第6版クメール語版の出版にあたって | JJL
日本カンボジア法律家の会(Japan Jurist League with Cambodia )
共同代表
弁護士 桜木和代
弁護士 木村晋介
日本カンボジア法律家の会は、カンボジアの復興に法律面から協力しようと、1993年10月に設立されたNGOです。1993年から活動をはじめ、今年で28年が経過しました。活動には幾つかのプロジェクトがありますが、その1つが、“クメール語の法律教材の提供”です。古くは刑事事件の模擬裁判のクメール語によるビデオの提供、日本人刑法学者の『刑法入門』のクメール語版の提供等がありました。2000年から日本の民法学者池田真朗教授の『民法への招待』のクメール語化事業が始まりました。池田先生の『民法への招待』は、日本民法を素材とし、法律学を専攻していない人にもわかりやすく著されていますが、民法という大部な法律を理解し、民法の本質をつかむには最適な体系書であり、私たちは是非これをクメール語にしてカンボジアの皆さんに提供したいと考えたのです。
この『民法への招待』第3版のクメール語への翻訳は、クオン・テイリー先生にお願いしました。当時カンボジアには民法典はなく、法律に関する資料もない中で、テイリー先生から、フランス植民地時代の1920年に制定されたカンボジア民法を参考資料とするしかなかった、とお聞きしました。大変なご苦労をおかけしたと思います。
最初のクメール語化から20年が経過し、この間カンボジアでは日本の起草支援を受けながら、新しい民法が制定されました。そこで新しいカンボジア民法の用語に沿った『民法への招待』の翻訳が望まれるところとなり、私たちは、『民法への招待』第5版のクメール語化事業に取りかかりました。
翻訳はチュン・クイエンさんにお願いしました。クイエンさんは、王立法経大学及び名古屋大学日本法センター(CJL)卒業後、名古屋大学大学院法学研究科修士課程で債権法を学ばれ、その後カンボジアに戻り、Japan International Cooperation Agency(JICA)のシニアリーガルオフィサーとして、日本語・クメール語の法律文書の翻訳や、セミナーでの通訳等に携わってこられました。カンボジア民法と日本民法そして両国の法律用語に精通しクイエンさんこそまさに『民法への招待』の翻訳の適任者と考え、クイエンさんに依頼したところ、快く引き受けて下さったのです。
折しも日本では、2020年に、日本民法の債権や契約の分野等の大改正があり、池田先生は、これら重要な改正に合わせ、『民法への招待』第6版を出版されました。そこで私たちはクイエンさんに第6版を原本として翻訳することを更にお願いし、クイエンさんもこれに応えてくれました。このような経緯を経て、『民法への招待』第6版のクメール語版が誕生しました。
この度の『民法への招待』クメール語化事業は、法律に関連するカンボジアの各界の皆さまからの要望があったことが、事業開始の動機となっています。カンボジア民法典が、日本民法典と異なるところがあっても、旧版クメール語版『民法への招待』が、カンボジアの地で、皆さまのお役に立っていることを実感しました。新しいカンボジア民法に沿った、『民法への招待』第6版クメール語版は、さらに皆さまのお役に立てるものと確信しています。
翻訳者のチュン・クイエンさんには、本当にお世話になりました。心からの御礼を申し上げます。またクイエンさんを支援してくださったご家族にも、感謝の意を表します。
また、本事業に当たり、国立経営大学にはハオペン学長をはじめとする「『民法への招待』クメール語化編集委員会」が設置され、同委員会のご協力を頂きました。日本側とカンボジア側双方の協力によって、『民法への招待』第6版が誕生したことは、とても嬉しいことであり、今後双方の協力関係の発展に、新たな期待を寄せるところです。
2021年4月1日