The evolution of popular music: USA 1960–2010
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論文リンク
supplementary material
文献情報
Mauch M, MacCallum RM, Levy M, Leroi AM. 2015 The evolution of popular music: USA 1960–2010.R. Soc. open sci.2: 150081.
要は何?
US Billboard Hot 100の1960-2010のレコードをMIRとテキストマイニングでトレンドや進化を定量化する探索的な分析.
pop musicは連続的な cultural evolutionを観測でき,特に顕著な変革が1964, 1983, 1991にみられることがわかった.
問題意識と解決策
pop musicの歴史については哲学者,社会学者,ジャーナリスト,ブロガー,ポップスターの間で議論がなされているが,定量的なデータのもと立てられた仮説の検証が欠けていた.
また,経済学の視点では音楽そのものがどうというよりは,音楽がどう消費されたかで定量的分析がなされた.
進化生物学(evolutionary biology)の手法を応用して言語の文化的進化を定量的に考察する手法を用い,pop musicにおける文化的進化を分析する.(多様性は増加?減少?,音楽の進化的変容は連続か非連続か?そしてもし非連続であればその変化点はどこ?等.)
定量的データとして,US billboard Hot 100の1960-2010のうち利用可能な86%の音楽の30秒のセグメントを用い,音響特徴からそのトレンドを見る.
関連研究
音楽学
Adorno TW. 1941 On popular music.Stud. Philos. Soc. Sci. 9, 17–48.
Adorno TW. 1975 Culture industry reconsidered. New German Critique 6, 12–19. (doi:10.2307/487650)
Frith S. 1988 Music for pleasure. Cambridge, UK: Polity Press.
5. Negus K. 1996Popular music theory. Cambridge, UK: Polity.
6. Stanley B. 2013Yeah yeah yeah: the story of modern pop. London: Faber & Faber.
7. Morrissey SP. 2013 Autobiography. London, UK: Penguin.
計算音楽学によるクラシックの分析
Weiß C, Mauch M, Dixon S. 2014 Timbre-invariant audio features for style analysis of classical music. In
Proc. 11th Music Computing Conf.(SMC 2014), Athens, Greece, 14–20 September 2014,
手法
音響特徴を利用.
12次元のトーン特徴(クロマベクトル),14の音色特徴(12次元MFCCとdelta-MFCC-0,zero crossing)
これらをPCAにより白色化した後BIC基準GMMクラスタリングによって量子化し,コードチェンジと音色に関するlexicon(H-lexicon, T-lexicon)を得る.T-lexiconを意味的な情報に関連づけるためにさらにプロによるアノテーションを利用.
yamamoto.icon lexiconは文章における単語のようなもの
LDAを用い両方のlexiconを統合し,H-lexiconとT-lexiconそれぞれ8個で16個のトピックを得る.
LDAにより,曲をトピックの分布によって表現できる.
曲=文書ととらえて文書のトピックモデリングをする cf. トピックモデル:https://scrapbox.io/files/648bbbedabcedc001c1e4058.png
最適化は変分ベイズEMアルゴリズム(VEM)によって行った
分析対象はこの操作によって得た各曲の各トピックの割合qを用いる.
yamamoto.icon 得られたトピックはfigure2で
実験とその結果
各トピックの可視化
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トピックの進化変遷について
トピックにより異なった.
ドミナント7thはや/oh/,メロウなサウンドは減少,コードなしやエネルギッシュなサウンドは増加,ギターがありラウドなものは周期的など様々
H-topic
H-topicで最も多いのはH8:メジャーコードでコードチェンジなし
last.fmのタグを見てみるとClassic country, Classic rock, Loveのタグづけされた曲の2/3でこのH8トピック割合が12.5%を超えた.
ほかのH-topicについて
H1は75%も減少.ドミナント7thはジャズで,協和和音に解決する過程で主に用い,ブルースではこの不協和音のまま解決せずにダーティーなサウンドを演出する.B.B.KingやNat 'King' Cole等のジャズ系アーティストの曲でこのトピックが多かったが,Hot100に関しては減衰していることがわかる.
他のH-topicは音楽スタイルの進化を捉えている
H3はマイナー7thのトピック,ファンクやディスコ,ソウル等で顕著.Chicや KC&the sunshine bandの出現の影響か,1967-1977でこのトピックが倍以上に増加.
H6はコードチェンジの段階的な組み合わせ.モーダルロックに多くみられる.-> big-studiumを目指すアーティストにみられた.(Mötley Crüe、 Van Halen, REO Speedwagon, Queen, Kiss, Alice Cooper等)1978-1985で増加し,'90前半で減少(アリーナロックの台頭による).
H5は識別可能なコードの不在.1993をピークに急速に増加.(1960-1970ではほとんど全ての曲は識別可能なコードを有していた.)これはヒップホップやラップ等の台頭をあらわしている. (Busta Rhymes, Nas, Snoop Dog等.)
T-topic
T-topicはよりダイナミックだった
T3はenergetic, speech, bright.H5と同じトレンドをもった(ヒップホップ系ジャンルの台頭)
他のT-topicは上がり下がりを繰り返している. -> 楽器編成のトレンドの移り変わりを示唆
T4はpiano, orchestra, harmonic.1970から一旦下がり2000にまた上がる.(音質の向上(?)のため?)
T5はguitar, loud, energetic.1966,1985,2009をピークにサイクル.H6(コードチェンジ)と1985でピークが一致これはstadium rockと関連すると考えられる
T1はdrum, percussive, aggresive.1990まで上昇(ドラムマシン・gated reverbの普及),ダンスやディスコ,new waveのタグ曲で顕著. その後減少.
音楽の多様性の進化変遷について
このデータで分類してみる
トピック分布をPCAしてk-means クラスタリング(k=13)し,スタイルのクラスタを獲得する.
クラスタと意味情報の関連づけにはlast.fmのタグを利用し,enrichment analysisを適用(クラスタごとのタグの含有量を調べるため.特定の発言変動遺伝子で全体より顕著な遺伝子アノテーションを調べるというアナロジー)
結果として全てのスタイルクラスタは強くタグと結びついた.
続いて,このスタイルの年ごとの変動を確認する.
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ファンク,ジャズ,ソウル等のクラスタ4が1960以降減少.
ロックのクラスタ5と13は変動ががみられる.
ラップのクラスタ2は'80中盤を境に急増,'00後半でまた減少.
このクラスタを大きなジャンルのサブジャンルと仮定して,階層クラスタリングを適用,大きなジャンルとしてグループ化できることが示唆.
これは,全ての楽曲は先人の模倣によって先祖ー子孫関係を作ることで構造化された高度なメタ集団である,という仮定のもとで考えると,音楽のスタイルやジャンルとは地理・文化的に孤立したキャラクター,またはその組み合わせを進化させたものであり,スタイルの変動はオーディエンスの影響を受けてソングライター,アーティスト,プロデューサーが嗜好を変化させこのように進化させた結果だと解釈できる.
多様性は減っているのか
色々な主張があるが実際のところどうなのか?
メディア産業の寡占化が新しい音楽の多様性を低下させた ,均一化はシンボル生産のサイクルをもたらす(異なるトレンドを作り出す人が現れて破壊する,的な)等の主張
いずれもデータなし 「それってあなたの感想ですよね?」
4つのダイバーシティの指標を用いて分析
D_N:曲数
D_S:スタイルの有効数
D_T:トピックの有効数
D_Y:年内のその標準偏差
結果 -> 減ってない D_S, D_T, D_Yはむしろ増加している
1986で谷にはなっているが特に2000以降は上昇傾向
1986で谷になっているところは音色の多様性減少によるもの
T1,T5(ラウドな音楽に現れるようなトピック)が優勢になっている
その後にT3が優勢になり,この音色の多様性は回復する
スタイルで言えば,ディスコやハードロックの衰退とラップの台頭により1990以降に多様性が回復していることで説明できる
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均一化によるシンボル再生産をした形跡なし.-> この多様性の進化は特定の音楽ジャンルの栄枯盛衰によるものである
音楽の進化は革命によって区切られる
pop musicの歴史は,「ロックの時代」のように区分された時代で語られたり,それは真実ではないと主張する者もいる
これも「それってあなたの感想ですよね」.実際定量的にはどうなのか?
分析:非連続点は存在するのか?
1960-2010を200のサブ区間に分割し,それぞれのトピック頻度でPCAを適用し,Similarity matrixを作成.
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さらに,Foote noveltyを用いてその振幅値の変動を分析する.
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結果:1991で大きな変化,1964,1983で小さな変化があった.
これも特定音楽ジャンルの栄枯盛衰によるものである
回帰モデルエンリッチメント分析を行い,これらの革命前後6年間で有意に変化のあった(p<0.01)スタイルを調べると,以下の通り.
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1964はソウルやロックのタグがエンリッチされた.クラスタ1,5,8,12,13が支配的になった
doowapのタグで支配されたクラスタ3,6が盛衰した代わりの結果とも言える
1983ではNew wave, ディスコ,ハードロックがエンリッチされたクラスタ8,11,13が増え,ソフトロック,カントリー,ソウル,R&Bでエンリッチされたクラスタ3,7,12が衰退した
1991がもっとも大きい変革で,ロック関連音楽(クラスタ5,13)の代わりにラップ関連音楽(クラスタ2)の台頭によるもの.これが対象期間中ではアメリカのチャートの音楽構造を変えた最も重要なイベントである.
1964のアメリカ音楽の変革はイギリスによるものではない
特定のアーティストが変革にもたらす役割をさらに調べた.
このセクションタイトルは,1963の12月26日にビートルズはI want to hold your handをアメリカでリリースし,アメリカでのちの数年にわたってチャートインしたことの影響がこの定量的分析に影響を与えているのか,に対するアンサー.
British innovationという言葉が生まれ,のちの音楽に影響を与えたと言われている.
前述の1964の変革は彼らによるものなのか?
PCAの最初の4つの成分を分析すると,1964前から変化は起こっており,イギリス音楽はこれに寄与はしたがその寄与の度合いは支配的ではないと言える.
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ビートルズとローリングストーンズ及び他の曲のPCの値の分布を比較する(右列)と,PC1(明るさ),PC2(激しさ)に差が見られる.ビートルズとローリングストーンズが低く,トレンドを合わせると「彼らが先取りをしていた」ともいえる
いっぽうでPC3(コードの支配度のなさ),PC4(ドミナント7th)には顕著な変化なし.
結論として,1964の革命は彼らが起こした,とは必ずしも言い難いものとなった.
ただ,その後に彼らが合計66曲もチャートインさせたことを考えれば,他のアーティストによる彼らの模倣も起き,影響はあったことではあろう.
むすびに
limitation
ユーザーの定めたジャンルタグに結果がサポートされたものであることに留意
Hot100というヒットソングに限定していること.現存する音楽はもっと幅広い
もっと前のデータも必要?(ex. ロックンロールは 1955発)
変革の原因までは特定できていない
音楽は多様な選択的プロセスの結果である
この因果の説明には,どのようにミュージシャンが模倣し修正するかの「継承の様式」についてと,その新曲生産の際への選択についてを解明する必要がある
前者はよくわかっていない(47. McIntyre P. 2008 Creativity and cultural production: a study of contemporary Western popular music songwriting.Creat. Res. J.20, 40–52. (doi:10.1080/ 10400410701841898) 48. George N. 2005 Hip hop America. London, UK: Penguin)
後者はある程度は説明できる.
例えば,1991のラップの台頭に1988にYo! MTV Raps!という番組が放送されたことの影響はあるだろう
コメント
計算音楽学の代表的論文といえる一本.まだまだ分析する事項はあるのだろうが,コンセプトの提示として価値のある論文.
H8のトピックは西洋ロックで顕著なのはすごくしっくりきた
H5のトピックの結果に関しては思う所がある.コードチェンジを捉えられないのは当時の技術の限界の問題なような気もするが,結果として変化を捉えるという目的は達成しているのでいいのか...?(技術的な問題ではなくて,バックグラウンドがメロディックであるかアルペジオっぽくなっているためコードが一意に決められなかったのかな)
ラップの台頭だけとりわけ大きな変革として取り上げられているが(実際そうだったのだろうが),これは音響的に他の音楽にくらべ顕著にユニークだったことといっしょくたにされているような気もするがそれでいいのだろうか?
もうちょっと先になるとストリーミング音楽の時代になって,この多様性の進化が反映されていそう.