世にコミュ障で苦しんでいる方は多いですが、本屋に行っても「(非コミュ障の)俺が考えた最強の話し方」みたいなのばかりで参考になるものがありません
質問
世にコミュ障で苦しんでいる方は多いですが、本屋に行っても「(非コミュ障の)俺が考えた最強の話し方」みたいなのばかりで参考になるものがありません。科学的に雑談を考察したような本ってないんでしょうか。 解答
コミュニケーション関係ではソーシャル・スキル・トレーニングは科学的ですが、技術の集積であって説明体系ではないので、この場合求められている雑談の科学とは違う気もします。 では、さほど科学的ではありませんが、私が考えた最低限の雑談について、少し説明してみましょう。
雑談の最小要素はオープン/スイッチ/ストロークで、この「雑談の三角形」を回すことで雑談は続いていきます。 https://gyazo.com/5c34c226a8f4b7259b1163396eef1cd2
1.知らない人同士の雑談は、オープンすなわち自己開示に始まり、お互いに自己開示を重ねて信頼関係を構築していきます。 2.自分だけが一方的に自己開示を続けるのではコミュニケーションにならないので、相手に話す順番を切り替えること(スイッチ)が必要です。これにより話し手と聞き手が入れ替わります。
3.聞き手側に回ったらストロークを返します。ストロークは、テニスなどでボールを打ち返すことですが、ここでは交流分析の用語で「人が他者に与える認識、注意、反応」を言います。相手が発言したらそれに対してストロークを返すことで、会話は続いていきます。 https://gyazo.com/07da77d43121e27c279ef5f5e3a19458
雑談の要素を挙げるだけでは何をすればいいのか、これだけだと分からない人もいると思うので、もう少しだけ補足します。
自己開示(オープン)
自己開示のコツは「1回量はできるだけ少なく」です。
コミュニケーションには「与えられるとお返ししたくなる」という互酬性の原理が働きます。
互酬性によって、こちらが先に自己開示されると相手も自己開示するよう促されることを利用して、雑談の導火線に使おうとするのですが、最初か過度の自己開示をしては、無自覚であれ(無意識であれ)それだけ大きな自己開示を相手に強制していることになるために、そこまでの自己開示はしたくない相手に引かれてしまいます。
何より小出しにしないと自己開示のネタが早晩尽きてしまうでしょう。
なお自慢は、自分の自信のなさを隠す行為ですから自己開示にはなりません。
「イギリスでは天気の話をする」というのも、よく見ると「今日は暑いね」(私は暑いと感じる)みたいな、小さな自己開示(天気をネタに少しだけ自分の感じ方を話す)による会話の滑り出しになっています。
この天気ネタは、他にも見るべきところがあります。今この場所にいる会話の参加者すべてに扱える「今ここ」の出来事なので、同じネタを相手も使いやすいのです。
自己開示は雑談のタネを蒔くことでもあります。相手に使いやすいネタは、もってこいとも言えます。
小さな自己開示には、あらかじめ作り込んだネタ(これは一方的に話しがちで、一回量が多すぎる自己開示になりがちです)を持ち込むよりも、会話の場面で参加者も確認できる「今ここ」の出来事を拾うのがベターです。
相手のつけている装身具を褒めたりするのは、このタイプの自己開示です。「その◯◯、すてきですね」というだけで、自分の好みを自己開示したことにもなります。そして相手にも、その装身具に関しての《自分の話》をできる機会、つまり自己開示の機会を与えることにもなります。
「それ、いいですね」は相手が言ったことについても使えます。
話そう話そうと一杯一杯になっていると周囲をみる余裕なんてなくなりますが、そんなときこそ、相手の言った言葉の中に「今の言葉(表現)、いいですね」「あ、それ、いい!」と言えるものを探しましょう。
これによってストロークを兼ねた自己開示を行うことができるわけです。
スイッチ
雑談のコツは、できるだけ相手に(気持ちよく)話してもらうことです。なのでスイッチは瞬間の出来事ですが、重要です。
スイッチ(会話での話し手の切り替え)は、通常の会話では、言葉を切って相手を見る、といった、何気ない小さな身振りによって生じますが、はじめての相手で、お互いの無言のサインをつかみかねている段階なら、スイッチのための言葉を発するのがよいでしょう。相手を助けることになります。例えば、答えやすい短い質問(例えば自己開示の後の「あなたは(どうですか)?」)は、分かりやすいスイッチのサインになります。
既に自己開示によって種が蒔かれているなら、同じ方向での質問ならば、相手も応じる確率が高まります。
コミュニケーションに苦手意識を持つのはあなただけではないかもしれません。相手のコミュニケーションを助けることができる人は「なんだか話しやすい人」であり、また、ここでも互酬性が働き、(無意識であれ)周囲から助けてもらえます。
コミュニケーション能力とは実は、個人の中に蓄積されると言うより、互酬性の形で人と人の間に積まれるのです(だからコミュニティを移ると自動的には引き継がれません。しかし人の間に積んできた成功体験がある人は、新しいコミュニティでも早速積み始めます。成功体験から来るコミュニケーションの積極性と、互酬性を通じて蓄積した関係資本としてのコミュニケーション能力の有効性を身をもって知っているからです)。
ストローク
最後のストロークですが「どんなストロークでも無いよりはまし」と言われるように、人は基本的に他人からのストローク(反応)を求める生き物です。
うなづき、相づち、相手の発言に興味を持っていう「なにそれ、知らない。どういうの?(もっと詳しく)」などはポジティブ(肯定的)なストロークです。
うまくストロークが返せれば、それだけでもしばらく会話が続きます。
しかしテニスでも無限にストロークの応酬は続かないように、うまくストロークが続けられないところに来ます。
そうしたら、再び(別の)自己開示からやり直します。
このことを言い換えれば、ストロークが同時に自己開示になっていれば、会話はくるくる回っていきます。共通の趣味であることを発見し、お互いの好きなものを述べ合い、それをお互いに肯定し合っている状態がこれです。