インハーモニシティ
#音楽 #音楽理論 #資料メモ
うなり
周波数を若干ずらした2つの音を同時に鳴らすと,音の大きさが周期的に変わって聞こえる。これをうなりという。
倍音
ある音に対して整数倍の周波数を持つ音のことを倍音と呼ぶ。
一つの音に対して1倍(これは元の音と同じ),2倍,3倍,...の周波数を持つ音を2つ拾って同時に鳴らしてみると,周波数が単純な整数比で表せる組み合わせであるほど倍音どうしのうなりが発生しづらくなるため,調和して聞こえる。
table: 周波数比の例
比 間隔 階名
1:2 オクターブ ドとド
2:3 完全五度 ドとソ
3:4 完全四度 ドとファ
4:5 長三度 ドとミ
3:5 長六度 ドとラ
8:9 長二度 ドとレ
この整数比の音同士ならば元の音が何であれ調和する。西洋音楽のチューニング(調律)方法の一つに,楽器のそれぞれの音程をこの周波数比にチューニングするものがあり,これを純正律という。
ただし基底周波数が極端に低い場合,オクターブのような単純な整数比であってもうなりが発生しやすくなる。
純正律の問題点は,一つの調でチューニングすると別の調を演奏できなくなること。例えば A = 440Hz に固定し,その他の音を純正律でチューニングさせてしまうと,イ長調 (A dur) 以外の調の曲で周波数比がずれて音が調和しなくなってしまう。
現在では1オクターブを均等な周波数比で12分割した12平均律が主流となっているが,1オクターブが12音に落ち着いた経緯に関してはまた別の話。
周波数スペクトルとハーモニクス
全ての音は音程と振幅の異なる複数の正弦波の重ね合わせとして表現できる。
ある1つの音を複数の周波数成分に分解したものをスペクトルという。
特に弦や管などを鳴らすと,弦や管の両端が固定・解放されているなどの条件によって,最低音の整数倍の周波数を持つ音,すなわち倍音だけがスペクトルに残る。この残った倍音成分をハーモニクスと呼ぶ。
別々の楽器で同じ音程を演奏しても音色が異なるのは,この倍音成分それぞれの大きさが異なるため。
純正律が好まれてきたもう一つの理由として,2つの楽器が単純な整数比の2つの音を同時に鳴らした時,楽器に含まれる各倍音成分も整数比となるためうなりが発生しないという点もある。
インハーモニシティ
しかし,これはあくまでも理想的な条件で鳴る楽器に限った話。
実世界の楽器においては,ハーモニクスの周波数が正確に最低音の整数倍であるとは限らない。
振動する物体の物理的な制約などによって,ハーモニクスの周波数が整数倍でなくなる現象をインハーモニシティと呼ぶ。
ピアノの弦に含まれる倍音も,弦の太い低音のものになればなるほど整数倍から若干ずれていく。よってピアノをチューニングする際,例えば1オクターブ離れた2つの音を鳴らしても倍音同士でうなりが発生してしまわないように,オクターブの周波数比も正確に 1:2 ではなく若干ずらしてチューニングするということがある。
すなわち楽器の音に含まれるハーモニクスのハーモニシティ/インハーモニシティはチューニングや音律に影響を与える。
インドネシア音楽の一つとして有名なガムランでは,西洋の12音音階と全く異なる音階を用いる。さらに楽器間の音程までも若干ずらしてチューニングを行い,わざとうなりを生み出す。それでいて心地よく聞こえる要因の一つにインハーモニシティが関わっている。
ハーモニクスの周波数を整数倍でないものへと人工的に調整すれば,12平均律でチューニングして和音を鳴らしても倍音成分にうなりが発生しないような音色を生み出すことも可能である。
関連資料
Wikipedia
倍音
インハーモニシティ
周波数比 1:2 のオクターブですらうなりを生み出してしまう現象についての動画
https://youtu.be/wg5QcF2akzQ
ガムランとチューニングに関する動画
https://youtu.be/ksX-saQVL40