折り返し
アドベントカレンダー15日目、みなさんご存知ネットでくだまく触手ぴーすです。
寄稿イラストを描こうかと思ってはいたのですが、まだ日にちあると思っていたらもう30分後には15日ではありませんか(執筆時点)掌編小説にアドベントカレンダー要素を加えてお送りします。
こんばんは(執筆時点)
ここから先の文章は思いつくがままにつらつらと書いていきます。
物好きな人は読んでね・・・もの好きじゃない人も気がむかたら読んでね。
もの好きでも気が向かなかった人は、ここまで読んでくれてありがとう!来年もよろしくね!第一部完!
・・・電車でふと目が合った人との間に生まれる、あの微妙な緊張感に近い関係性。小さいことだが後戻りはできない偶然から生まれる関係性。
mixiには誰もいないが、誰かがいる
彼女がmixiを開いたのは、午後11時47分だった。
ログイン画面には見覚えのあるオレンジ色のロゴ。パスワードを入力する。二度間違えて、三度目で成功した。曖昧な記憶から設定したであろう誕生日に適当な単語を加えたパスワード。ホーム画面が表示された。自分のアイコンの下に表示される「連続1日ログイン中です」という文字列。彼女は画面をスクロールする。
マイミクのリストは500人を超えたハンドルネームが並んでいるが、そのうち最近ログインしているのは3人だけだった。
入り浸っていたコミュニティの更新情報を見る。最後の投稿は6ヶ月前。「久しぶりに来てみました」というタイトル。返信は0件。
彼女の部屋は暗く、モニターの光だけが青白く壁を照らしている。窓の外では冷たい雨音。。
マイミクの日記を順番に開いていく。こちらは
一人目。最終更新は2012年。「就職が決まりました!」というタイトル。今は2025年。もう13年前の話だ。コメント欄には「おめでとう!」が並んでいる。絵文字が古い。顔文字の種類でさえ、時代を感じさせる。
二人目。最終更新は2015年。「Twitterに移行します」という告知。リンク先のTwitterアカウントは、すでに存在しなかった。
三人目。2018年まで更新されていた。最後の日記は「八重桜が咲いていた」。返信はない。誰もいない場所で日記を書いていた。ここから書かなかった理由は内容からはわからなかった。
四人目、五人目、六人目。
日記は凍っていた。時間が止まった瞬間が、そのまま保存されている。引っ越しの報告、結婚の報告、子供が生まれた報告。人生は続いているはずなのに、ここでは全部過去形だった。
彼女はコーヒーを一口飲んだ。冷えていた。
コミュニティを開く。
参加人数は1,247人。でも、最後のトピック投稿は2014年。11年前。スレッドのタイトルを読んでいく。「侍魂読んでた人」「ろじっくぱらだいす」「あやしいわーるど」。懐かしい名前が並んでいる。当時の懐かしいものを語るスレだ。
彼女はその中の一つを開いた。
83件の書き込み。2008年から2014年まで続いていた。最初の方は活発で、一日に何十件も書き込みがあり。コミュ内でのオフ会もいくつか開催されていた。でも徐々に更新間隔が空いていく。週に一度、月に一度、半年に一度。そして、止まる。
最後の書き込みは、「また来ます」だった。
でも、その人は来なかった。
彼女は自分の投稿履歴を開いた。2006年から2011年まで。深夜に長文の日記を書いていた。読み返すと、恥ずかしくて顔が熱くなる。でも同時に、懐かしさも感じる。あの頃の自分は、確かにここにいた。そして今は自分であって他人のようにも感じる。
午前0時を過ぎた。彼女は「日記を書く」ボタンをクリックした。テキストボックスが開く。カーソルが点滅している。
何を書こう。
誰も読まないかもしれない日記を、なぜ書くのか。でも、誰かが読むかもしれない。今日ではなく、明日でもなく、もしかしたら一年後かもしれない。誰かが自分と同じように、深夜にmixiを開いて、廃墟を探索するかのように、偶然この日記にたどり着くかもしれない。
彼女はキーボードを叩き始めた。
「久しぶりにログインしてみました。誰もいないけれど、まだここは存在しています。以前はなかった広告は流れ、スパム乗っ取りの残骸メッセージが散らばっていてまるで廃墟のようだけど・・・まだ崩れていない。
昔の友達の日記を読み返していたら、変な気持ちになりました。タイムカプセルを開けたような。でも、ここに埋めたのは過去の自分だけじゃなくて、過去のインターネットそのものだったんだと思います。
もっと昔のインターネットはほとんど閲覧不可能だけどここはまだある。誰もいないけど。でも、だからこそ落ち着く。
また来るかもしれません。来ないかもしれません。でも、この文章はここに残ります。誰かが見つけるかサイトが閉鎖されるまで」
投稿する。
画面が更新された。彼女の日記が、最新の投稿として表示される。閲覧数は1。自分だ。
でも、数字はこれから増えるかもしれない。増えないまま消えてしまうかもしれない。
彼女はブラウザを閉じようとして、手を止めた。
メッセージが届いた。マイミクの一人が、たった今ログインしていた。最終ログインは「1分前」。
「久しぶり。まだmixiにいたんだね。私も最近、たまに来てる。誰もいないと思ってたけど、いるんだね、まだ」
彼女は返信を打った。
「いるよ。たまに。廃墟探索みたいな感じで」
「わかる。私もそう。でも、廃墟って誰もいないわけじゃないよね。探索してる人がいる」
彼女は笑った。声は出さなかったけれど、確かに笑った。
「そうだね。また来るよ」
「うん。またね」
緑のマークが消えた。相手がログアウトした。でも、彼女はまだログインしている。
画面には静かなマイページが表示されている。誰の更新もない。何の通知もない。でも、ここは存在している。サーバーのどこかで、データベースの中で、静かに。
彼女はブックマークに追加した。フォルダの名前は「巡回」。
また来るかもしれない。来ないかもしれない。でも、ここは残る。
終わらない場所
午前1時を過ぎた。
彼女はログアウトして、ブラウザを閉じた。部屋が暗くなる。モニターの残像が、網膜に焼き付いている。
窓の外では、雪が降り続けていた。街灯の光が、白い結晶を照らしている。
mixiのサーバーは、今も動いている。誰もいない部屋で、誰かを待っている。廃墟は生きている。訪れる人がいる限り。
彼女は布団に入った。目を閉じると、オレンジ色のロゴが浮かんだ。
また会おう、と誰かが言った気がした。
誰が言ったのかはわからない。でも、確かに聞こえた。
冷えたコーヒーカップの隣で、スマートフォンが一度だけ光った。通知ではなかった。ただのバックライトの反射。でも彼女は起き上がって、画面を確認した。
mixiからの通知だった。「あなたの日記が閲覧されました」
閲覧数は3になっていた。
彼女は微笑んで、また眠りについた。廃墟には、まだ誰かがいる。
これからも。