の理論に支えられています。
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2. 仮有(けう)
• 意味:五蘊(ごうん)、つまり色・受・想・行・識などの諸法の集合が仮に「存在している」と認められるもの。
• 具体例:人間や動物、机など、個々の実有(法)の集合によって成り立っているもの。
• ポイント:それ自体に実体はなく、分析すれば個々の法(実有)の集合体にすぎない。「人間」などは仮に存在が認められているにすぎない、という見解。
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3. 期待有(きたいゆう)
• 意味:「因果関係」のなかで、未来の存在を「期待」することによって認められる有。
• 具体例:因(原因)があれば必ず果(結果)が生じる、という期待に基づいて「結果」の存在が認められる。
• ポイント:「原因」だけが目の前にあっても、「未来の結果」が必然的に「有る」とみなされる。説一切有部の「業(カルマ)」とその報いの理論にも関連。
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4. 名有(みょうゆう)
• 意味:「名(名前)」があることによってのみ認められる存在。
• 具体例:概念や言葉そのもの。「空」や「無我」など、実態としては把握できないが、名前を持つことによって対象として想定されるもの。
• ポイント:「名辞(めいじ)」が存在の条件となっている。名を与えることで認識されるが、それは実体ではなく、言葉による約束に過ぎない。
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5. 和合有(わごうゆう)
• 意味:複数の要素が「和合」することによって成立する存在。
• 具体例:身体や人間の人格、組織や社会など。五蘊や十二処、十八界など複数の法の和合によって成立する。
• ポイント:「仮有」と似ていますが、より「機能的・作用的」側面を強調します。実有の和合によって一定の作用(人間の働き、社会の秩序など)が生じることを表す。
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簡単な対比
種類 概要 例
実有 本質的に存在するもの 色法、心法、心所法、無為法
仮有 実有の集まりによる仮の存在 人間、動物、建物
期待有 因から必然的に果が生じることによる存在 業と報、未来に生じる結果
名有 名称によって認められる存在 空、無我、虚空、概念
和合有 諸要素が和合して機能する存在 身体、人格、組織、社会