はじめに
私たちは日常において様々な製品、サービスについて語ることが多い。たとえばその話題はコンビニの棚に並ぶおにぎりであったり、自分の好きな本、映画やテレビ番組、最近使ったネットサービスに至るまで多種多様だ。このような消費者間のコミュニケーションは「クチコミ」と呼ばれ、世の中ありとあらゆる場所にあふれている。そして近年のネットワーク技術の発展、スマートフォンの普及によって様々な情報をどこでも、手軽にインターネット上からクチコミを得られるようになった。
しかしこれだけインターネットが普及した現代においても、個人が持っている情報がインターネット上すべてに流布しているかというと全くそうではなく、たとえば地方に旅行に行って地元の人に人気のレストランを探そうとすると、なかなか骨の折れる作業である。一般的なグルメクチコミメディアでは、観光客に人気のレストランは出てきても地元の人に愛されるいわゆる穴場的なレストランはなかなか出てこないのである。
また、上記の数的な懸念に加えて、インターネット上に散見されるクチコミが、われわれ一般消費者が「信頼できる情報」とは限らないという、質的な問題も存在する。たとえば、「渋谷 居酒屋」と検索したときに検索エンジンからおすすめされる飲食店は、果たして不当な料金を請求されない、真の優良店なのかを瞬時に見定めるのは難しい。このように、商業的な側面を少なからず持つ今日のクチコミメディアでは、たくさんの情報の中から消費者にとって真に「信頼できる情報」を得ることもまた難しくなっている。
このような現状に問題意識を感じ、普段インターネット上で積極的にクチコミをしない人々が、「インターネットでクチコミをしたいと思える」、かつ、「信頼できる情報を得られる」新しいクチコミメディアを検討し、実証実験、考察を行いたいと考える。
しかし、質的な部分であるクチコミの信頼性や重要度に関する学術研究は多数存在するが、数的な部分であるインターネット上でのクチコミ促進の要因については、十分な知見が蓄積されていないと考えられる。本研究ではこうした条件のもと、先行研究からクチコミを促進させる要因、抑制する要因、またクチコミの信頼性を高める要因に焦点を当て、メディアの提案を行いたいと考える。