ナビエストークス方程式をひたすら作る
このスクラップでは、物理の概念と計算の流れに重点を置いて説明をしています。そのため、説明に文量が必要な数学的内容は別ページになっています。(もしくはないです)
参考図書は
「入門連続体の力学」 半揚 捻雄 日本評論社 と
「連続体力学(物理学基礎シリーズ)」 佐野 理 朝倉書店 です。
できるだけ正しく書いているつもりですが、間違っているところもあるかもしれません。この記事はイメージをつかむためにして、上記のような教科書でしっかり勉強することをお勧めします。(特に調べ学習の時)
0.どのような話の流れで作るのか、概略を説明します。
まず、このスクラップでは連続体力学において重要な式のうち2つを作ります。
一つは連続体の運動方程式で、普通の運動方程式と同じように物体の運動を記述します。
違っている点としては、普通の運動方程式は一つの質点を考えていましたが、連続体の運動方程式は大きさのある変形する物体を考えます。
この式は、力に対して変形するということは書かれているのですが、どのように変形するのかは書かれていません。
それぞれの物体はどのように変形するのか、物体特有の性質を表すには次の構成方程式が必要です。
もう一つの連続体力学に特徴的な式が構成方程式で、これは物体が力(応力)に対してどのように変形するかを記述しているので、物体の材料的な特徴を表します。
例えば、応力$ p_{ij}、速度$ \textbf{v}、変形$ u_{ij},e_{ij}、クロネッカーのデルタ$ \delta_{ij}として、金属(等方性弾性体)や空気(ニュートン流体)のような物体の構成方程式は
金属:$ p_{ij}= $ \lambda (div\mathbf{v})\delta_{ij}+2\mu u_{ij} ($ i,j=1,2,3)
空気:$ p_{ij}=-p\delta_{ij}+\lambda(div\mathbf{v})\delta_{ij}+2\mu e_{ij} ($ i,j=1,2,3)
のように書かれます。(現時点では式の意味を理解しなくて大丈夫です。)
このように物体ごとに違う式で、力(応力)と変形の関係を記述しています。
そして、取り扱いたい物体に合わせて構成方程式を選び、まっさらな運動方程式に適用することで特定の物体の運動方程式が得られます。
特に今回の場合はニュートン流体の構成方程式を使うことで、ニュートン流体の運動方程式であるナビエストークス方程式が得られます。
1.まずは取り扱うものとはどんなものか考える。
まずは流体が空間に余すところなく流れている状態を考えます。ここから、流体の運動を特徴づける物理量を取り出します。
動力学を考えるなると、運動方程式の考えから一番に考えられるものは、位置だと思います。しかし、流体は考えたい空間の外から中に、中から外にとめどなく流れています。これでは、考えている流体部分が流れて行ってしまったら位置を把握することができません。
では、何をもって流体の運動を考えるかですが、これはそれぞれの時間、それぞれの位置の流れの速度を考えます。数学的に言うと、時間と三次元位置変数のベクトル場を考えます。
そうすると、その流体の流れの各点の各時間$ \mathbf{x}(x,y,z,t)で流れの速度$ \mathbf{v}(x,y,z,t)が決められます。$ tで"いつ"の流れか、$ x,y,zで"どこ"の流れかを指定しています。(速度ベクトルである$ \textbf{v}は位置$ x,y,zと時間 $ tの関数になっていて、質点や剛体の力学と違って$ x,y,zが$ tから独立になっています。)
この速度ベクトル場は流れ場と言い、流体中の一点を取り出すとその点の速度が$ \mathbf{v}となるので、空間中のある一点のみを考えることで、いつもの質点の力学のように運動方程式を記述できます。
https://gyazo.com/8730514eb75eb6c2b0b1cfb75f558a6f
図1:流れ場
2.流体の運動方程式を作る
流体の場合でも、普通の力学と同じように$ m\mathbf{a}=\mathbf{F}という形の運動方程式が作れます。
2-1.左辺、質量と加速度
流れの中に微小体積$ dVを取ります。この微小な部分を流体要素と言います。また、流体の各点においての密度を$ \rho(x,y,z,t)とします。
この体積はとても小さいので、その中の各点においての流れの速度$ \textbf{v}や密度$ \rhoが一定と考えられて、流れの中の流体要素がひとまとまりの質点のように速度$ \mathbf{v}で動いていると考えられます。
するとその流体要素について、質量は$ \rho dVで、加速度は$ \frac{D \mathbf{v} }{Dt}となるので、質量×加速度は$ \rho dV \frac{D\mathbf{v}}{Dt}となります。
https://gyazo.com/9caeb5c075dc44a205c57b75bf6880e2
図2:流れ場中の微小体積
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$ \frac{D}{Dt}=\frac{\partial }{\partial t}+(\mathbf{v}\cdot\nabla) $ \nabla=(\frac{\partial}{\partial x},\frac{\partial}{\partial y},\frac{\partial}{\partial z}) というベクトル微分演算子を用いました。
これは、実質のところ速度の時間微分であり、$ \mathbf{v}の変数の$ x,y,zを時間の関数$ x(t),y(t),z(t)と見た合成関数の微分$ \frac{d \mathbf{v}}{d t}(t)=\frac{\partial \mathbf{v}}{\partial t}(t)+\frac{\partial \mathbf{v}}{\partial x}\frac{d x}{d t}(t)+\frac{\partial \mathbf{v}}{\partial y}\frac{d y}{d t}(t)+\frac{\partial \mathbf{v}}{\partial z}\frac{d z}{d t}(t)と同じことです。
$ \mathbf{v}の全微分($ \mathbf{v}の変化量$ d\mathbf{v})を$ dtで割って時間当たりの速度の変化と見たものとも言えます。
式の意味としては、流体要素の速度の時間的な変動(第一項)に加えて、流体要素の位置が変わることによる速度の変化(第二項以降)を見ています。このとき、位置の変化は時間に依存するので、独立な変数は$ tだけとして、最終的に全ての項は時間微分に終着しています。
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2-2.右辺、力
続いて、物体にかかる力について考えます。
2-2-1.外力
まずは、簡単な力の外力は、$ \mathbf{F}(x,y,z,t)と書けます。特に、重力など質量(体積)に比例する力を考えることが多いので、$ \mathbf{K}(x,y,z,t)=\frac{\mathbf{F}}{\rho dV}として、外力は$ \rho dV\mathbf{K}と書き直します。体積に比例する力とするので、体積力とも言います。
2-2-2.応力
もう一つの力は、応力$ \mathbf{p}(x,y,z,t)です。式としては、力=応力×面積が定義です。単位はパスカル$ (Pa)になります。
この章からは力(force)と応力(stress)を明確に区別して話を進めます。
応力は面積当たりの力で「$ x,y,zのどの軸に垂直な物体の面に力がかかっているか」と 「力は$ x,y,z方向のどちらを向いているか」という二つの情報を持っています。
なぜ応力は方向だけでなく、面の情報を持っているかというと、方向だけを持っている力では物体の変形が表現できないからです。
例えば立方体の$ x軸に垂直な面に$ x正方向の力がかかっているとすると、その面は$ x正方向に膨張すると考えられます。
しかし、同じ面でも$ y正方向に力を掛けたとすると、その面は$ y正方向にずれるように動くということが普通考えられて、変形と力の関係を表すには応力の方向だけでなく、応力のかかる面の方向が必要なことがわかります。
そして、面の方向の情報を持った応力は、物体の変形と適切な関係を持った力として使われます。
https://gyazo.com/f448e81295a32790ec7a75ae9d289e91https://gyazo.com/ea7c3495d52336260b92e00bb234034a
図3,4:xの面のx軸方向変形:xの面のy軸方向変形
応力を式に導入するためには一般的な形で応力を記述する必要があるので、以下で応力の記法を導き出します。
これを考えるときには、図のような四面体を考えます。
https://gyazo.com/bf73be7e41c08e0bd5398327bd26fe1d
図5:体積力と応力が釣り合っている四面体
この四面体にかかっている力は外力$ \rho dV\mathbf{K}と
四つの面に外向きにかかる応力による力$ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}dS+ \mathbf{p}_{-x}dS_x + \mathbf{p}_{-y}dS_y + \mathbf{p}_{-z}dS_zであり、それらが釣り合っているとすると、
$ \rho dV\mathbf{K}+\mathbf{p}_{\mathbf{n}}dS+ \mathbf{p}_{-x}dS_x + \mathbf{p}_{-y}dS_y + \mathbf{p}_{-z}dS_z=\mathbf{0}
として力の釣り合いの式が書けます。
私達は応力について考えたいのですが、体積力が邪魔です。そこでまずは体積力を消すことにします。
まず、この四面体の代表的な長さを$ Lとすると、$ dVは体積なので$ L^3に比例し、$ dSは面積なので$ L^2に比例します。$ Lを小さくしていくと、$ dV,dSともに$ 0に近づくのですが、$ L^3に比例する$ dVが$ L^2に比例する$ dSより先に小さくなるので、四面体が十分に小さい場合を考えると、釣り合いの式は
$ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}dS+ \mathbf{p}_{-x}dS_x + \mathbf{p}_{-y}dS_y + \mathbf{p}_{-z}dS_z=\mathbf{0} $ (dV\longrightarrow 0)
となり、邪魔な体積力を消すことができました。
邪魔な体積力がなくなったので、それぞれの面の面積と応力について具体的に議論を進めます。
まず、応力$ p_nのかかっている勝手な方向を向いた面ABCの面積を$ dSとします。
また、この面の外向きの法線ベクトルはそれぞれの軸方向の方向余弦$ l,m,nを用いて、$ \mathbf{n}= \begin{bmatrix} l \\ m \\ n\end{bmatrix}となります。
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$ l,m,nは方向余弦で、面ABCに積算することでその面積をそれぞれの軸の方向に投影します。
面ABCの大きさは$ dSなので、$ lに対応する$ xの方向から$ dSに対して光を当てた時は$ yz平面に投影される影の面積が$ ldSとなります。
$ m,nについては、$ mは$ yの方向に投影して$ xz平面に面積$ mdSの影を落とします。
$ nは$ zの方向に投影して$ xy平面に面積$ ndSの影を落とします。
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それぞれの軸に対して垂直な四面体の面の面積は図に書いてあるように$ dS_x, dS_y, dS_zなので、先ほどの方向余弦の説明で例示したように、$ dS_x=ldS, $ dS_y=mdS, $ dS_z=ndSとなります。
また、それぞれの面について面の外向き方向にかかる応力を、$ \mathbf{p}_{-x},\mathbf{p}_{-y},\mathbf{p}_{-z}とします。(これらは添字がありますが、成分でなくベクトルです。)
こうすると、
$ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}dS+ \mathbf{p}_{-x}dS_x + \mathbf{p}_{-y}dS_y + \mathbf{p}_{-z}dS_z=\mathbf{p}_{\mathbf{n}}dS+\mathbf{p}_{-x}ldS+\mathbf{p}_{-x}mdS+\mathbf{p}_{-z}ndS=\mathbf{0}
としてより具体的に書けます。
$ dSは項に共通なので割って消して、そのあとすべての外向きの応力を面の内向き方向に向けます。
内向きに向けるとは、大きさが同じで逆向きの応力$ \mathbf{p}_x,\mathbf{p}_y,\mathbf{p}_zを用いて、
$ \mathbf{p}_{-x}=-\mathbf{p}_x, $ \mathbf{p}_{-y}=-\mathbf{p}_y, $ \mathbf{p}_{-z}=-\mathbf{p}_zとして書き換えることです。高校数学で習った$ \vec{AB}=-\vec{BA}と同じことをしています。
https://gyazo.com/a9c9bc6be7529211dc5bce172120c71b
図6:応力を内向きにする
すると、式は
$ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}=\mathbf{p}_xl+\mathbf{p}_ym+\mathbf{p}_znとなり、行列の計算法則に則った内積の記法から、
$ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}=\begin{bmatrix}\mathbf{p}_x \mathbf{p}_y \mathbf{p}_z \end{bmatrix}\begin{bmatrix}\ l \\ m \\ n \end{bmatrix}とできます。
$ \mathbf{p}_x,\mathbf{p}_y,\mathbf{p}_zは添字で応力のかかっている面は表現されていますが、未だベクトルなので$ p_{(direction)(aspect)}という添え字の書き方で応力のかかっている面と応力の方向の添字を付けて成分表記し
$ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}=\begin{bmatrix} p_{xx}&p_{xy}&p_{xz} \\ p_{yx}&p_{yy}&p_{yz} \\ p_{zx}&p_{zy}&p_{zz} \end{bmatrix} \begin{bmatrix} l \\ m \\ n \end {bmatrix}
とできます。
この式の3×3行列を応力テンソルと言い、$ Pで表します。このテンソルの成分9つで、応力の方向3×面の方向3の計9種類全ての応力が網羅できました。
こうして、一般の面にかかる応力$ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}は
$ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}=P\mathbf{n}
として、法線ベクトルとの積で表すことができます。この法線ベクトルとの積での表現はとても便利で、連続体の運動方程式を微分形式で書く時に効果的です。
さて、応力の表現法がわかったのですが、実際に流体の部分に応力が働く時はどうなるのでしょうか。
まず、微小でない流体の一部分$ {V}について考えます。体積領域があるとその表面の閉曲面が考えられて、これを$ Sとします。この閉曲面上の各点ではそれぞれ自由な方向を向いた応力$ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}がかかっているので、その閉曲面の各点における微小な面積を$ dSとするとひとつの微小面については力$ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}dSがかかっていることになります。これは、面積についてかかる力なので面積力と言います。
https://gyazo.com/4efceff258c4322d1ecc56801ba9ce22
図7:体積Vの流体領域の状態
2-3.連続体の運動方程式の形にする
さて、流体にかかる力は以上の体積力$ \rho dV\mathbf{K}と面積力$ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}dSになることが以上からわかりました。
そして、質量×加速度=力として運動方程式を書きます。
$ \rho \frac{D \mathbf{v}}{D t}dV= \rho \mathbf{K}dV+ \mathbf{p}_{\mathbf{n}}dS
これは流体中の微小な要素しか考えていません。そこで、これを積分を用いて広い体積$ Vにまで拡大します。
まずは体積についての積分を考えます。
リーマン的に考えると、$ dVについての積分は、$ Vを微小な部分$ dV_iに分けて、その微小な部分における関数の値$ f(x_i,y_i,z_i)をかけて総和したものです。
つまり、$ \lim_{dV_i \to 0}\lim_{n \to \infty} \sum_{i}^{n} f(x_i,y_i,z_i)dV_iを意味しています。
続いて面積についての積分は、面は裏表があるので、法線ベクトルを考える必要がありますが、ほとんど同じです。
$ Sを微小な面$ dS_iとその面の法線単位ベクトル$ \mathbf{n}_iに分けて、その微小な面におけるベクトル関数の値$ \mathbf{f}(x_i,y_i,z_i)との内積の総和したものになります。
つまり、$ \lim_{dS_i \to 0}\lim_{n\to\infty} \sum_{i}^{n} \mathbf{f}(x_i,y_i,z_i) \cdot \mathbf{n}_i dS_iを意味しています。
さて、体積、面積について積分することで、微分形式の運動方程式は
$ \iiint_V \rho \frac{D \mathbf{v}}{D t}dV=\iiint_V \rho \mathbf{K}dV+\iint_S \mathbf{p}_{\mathbf{n}}d\mathbf{S}
となります。
ここで、右辺第2項については
$ \iint_S P\mathbf{n}d\mathbf{S}
と書き換えられて、ガウスの発散定理から
$ \iint_SP\mathbf{n}d\mathbf{S}=\iiint_V divPdV
として書き換えられて、体積積分で式を統一的に表現できます。
そして、式全体を体積について微分すると、
$ \rho \frac{D\mathbf{v}}{Dt}=\rho\mathbf{K}+divP
となり、これが連続体の運動方程式(微分形)になります。
3.構成方程式
以上の運動方程式をニュートン流体のものにするために、ニュートン流体における応力と変形の関係を特徴付ける構成方程式を導きます。
3-1-1.弾性体の変形テンソル・変形の記法
構成方程式を作るには、応力と変形の情報が必要です。応力は上記からよくわかっているので、物体の変形はどのようにして記述されるのかを決めなければなりません。以下ではまず弾性体である金属で変形の表現方法を確立し、それを流体に応用します。
まず簡単に、金属の棒が伸縮する場合を考えます。
伸縮弾性変形については材料力学ではフックの法則の一形態として応力$ p、物体の変形量$ \Delta l、物体の基準の長さ$ l、ヤング率(比例定数)$ Eとして
$ p=E\frac{\Delta l}{l}
と書かれます。
これは基準の長さから伸縮した割合$ \frac{\Delta l}{l}と応力が比例していることを表しています。
この割合$ \frac{\Delta l}{l}をひずみと呼び、伸縮の大きさ$ \Delta lを変形量と言います。
https://gyazo.com/45289ee68cfe700c79a4267c6d0f1a44
図8:金属棒の伸び変形
この時、応力が金属棒の両端にかかっていることが大切です。変形を考えたいときは物体が動いていては別の要素が入ってしまうので、変形に関係する応力による力が釣り合うように静止している物体にかかる応力は常に2つで一つの組として表されます。高校物理でばねの両端に力をかけて伸びを考えていたのは、こういう事情があります。
(応力は外力でないという話はありますが、簡単のため省略します)
このひずみをさらに一般的に表現します。
一次元的に考えて、この金属棒中の微小に離れた2点$ (x)と$ (x+dx)を取ります。
この2点間の距離$ dxを基準の長さ$ lとします。
また、金属中の各点での$ x軸方向への変形を$ u_xとして、2点でそれぞれ$ u_x(x),u_x(x+dx)だけ延びたとすると、変形量$ \Delta l =u_x(x+dx)-u_x(x)=du_xとなるので、近接した点の微小なひずみは1次元のとき$ \frac{du_x}{dx}として微分で表すことができます。
https://gyazo.com/816b2ed81f513d284efa5d4d895b5d0b
図9:金属棒中の近接した点の変形
では、同じような話を3次元でしていきます。
ある点での変形を$ \mathbf{u}=\begin{bmatrix} u_x \\ u_y \\ u_z \end{bmatrix}として、
先ほどと同じように、ある1点$ (x,y,z)での変形量$ \delta \mathbf{u}をその点と近傍の点$ (x+dx,y+dy,z+dz)での変形$ \textbf{u}の差
$ \delta\mathbf{u}(x,y,z)=\mathbf{u}(x+dx,y+dy,z+dz)-\mathbf{u}(x,y,z)
と書きます。
$ \delta\mathbf{u}=\mathbf{0}のとき、$ \mathbf{u}(x+dx,y+dy,z+dz)=\mathbf{u}(x,y,z)となり、2点は同様に変形したので、2点間の相対位置は変わらず、この点では変形せずに回転・平行移動したと考えられます。
$ \delta\mathbf{u}=\mathbf{a}のとき、
$ \mathbf{u}(x+dx,y+dy,z+dz)=\mathbf{u}(x,y,z)+\textbf{a}
となり、点$ (x,y,z)から少し離れた点$ (x+dx,y+dy,z+dz)では$ \textbf{a}だけ大きく変形しているので、2点の間の相対位置は$ \textbf{a}だけ変化しているということがわかります。
仮に、$ \textbf{a}の成分が全て正の値だとすると、2点間の相対位置は$ \textbf{a}だけ大きくなって、物体はその点で膨張していることがわかります。
変形量の3次元での表現はわかったので、それを使って、1次元のときと同じようにひずみを微分で表現します。
単純に言うと、$ dx,dy,dzが十分小さい場合を考えて、変形量を変形の全微分として表現するということです。
$ \delta\mathbf{u}=\begin{bmatrix} \delta u_x \\ \delta u_y \\ \delta u_z \end{bmatrix}
$ = \begin{bmatrix} u_x(x+dx,y+dy,z+dz)-u_x(x,y,z)\\ u_y(x+dx,y+dy,z+dz)-u_y(x,y,z)\\ u_z(x+dx,y+dy,z+dz)-u_z(x,y,z)\end{bmatrix}
$ \fallingdotseq \begin{bmatrix} \frac{\partial u_x}{\partial x}dx+\frac{\partial u_x}{\partial y}dy+\frac{\partial u_x}{\partial z}dz \\ \frac{\partial u_y}{\partial x}dx+\frac{\partial u_y}{\partial y}dy+\frac{\partial u_y}{\partial z}dz \\ \frac{\partial u_z}{\partial x}dx+\frac{\partial u_z}{\partial y}dy+\frac{\partial u_z}{\partial z}dz \end{bmatrix} ($ dx,dy,dzは小さいものとして全微分)
$ =\begin{bmatrix} \frac{\partial u_x}{\partial x} & \frac{\partial u_x}{\partial y} & \frac{\partial u_x}{\partial z} \\ \frac{\partial u_y}{\partial x} & \frac{\partial u_y}{\partial y} & \frac{\partial u_y}{\partial z} \\ \frac{\partial u_z}{\partial x} & \frac{\partial u_z}{\partial y} & \frac{\partial u_z}{\partial z} \end{bmatrix} \begin{bmatrix} dx \\ dy \\ dz \end{bmatrix}
このように式変形できます。ここの3×3行列を変形テンソル$ Dと言います。
変形テンソルの成分は1次元のときと同じように、ひずみを表しています。
さらに、3次元になったことで物体のどの面がどの方向にひずんでいるかまで考えられています。
この変形テンソルの中身を詳細に吟味していきます。
まずは対角成分です。
対角成分は変形量の方向と、基準の長さの方向が同じです。
そのため1次元のときと同じ議論から、物体の3軸方向それぞれの伸縮ひずみに相当することがわかります。
https://gyazo.com/6574d87f193d362711e090bc1e852ce6
図10:対角成分の伸縮ひずみ
続いて対角でない成分です。
これらは1次元のときにはなかったせん断ひずみになります。
せん断ひずみは応力の説明のときに出てきた「$ x軸に垂直な面に$ y軸方向の応力をかけると、面は$ y軸方向にずれるように動く」というところの、面がずれる変形に当たります。
例えば、$ \frac{\partial u_y}{\partial x}(x,y,z)というひずみについてです。
$ xy平面に$ x軸方向に$ dx、$ y軸方向に$ dyの大きさの微小な長方形の金属を考えます。
このとき、$ dxが小さいことから区間$ (0,dx)において$ \frac{\partial u_y}{\partial x}(x,0,0) =正の定数 として、$ x軸上での変形だけを考えると、$ xの値が大きいところほど変形$ u_y(x,0,0)が大きくなっていきます。
また、直線$ y=dy上の変形$ u_y(x,dy,0)を考えると、$ y=0と$ y=dyは非常に近いので$ \frac{\partial u_y}{\partial x}(x,0,0) \fallingdotseq \frac{\partial u_y}{\partial x}(x,dy,0)となり、この変形もまた同じように$ xが大きくなると大きくなります。
そして、全体的には微小面がずれるようにひずみます。形は平行四辺形になります。
同じような話が他の対角でない成分にもできて、対角でない成分は物体のせん断ひずみを表現しているということになります。
https://gyazo.com/fcb5a512b57354ecb854491cdb55f208
図11:対角でない成分のせん断ひずみ
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マクロな材料力学では$ p=G\thetaの$ \thetaでせん断ひずみを表現すると習いますが、これはひずみの角度が小さいときに近似的に考えるためものなので、より正確なせん断ひずみは変形テンソルの成分として表現されます。
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3-1-2.弾性体のひずみテンソル
変形テンソル$ Dから対称テンソル$ E=\frac{1}{2}(D+D^T)を作り、この対称テンソル$ Eをひずみテンソルと言います。
まず、ひずみテンソル$ Eの成分を書き下します。
$ E= \begin{bmatrix} \frac{\partial u_x}{\partial x} &\frac{1}{2}(\frac{\partial u_x}{\partial y}+\frac{\partial u_y}{\partial x}) & \frac{1}{2}(\frac{\partial u_x}{\partial z}+\frac{\partial u_z}{\partial x}) \\ \frac{1}{2}(\frac{\partial u_y}{\partial x}+\frac{\partial u_x}{\partial y}) & \frac{\partial u_y}{\partial y} & \frac{1}{2}(\frac{\partial u_y}{\partial z}+\frac{\partial u_z}{\partial y}) \\ \frac{1}{2}(\frac{\partial u_z}{\partial x}+\frac{\partial u_x}{\partial z}) & \frac{1}{2}(\frac{\partial u_z}{\partial y}+\frac{\partial u_y}{\partial z}) & \frac{\partial u_z}{\partial z} \end {bmatrix}
そして、ひずみテンソルの成分をいちいち書いていたらとんでもないので、以下のように変形や偏微分で関係する方向$ x,y,zを添字として$ eと書きます。
$ E = \begin{bmatrix} e_{xx} & e_{xy} & e_{xz} \\ e_{yx} & e_{yy} & e_{yz} \\ e_{zx} & e_{zy} & e_{zz} \end{bmatrix}
なお、ここで$ e_{xy}=e_{yx}, e_{xz}=e_{zx}, e_{yz}=e_{zy}なので、実質のところ成分(変形の種類)は6つになります。
変形テンソルと同様に、ひずみテンソルも成分について詳細に見ていきます。
まずは、対角成分ですが、これは変形テンソルと一切の変わりなく伸縮ひずみを表しています。
しかし、対角でない成分については変わっています。
変形テンソルでは対角でない成分は、1つにつき1種のせん断ひずみを表していました。
しかし、ひずみテンソルでは1つの成分で2種のせん断ひずみが表現されています。
例えば$ e_{xy}については、$ x軸に垂直な面が$ y方向にずれ変形すると同時に、$ y軸に垂直な面が$ x軸方向にずれ変形するということです。(特に、等方性素材の場合ひし形の変形になります。)
https://gyazo.com/92aa970276a8c238da181c00606b46fa
図12:ひずみテンソルによるせん断ひずみ
ここまで読むと「なんで変形に関する同じようなテンソルを2個も作ったんだ」と思われると思います。
それは、変形テンソルよりもひずみテンソルの方がよりよくひずみを表現できるからです。
例えば、変形テンソルの成分に従って実際のマクロな物体をせん断にひずませようとすると、ものによっては回転して倒れてしまいます。(図13)このように、変形テンソルの対角でない成分はひずみだけでなく、回転を含んでいます。
しかし、ひずみテンソルの成分に従ってひずませようとすると、物体は回転しません。(図14)かける力のモーメントが釣り合うわけです。そのため、ひずみテンソルの成分は、純粋なひずみを表しています。
よって、ひずみのみを取り扱う時はひずみテンソルを用います。
https://gyazo.com/28613c59f0ed65e1299e3f1e7b699066https://gyazo.com/2dc7861bf21d2af6e0dad9972808657f
図13,14:変形テンソルとひずみテンソルのせん断ひずみの違い
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ちなみに、変形テンソルの回転の要素は変形テンソルから作られる反変テンソル
$ \Omega =\frac{1}{2}(D-D^T)
として出てきます。回転テンソルと言います。気象科学で大気にかかるコリオリ力を考えるときに使います。
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3-2-3.流体のひずみテンソル
先程までで取り扱っていた弾性体のひずみテンソルはひずみの次元が$ L(長さ)であり、このままでは基本的なひずみの次元が$ L/T(速度)である流れ場で考えた連続体の運動方程式に合いません。
また、物体の変形を動力学的に考えたいので、変数に時間を加えて変形を$ \mathbf{u}(x,y,z,t)とします。
そして、長さの次元を速度の次元に変えるために変形を時間で偏微分して、$ \frac{\partial}{\partial t}\mathbf{u}= \frac{\partial}{\partial t} \begin{bmatrix} u_x \\ u_y \\ u_z \end{bmatrix}=\begin{bmatrix} u \\ v \\ w \end{bmatrix} = \mathbf{v}
として、ひずみテンソル$ Eは変形成分$ u_x,u_y,u_zを変形速度成分$ u,v,wに変えたひずみ速度テンソル$ \dot{E}になります。
この$ \mathbf{v}は流れ場$ \mathbf{v}と同じものになります。$ \mathbf{u}がある点での変形量(変位)を表していたのだから、これを時間で偏微分して出てくる$ \mathbf{v}は時間当たりの変位となり、これはそのまま速度の定義です。
そして、この$ \mathbf{v}は位置$ (x,y,z)と時間$ tの関数なので、流れ場となります。
ひずみ速度テンソルの成分を書き下すと以下のようになります。
$ \dot{E}= \begin{bmatrix} \frac{\partial u}{\partial x} &\frac{1}{2}(\frac{\partial u}{\partial y}+\frac{\partial v}{\partial x}) & \frac{1}{2}(\frac{\partial u}{\partial z}+\frac{\partial w}{\partial x}) \\ \frac{1}{2}(\frac{\partial v}{\partial x}+\frac{\partial u}{\partial y}) & \frac{\partial v}{\partial y} & \frac{1}{2}(\frac{\partial v}{\partial z}+\frac{\partial w}{\partial y}) \\ \frac{1}{2}(\frac{\partial w}{\partial x}+\frac{\partial u}{\partial z}) & \frac{1}{2}(\frac{\partial w}{\partial y}+\frac{\partial v}{\partial z}) & \frac{\partial w}{\partial z} \end {bmatrix}
$ u_x,u_y,u_zが$ u,v,wになっています。変形の方向は変形速度に変わっても同じで、
$ uが$ x方向、$ vが$ y方向、$ wが$ z方向の変形速度になります。
ドットを書くのが手間ですし、一般にドットを書かずに文脈で読むことが多いので、以降は$ Eでひずみ速度テンソルを表すことにします。
さて、ようやく変形の記述方法を確立するという大仕事(主に字数的に)が終わりました。ここで一度応力とひずみについてまとめておきます。
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物体の動力学的変形を記述するのはひずみ速度テンソル$ Eです。
ひずみ速度テンソルの対角成分はそれぞれ$ x,y,z方向への伸縮ひずみを表していて、対角でない成分は純粋なせん断ひずみを表しています。
また、上三角の成分と下三角の成分が等しく対応するので、ひずみの種類は実質6種類になります。
応力は$ p_{(direction)(aspect)}という形で書き、$ p_{xy}なら「$ y軸に垂直な面に$ x軸方向にかかる応力」という意味になります。
ひずみ速度テンソルの成分は$ e_{(direction)(aspect)}という形で書き、$ e_{xy}なら「$ y軸に垂直な面が$ x方向にせん断変形する」という意味になります。
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ここの変形やひずみの話は材料力学の教科書にも載っていますので、持っていたら確認してみると理解が深まると思います。
3-3-1.構成方程式の具体的な形
構成方程式は応力とひずみ(ひずみ速度)の関係式です。これから、以降の抽象的な話を理解しやすくするために構成方程式の具体的な導出をしてみます。
まず実は、先ほど出てきた金属の応力とひずみの関係式は金属の構成方程式の一部です。
これを原子的な視点から、具体的・物理的に導出してみます。
またこの議論は、このあとの抽象的な構成方程式の議論で出てくるマクローリン展開の物理的イメージを与えてくれます。
まず、力に垂直な物体の変形を考えたいとき、その物体の変形を相当にミクロな視点で考えると、その変形は物体を構成する原子の間の距離の変動にの総和と見れます。
まずは、一つの原子間の距離の変動を考えてみます。
原子間距離と力の関係を考えるには、原子のポテンシャルエネルギーを考えます。https://gyazo.com/4a0d09f553bd6f6e2ced732fa93133b0
図15:原子のポテンシャル
ここで、このポテンシャルのグラフを、大胆に近似します。
具体的には、相手の原子が居るポテンシャルの谷を頂点とした下に凸の二次関数でポテンシャルを近似します。
そうして、近似がだめにならない範囲で原子間の距離が変動するとしたら、変動に必要な力は近似二次関数の微分で、
原子間の距離変動を$ \deltaとすると力$ fは$ f = e\delta($ eは比例定数)とできます。
そして、物体の中に原子が$ N個列状に並んでいたとすると、$ fだけ原子の列に力をかけると、$ N個すべてについて$ e\deltaだけ距離が変動するので、物体の変形量は$ Ne\deltaになります。
また、物体のもとの長さは元の原子間距離を$ dとして、その$ N個分で$ Ndと考えられます。
ここから、一本の原子列の力とひずみの関係は比例定数$ eを$ E'に変えて
$ f = \frac{NE'\delta}{Nd}となります。
さらに、物体の断面に、先ほど考えた原子が$ N個並んだ列が面密度$ \sigma (/m^2)で並列に並んでいると考えると、面積が大きいほど伸ばす原子列が多くなって、変形に要する力は大きくなります。断面積を$ Aとすると、一本の原子の列にかかる力は、物体にかかる全体の力を$ Fとして$ f = \frac{F}{\sigma A}となります。
以上の情報から、ひずみと力の関係式を立てると
$ \frac{F}{\sigma A} = f = \frac{NE'\delta}{Nd}
となり、$ Ndは物体の長さ$ l、$ N\deltaは物体の変形量$ \Delta l、$ F/Aは応力$ p、$ \sigma E'はヤング率$ Eとすると、
$ p = E\frac{\Delta l}{l}
となって、ミクロな世界のポテンシャルと原子間距離の変動から、物理的な議論で構成方程式の一端が得られました。
続いて、一般的に、抽象的に構成方程式を考えていきます。
構成方程式は応力とひずみ速度の関係式なので、一般的には$ Eの成分を引数として
必ずしも同じでない9つの関数$ f_{ij}($ i,jは$ x,y,z)を用いて以下のように書けます。
$ \begin{matrix} p_{xx}=f_{xx}(e_{xx},e_{xy},e_{xz},e_{yx},e_{yy},e_{yz},e_{zx},e_{zy},e_{zz}) \\ p_{xy}=f_{xy}(e_{xx},e_{xy},e_{xz},e_{yx},e_{yy},e_{yz},e_{zx},e_{zy},e_{zz}) \\ p_{xz}=f_{xz}(e_{xx},e_{xy},e_{xz},e_{yx},e_{yy},e_{yz},e_{zx},e_{zy},e_{zz}) \\ p_{yx}=f_{yx} (e_{xx},e_{xy},e_{xz},e_{yx},e_{yy},e_{yz},e_{zx},e_{zy},e_{zz}) \\ p_{yy}=f_{yy}(e_{xx},e_{xy},e_{xz},e_{yx},e_{yy},e_{yz},e_{zx},e_{zy},e_{zz}) \\ p_{yz}=f_{yz}(e_{xx},e_{xy},e_{xz},e_{yx},e_{yy},e_{yz},e_{zx},e_{zy},e_{zz}) \\ p_{zx}=f_{zx}(e_{xx},e_{xy},e_{xz},e_{yx},e_{yy},e_{yz},e_{zx},e_{zy},e_{zz}) \\ p_{zy}=f_{zy}(e_{xx},e_{xy},e_{xz},e_{yx},e_{yy},e_{yz},e_{zx},e_{zy},e_{zz}) \\ p_{zz}=f_{zz}(e_{xx},e_{xy},e_{xz},e_{yx},e_{yy},e_{yz},e_{zx},e_{zy},e_{zz}) \end{matrix}
これ全部をまとめて構成方程式です。
まとめて書くと$ p_{ij}=f_{ij}(E) $ (i,j=x,y,z)とも書けます。
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実は、$ x,y,zを$ i,jで代用する方法は普通しません。
普通は$ x=x_1,y=x_2,z=x_3として、$ p_{ij}=f_{ij}(E)$ (i,j=1,2,3)のように表します。
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上記の式は一般的な構成方程式を表現していますが、$ f_{ij}の形がわからないため応用がききません。
そこで、ここでひずみ速度テンソルの成分はかなり小さいという仮定を用いて式を簡単にします。
$ e_{ij}はかなり小さいとすると、構成方程式を1階微分までの多変数マクローリン展開で近似できます。
すると、$ p_{ij}=f_{ij}(e_{xx},e_{xy},e_{xz},e_{yx},e_{yy},e_{yz},e_{zx},e_{zy},e_{zz}) $ (i,j=x,y,z)は
$ p_{ij}\fallingdotseq f_{ij}(0)+\sum_{k,l=x,y,z}\frac{\partial f_{ij}}{\partial e_{kl}}(0)e_{kl} $ (i,j=x,y,z),(e_{kl} \rightarrow 0)
となり、応力とひずみ速度の線形関係が導かれます。
また、$ \frac{\partial f_{ij}}{\partial e_{kl}}(0)は$ i,j,k,lがかかわる定数なので、$ C_{ijkl}を比例定数として
$ p_{ij}= f_{ij}(0)+\sum_{k,l=x,y,z}C_{ijkl}e_{kl} $ (i,j,=x,y,z)
とも表現できます。
$ Eの成分が小さいという条件をつけたことで構成方程式は比較的理解しやすい応力$ pとひずみ速度$ eの一次方程式になりました。
では、ここからはこの構成方程式をニュートン流体のものにしていきます。
3-3-2.ニュートン流体の構成方程式
まず、流体は停止している$ (e_{ij}=0)ときでも未知関数の圧力$ -p(x,y,z,t)を受けます。
この圧力は面に垂直な方向にしかかからないので、$ p_{xx},p_{yy},p_{zz}にしか関わりません。
ということで、添字が同じ文字の時に1となり、異なるとき0と定義した
クロネッカーのデルタ$ \delta_{ij} {$ \delta_{ii}=1,\delta_{ij}=0 $ (i \neq j)}を用いて圧力は
$ -p\delta_{ij} $ (i,j=x,y,z)
と表現できます。
また、$ e_{ij}=0のとき$ p_{ij}|_{e_{ij}=0}=f_{ij}(0)なので、$ p_{ij}|_{e_{ij}=0}=f_{ij}(0)=-p\delta_{ij}となります。
また、流体はどの方向から力を加えても、同じように変形します。(実験的にはそのはずです)
これは等方性という性質です。
木のように力をかける方向によって変形の仕方が異なるのは異方性という性質です。
天下りになりますが、等方性を表現するには、定数$ A,B,Cをもって
$ C_{ijkl}=A\delta_{ij}\delta_{kl}+B\delta_{ik}\delta_{jl}+C\delta_{il}\delta_{jk} $ (i,j,k,l=x,y,z)
とします。これは、座標系の変換によって値の変わらない4階のテンソルを考えると得られます。
座標系によって値が変わらないというところが、等方性を表現しています。
これら2つの式を構成方程式の$ f_{ij}(0),C_{ijkl}に代入すると、ニュートン流体の構成方程式になります。
それがこちらです
$ p_{ij}=-p\delta_{ij}+\lambda(div\mathbf{v})\delta_{ij}+2\mu e_{ij} $ (i,j=x,y,z)
(ただし、$ div\mathbf{v}=\frac{\partial u}{\partial x}+\frac{\partial v}{\partial y}+\frac{\partial w}{\partial z} = e_{xx}+e_{yy}+e_{zz}です。)
$ \lambda,\muは$ A,B,Cから作られるラメの弾性定数です。流体の文脈においては粘性率になります。
3-3-3.ニュートン流体の構成方程式の特徴
急にこうなりますと言われても意味不明なので、ニュートン流体の構成方程式それぞれについて説明します。
まず、面に垂直な成分$ p_{xx},p_{yy},p_{zz}についてです。
$ p_{xx}=-p+\lambda(e_{xx}+e_{yy}+e_{zz})+2 \mu e_{xx}
$ p_{yy}=-p+\lambda(e_{xx}+e_{yy}+e_{zz})+2 \mu e_{yy}
$ p_{zz}=-p+\lambda(e_{xx}+e_{yy}+e_{zz})+2 \mu e_{zz}
$ div\mathbf{v}を展開して以上のようになります。
まずは、流体の速度が位置で変化しないとき、($ e_{ii}=0) $ (i=x,y,z)
つまり流体がどの位置でも同じ速度のとき、もしくは静止流体のとき
$ p_{xx}=p_{yy}=p_{zz}=-p
で、応力は外向きを正にしているので、内向きに圧力$ pがかかっているというものになります。
この場合の圧力$ -pについては静止流体の圧力なので、皆さんご存知の気圧・水圧になります。水面気面の高さを$ hとして$ -p=-mg(h-z)$ (z \leq h)という式で表されます。
しかし、流体が動いている場合はこの限りではありません。
$ e_{xx}>0のとき(速度勾配があるときともいう)
つまり、$ xを大きくすると$ uが大きくなるとき。流体は動いています。
ここでは、考えやすくするために、非圧縮性を仮定します。
連続の方程式(流体が変形しても質量が一定であることを表す)より、
連続の方程式(非圧縮性):$ div\mathbf{v} = e_{xx} + e_{yy} + e_{zz} = 0
垂直方向の構成方程式:
$ p_{xx}=-p+\lambda(e_{xx}+e_{yy}+e_{zz})+2 \mu e_{xx}
$ p_{yy}=-p+\lambda(e_{xx}+e_{yy}+e_{zz})+2 \mu e_{yy}
$ p_{zz}=-p+\lambda(e_{xx}+e_{yy}+e_{zz})+2 \mu e_{zz}
から
$ p_{xx}=-p+2 \mu e_{xx}
$ p_{yy}=-p+2 \mu e_{yy}
$ p_{zz}=-p + 2\mu e_{zz}
となり、この3つの式の$ e_{xx} + e_{yy} + e_{zz}は一つの値が大きくなったら、その他の値が小さくなるというように釣り合っています。(非圧縮性なので)
一方向にしか速度勾配がないとき、等方性からその他の方向の応力は等しいと考えられます。
そこで、式を変形して
$ p_{xx}=-p+2 \mu e_{xx}
$ p_{yy}=-p-2 \mu (e_{zz} + e_{xx})
$ p_{zz}=-p - 2\mu (e_{yy} + e_{xx})
$ p_{yy} = p_{zz}
$ p_{xx}=-p+2 \mu e_{xx}
$ p_{yy} + p_{zz} = -2p - 2\mu(e_{xx} + e_{yy} + e_{zz} +e_{xx}) = -2p - 2\mu e_{xx}
となり、「一方に速く流れている時にそれ以外の方向の圧力は小さくなる」というベルヌーイの法則のお気持ち的なところがわかります。
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この式から見ると、$ x方向に$ x方向の速度の速度勾配があるとき、$ (e_{xx}>0)
進行方向の応力$ p_{xx}(圧力)は大きくなり、その他の方向の応力$ p_{yy},p_{zz}(圧力)は小さくなります。
ニュートン流体は伸び変形すると伸び方向の圧力は大きくなり、それ以外の方向の圧力は小さくなる性質を持っていると構成方程式から見ることができます。
(粘土の塊を伸ばしてみると、力を掛けた方向に伸びて細くなっていくのと同じようなものだと思います。)
https://gyazo.com/6f458277a4bf335d76c140091d17da38
図16:面に垂直な応力による変形パターン
ーーーー
続いて、構成方程式の残りの六個分についてです。
書き下します。
$ p_{xy}=2\mu e_{xy}
$ p_{yx}=2\mu e_{yx}
$ p_{yz}=2\mu e_{yz}
$ p_{zy}=2\mu e_{zy}
$ p_{zx}=2\mu e_{zx}
$ p_{xz}=2\mu e_{xz}
となります。
ここで$ e_{xy}=e_{yx}, e_{xz}=e_{zx}, e_{yz}=e_{zy}なので、
$ p_{xy}=p_{yx}=2\mu e_{xy}
$ p_{yz}=p_{zy}=2\mu e_{yz}
$ p_{zx}=p_{xz}=2\mu e_{zx}
ともできます。一種類のせん断ひずみについて二つの応力が必ず対応するということを表しています。式の意味としてはニュートンの粘性法則を表しています。
ひずみがあるとき、面に対して水平な応力を流体はかけられていることになります。特に顕著な例が翼面での粘性摩擦抵抗力です。
粘性流体は物体と触れているところは速度ゼロと考えます。
実際に飛行機が飛行しているときも翼面では空気の速度はゼロで、その面から少し離れたところでは対気速度に近い速さになっています。
ここで、翼面が流れる空気の面に水平な応力をかけることで、流れを引き止めていると考えると、翼面は空気にせん断応力をかけているということになります。翼面が力をかけているということは、その反作用を翼面は受けるわけで、これが摩擦抵抗力です。
https://gyazo.com/26aa83b858d6cdb0ee54af592ebae226
図17:せん断ひずみと応力の関係図
4.ナビエストークス方程式
さて、連続体の運動方程式とニュートン流体の構成方程式を作れたので、ナビエストークス方程式を作ります。
まず材料を並べます。
$ \rho \frac{D\mathbf{v}}{Dt}=\rho\mathbf{K}+divP
$ p_{xx}=-p+\lambda(e_{xx}+e_{yy}+e_{zz})+2 \mu e_{xx}
$ p_{yy}=-p+\lambda(e_{xx}+e_{yy}+e_{zz})+2 \mu e_{yy}
$ p_{zz}=-p+\lambda(e_{xx}+e_{yy}+e_{zz})+2 \mu e_{zz}
$ p_{xy}=2\mu e_{xy}
$ p_{yx}=2\mu e_{yx}
$ p_{yz}=2\mu e_{yz}
$ p_{zy}=2\mu e_{zy}
$ p_{zx}=2\mu e_{zx}
$ p_{xz}=2\mu e_{xz}
($ div\mathbf{v}=e_{xx}+e_{yy}+e_{zz}や$ \nabla=(\frac{\partial}{\partial x},\frac{\partial}{\partial y},\frac{\partial}{\partial z})を必要に応じて使う)
以上です。代入してゴイゴイ計算したらおわりです。
$ divP = div\begin{bmatrix} p_{xx}&p_{xy}&p_{xz} \\ p_{yx}&p_{yy}&p_{yz} \\ p_{zx}&p_{zy}&p_{zz} \end{bmatrix}=\begin{bmatrix}\frac{\partial p_{xx}}{\partial x} + \frac{\partial p_{xy}}{\partial y} + \frac{\partial p_{xz}}{\partial z} \\ \frac{\partial p_{yx}}{\partial x} + \frac{\partial p_{yy}}{\partial y} + \frac{\partial p_{yz}}{\partial z} \\ \frac{\partial p_{zx}}{\partial x} + \frac{\partial p_{zy}}{\partial y} + \frac{\partial p_{zz}}{\partial z} \end{bmatrix}
$ \begin{bmatrix} p_{xx}&p_{xy}&p_{xz} \\ p_{yx}&p_{yy}&p_{yz} \\ p_{zx}&p_{zy}&p_{zz} \end{bmatrix}=\begin{bmatrix}-p & 0 & 0 \\ 0 & -p & 0 \\ 0 & 0 & -p \end{bmatrix}+ \lambda \begin{bmatrix}e_{xx}+e_{yy}+e_{zz} & 0 & 0 \\ 0 & e_{xx}+ e_{yy}+e_{zz} & 0 \\ 0 & 0 & e_{xx}+ e_{yy}+ e_{zz} \end{bmatrix}+ 2\mu \begin{bmatrix} e_{xx} & e_{xy} & e_{xz} \\ e_{yx} & e_{yy} & e_{yz} \\ e_{zx} & e_{zy} & e_{zz} \end{bmatrix}
$ div\begin{bmatrix} p_{xx}&p_{xy}&p_{xz} \\ p_{yx}&p_{yy}&p_{yz} \\ p_{zx}&p_{zy}&p_{zz} \end{bmatrix}=-\nabla p + \lambda \nabla(div\mathbf{v})+\mu \nabla(div \mathbf{v}) + \mu \nabla^2 \mathbf{v}
$ = -\nabla p + (\lambda + \mu)\nabla(div\mathbf{v})+\mu\nabla^2\mathbf{v}
なので式は
$ \rho \frac{D\mathbf{v}}{Dt}=\rho\mathbf{K}-\nabla p + (\lambda + \mu)\nabla(div\mathbf{v})+\mu\nabla^2\mathbf{v}
となり、ナビエストークス方程式ができました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
(おわり)