【1-3】クチコミ発信を抑制する要因「独自性欲求」に関して
日々さまざまなメディアを見ていると、「本当は教えたくない」や、「とっておきの情報」といったキャッチコピーがついた商品や店が紹介されているところを目にすることがあるのではないだろうか。
こういったキャッチコピーには他のクチコミとは異なる特別感を感じてしまい、ついついなんだろうと目を奪われる機会もあるかもしれない。こうしたキャッチコピーがなぜ魅力的かというと、人間は自分の身に着けていたり、普段利用しているもの・ことについて秘匿したい、という性質をもっており、そのような「秘匿したい情報をわざわざ出している」という事実に特別感を抱くからだ。この秘匿したいという欲求は「独自性欲求」と呼ばれている。
クチコミ促進の要素となる、個人の心理に関する最近の研究として、「独自性欲求」とクチコミの関係にまつわるものが注目されている。
近年、異なる社会集団に属する他者からの模倣を避けるために、消費者自身が選択した製品の情報を秘匿するという行動が指摘されるようになり、これこそが「独自性欲求」によるものであるとされている。
独自性欲求について、Snyder & Fromkin(1977)によると、人間は誰でも、他者とは異なる独自な存在でありたいという「独自性欲求」をもつとされている。これは“自尊感情を高めるようなポジティブな側面における他者との差異の認識に対する欲求”であり、独自性とは社会的に受容される差異であると考えられている。
岡本(1991)によると、日本人は欧米に比べて独自性欲求が低いと指摘しているが、山岡(1995)による研究では独自性欲求は日本人でもごく一般的に抱く心理だとされる。
また小野・菊盛(2017)によると、類似製品回避行動欲求を、他者との類似製品を回避するという欲求、また不人気製品選択型非同調行動欲求を、不人気な製品選択をあえて行うことによって他者から模倣されることを積極的に予防する効果をもたらす欲求と定義した上で、「類似製品回避行動欲求の高い消費者や不人気製品選択型非同調行動欲求の高い消費者が正の口コミ(インターネット上において)を発信しないのは、自身が所有しているブランドが他者の間で普及してほしくないからであり、これら 2つのタイプの独自性欲求の高い消費者は、自身が選択したブランドを推奨するような正の口コミを発信しない」としている。
上記のように、独自性欲求が生み出す消費者の情報秘匿欲求が、不特定多数から見られる現代のeクチコミメディアにおいてクチコミ数増加の促進、重要度の高い情報の開示を妨げる要素となっており、重要度の高い情報を消費者から大量に引き出すことが困難になっていると考えられる。