『天文台日記』石田五郎
岡山にある天体物理観測所の副所長を務めた著者が、今から約50年前の観測所での日々の様子や天文学の知識について記したエッセイ。専門用語が難しく頭の中で想像しながら読んだ。
遠方から訪れる観測者たちとの温かい交流の記録が楽しい。所内に設けた通称「深夜喫茶」という食堂でひとり静かに食事をとったり、天候不良の夜更けには観測者たちが集って議論を交わす。観測中の眠気覚ましにかけるのはレコードだったり、海外へ送る長文の電報を打ちに行くために山を駆け降りたりと古い時代の趣が感じられる。
リルケが星空を都会にたとえた詩を引用して、望遠鏡に取り付けた分光器はその都会からの消息を知らせる手紙を開封するはさみだろうか、と思いを馳せる著者の筆致は、未だ見ぬ未踏の宇宙への熱い詩情にあふれている。