ぼくの妹は息をしている(仮)
「ああ、確かにかわいいなあ、その仕草が」
「えへへ、ありがと。じゃなくって! もぉ~ケー兄のわからずや!」
いや、わかるよ、画竜点睛というべきか、収まるべきところに収まって、急に輝き出すような印象を受けるのは。全体的に白いから主張しすぎることもなく、まとまった印象を与えてつつ、ユキの見た目をより女の子らしく、おしとやかに変えてくれるアイテムだ。水を得た魚もぎょっとする(魚と「ぎょ」をかけてる?)のではないか。しかしこんな高額商品をいきなりねだってくるなんて、お兄ちゃんは妹の将来がとても心配です。
(中略)
「えぇー……。しょぼーん……(中略、一部改変)ほしいよぉ……。がまんできないよぉ……。ひっぐ、ふぇぇぇぇん……」
これがいわゆる「ふぇぇん現象」というやつで、その痛ましさのあまり、ユキを中心に気温が上昇しているのを感じる。周りから吹き下ろされてくる視線に、なぶられたように頬が熱い。
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想像よりもパフェは大きく、また考古学的で、ぼくたちは昔砂場で遊んだように、時間をかけてじっくりと、ひとつの山を突っつきあって掘ることになる。ぼくはりんごのコンポートをフォークで刺しながら、カンブリア紀のむくつけき古生物の話をしてやった。するとユキはさくらんぼの種を吐き出しながら、恐竜を滅ぼしたあの隕石について聞きたがる。まるでデートみたいだが、花ぶちのグラスの中にはつねにあらたな発見があり、いろいろな地層がおなかの中に入っていった。ふと天井を仰ぎ見れば、こちらは糸で吊り下げられてある、天体を模した黒い切り絵がプカプカと泳いでいて、なんとも調和がとれている。
「家族とお買い物かぁ……」
だいたい八合目まできたあたりで、スプーンを指先でもてあそびながらユキがふと口を開く。そのときぼくは、自分たちが食べているのがそろそろパフェではなく、歴史なのではないかという気がしてきて、空席になったあとも椅子でありつづける椅子の永続性をぼんやりと考えているところだったが、ユキの視線はといえば、天井付近で旋回しているプロペラと、その影が横切るところの漆喰の影とを行ったり来たりしていて、要するに二人して白昼夢を見ていたようだ。