【第1章】 問題
【1-1】 従来のクチコミ研究
インターネットの普及する現代社会において対面でない、インターネット上におけるクチコミの重要性が急激に高まっている。
そもそも「word of mouth」、つまりクチコミという言葉は、1533 年には英語辞典に収録されるほど非常に古くから日常的に使用されていた。 (Nyilasy, 2005)。
そして1999年代後半にインターネットが登場し、一般的なメディアとして消費者の間で普及するのに伴い、消費者はそれまでの対面クチコミではない、インターネット上のクチコミ、すなわち e クチコミかに触れることができるようになった。Henning-Thurau, 他(2004)によると、e クチコミとは潜在的な、実際の、もしくは過去の顧客によってなされた製品や企業についての肯定的あるいは否定的な内容の主張であり、その主張はインターネットを介して、多数の人および組織にとって入手可能なものであると定義されている。彼らの定義において、e クチコミと従来のクチコミ(Arndt、1967)との違いは、前者が、インターネット上でやりとりされるという点にある。
近年のクチコミ研究として、消費者同士の関係性「つながり」に注目したものがある。研究内では、消費者同士の関係の強さを「紐帯」という概念で表現し、紐帯を用いると対人ネットワークの特徴が表現できるようになる。そして、紐帯を通してどのようにネットワークが出来上がるかを検討する。例えば、Brown and Reingen(1987)によると、接触機会が少ない知人といった弱い紐帯は集団を越えて商品情報が伝わる 「橋」 機能を果たすが、 接触機会の多い家族や友人という同質性の高い強い紐帯の方が高い信頼性を持ち、情報の流れを促進し、意思決定過程への影響力が大きいもつことなどが分かっている。
クチコミという言葉が生まれてから、何度となく本内容は議論を重ねられてきたが、多くの研究においてそのクチコミが持つ影響力に関する言及のみにおさまり、またクチコミを促進する要因については知見が少ない結果となっている。なおかつ、現代社会においてはこれらのクチコミの影響力の強さが露呈し、分析が進んでいるからこそ、クチコミ本来の信頼性が失われるという状況が生まれてしまうという問題点が存在する。