vernacular
その土地固有の
「ヴァナキュラー(vernacular)」という言葉は、直訳すると「土着の」「その土地固有の」「日常的な話し言葉の」などといった意味を持つ。もともとは一般的な形容詞だったこの言葉が、とりわけ芸術分野で特殊化されて用いられるようになったきっかけは建築にあった。建築家・エッセイストのバーナード・ルドフスキーが、同名の展覧会をもとにした著作『建築家なしの建築』(1964)で用いたのがその最初期の使用例とされており、そこではアジアやアフリカやオセアニアにおける「建築家なしの」土着的な建築が数多く紹介されていた。類似したカテゴリーに「フォーク」や「ネイティヴ」などがあるが、とりわけ「ヴァナキュラー」という語が特殊化されるのは「話し言葉の」というニュアンスにおいてである。すなわち、ヴァナキュラー建築には「書き言葉」にあたる設計図などは存在せず、幾世代にもわたる経験の蓄積が口承で伝えられてきたという特徴を有しているのだ。