【1-4】先行研究を経た考察
私たちが色々なものを取捨選択する中で、他者からの情報が重要であることは身をもって感じることだろう。 eクチコミもまた、私たちの行動に少なからず影響を及ぼしてきた。
知らない土地で急に⚪︎⚪︎が食べたい、といったときに、インターネット上で何かを検索するのはもはや私たち現代人にとって当たり前の行動である。だが、冒頭で述べたように、現在のインターネット上には信頼性を疑うようなクチコミの存在や、クチコミ情報量の不足に悩まされることも多い。
先行研究によると、クチコミの影響力、信頼性を強固たらしめているとされる三つの要素(「ノイズ」「懐疑的態度」「つながり」)が挙げられているが、eクチコミにおいてはクチコミ研究によりその影響力が明らかになったことによりその三要素の立場がゆらいでいる現状が存在する。そのため消費者はeクチコミ、ひいてはクチコミメディアに対して懐疑的となり、eクチコミ自体が信用を落としているという結果につながっているのではないかと考えられる。
例えば、近年ではクチコミ研究も盛んになり、クチコミを利用した商法が企業戦略に大体的に取り込まれるようになった。そのような背景からクチコミの効果を利用しようとする商品、サービスの売り手からの不当な多数のクチコミ(サクラ)が増加したり(そのためにamazon商品でサクラをチェックする「サクラチェッカー」なるサービスも存在する)、有名クチコミサイトである食べログにおけるクチコミの影響力を利用した点数不正操作といった問題が生じている。
他にも身近なものでいうと、SNS上の営利目的をもつクチコミの一環としてeプロモーションが存在する。eプロモーションとは、いわゆるインフルエンサーと呼ばれるSNS上で大きな影響力をもつ利用者が、モノ、サービスの送り手側から報酬を受け取る代わりに、あたかも自分がその商品を愛用しているかのような投稿をする、というものである。このような本音ではない、金銭を介した情報に信頼性を感じられない経験をしたことがあるという消費者も多いのではないだろうか。
このような営利目的といった不純な動機を持った「素性のわからない発信者」が投稿する情報も増加しており、従来はマスメディアにおける広告などに向けられていた懸念要素が、eクチコミにも向けられており、情報の信頼性、重要性が落ちていると考えられる。
つまり、商業的な理由で発信されているクチコミが多数存在することが、自分にとって最適な情報を取捨選択するための障壁である「ノイズ」となり、有名クチコミメディアである食べログの点数不正操作問題や、クチコミの効果を利用しようとする業者からの営利目的での「クチコミの形を模した広告」(サクラによるクチコミ数増進・虚偽の記載やeプロモーションなど)によって「懐疑的態度」が強まっている。そして消費者にとって「つながり」が薄く、そのような使用するに値しないようなクチコミを投稿しうる「素性のわからない発信者」の存在によって、インターネット上に存在するクチコミへの信頼性、重要性が落ちていると考えられる。
さらにこのように、三要素が信頼性を向上する方向に担保されないということは消費者が閲覧しているクチコミへの信頼を失うだけでなく、消費者自身が投稿するクチコミの信用も落ちていると感じさせ、クチコミ投稿を抑制する要因となりうると考える。
上記の理由から、三要素は信頼を高めるだけでなく既存のクチコミメディアにおいてクチコミ投稿を抑制する方向に働いており、また三要素が確実にそれぞれクチコミの信頼を高める方向へと条件づけられるメディアを利用すれば、クチコミメディア利用者に信頼度の高い情報を届けることができるのではないかと考える。
また、先に述べたように、一般的にみられるとされる独自性欲求の高い消費者にとっては、クチコミを発信する際に「異なる社会集団」に属する可能性のある、不特定多数の人々から見られている環境は、クチコミ発信を抑制する要因となっている。また、それと同時に重要度の高い情報(自分にとって関わりの深い情報)を秘匿する要因にもなっている。
このため、異なる社会集団ではない人物、すなわち心理的に信頼関係があり、親密度(つながり)の高い他者との情報交換を目的としたメディア内では独自性欲求が生じないという仮説を設定することができる。上記の理由から、つながりをもつ消費者同士のクチコミメディアが利用者から情報発信を促進するために有用であると考えられる。
先行研究からの考察より、以下の点を中心に実験を通して検討したい。
i「既存のクチコミメディアからのクチコミは、ノイズ、弱いつながり、疑念的態度の三点において信頼性を失っており、本三要素はクチコミ抑制効果をもつ」
ii「強いつながりをもつ消費者同士のeクチコミコミュニティでは独自性欲求がはたらかない」
iii「ノイズを除去し、強いつながりをもつ被験者同士のメディアを用いることで消費者のクチコミ行動を促進することができる」