アメリカでは役者になるために学校で演技を学ぶと聞きますが、どのようなことを学ぶのでしょうか?
質問
アメリカでは役者になるために学校で演技を学ぶと聞きますが、どのようなことを学ぶのでしょうか?演技というものは感覚的なものだと思っていたので、体系的に学べるものなのか気になっております。もし、関連した書籍等ご存知でしたら英語で書かれたものでも構いませんのでご教示ください。
しかし、役者さんというのは皆さん魅力的ですね。自分の魅せ方を知っているといいますか。
最後になりましたが、いつも楽しませて頂いています。季節の変わり目ですのでご自愛ください。
解答
アメリカの演劇学校/体系的な演劇教育をご紹介するには、スタニスラフスキーの影響を受けて、1940年代にニューヨークで確立・体系化されたメソッド演技法に触れなくてはなりません。
コンスタンチン・スタニスラフスキーは、はロシア革命の前後を通して活動したロシア・ソ連の俳優・演出家で、世界中に大きな影響を与えたスタニスラフスキー・システムと呼ばれる俳優の教育法を作り出した人物です。
教科書的に簡単な説明をしてみると、スタニスラフスキーは、それまでの紋切り型や芝居がかりを否定し、役を演じるのではなく、真に役を生きる「心理体験の芸術」を主張し、そのための理論のみならず具体的な教育法を構築しました。
スタニスラフスキー・システムは、全世界の俳優教育に計り知れない影響を与えてましたが、日本の演劇(とくに新劇界)にも大きな影響を与えているので、彼の著作は繰り返し邦訳されています。参考文献としては、新訳である『俳優の仕事』全3巻(未來社)がよいでしょう。
さて、ルイシャルト・ボレスワフスキなどのスタニスラフスキーの弟子たちを通じて、その影響はアメリカでも広がります。
特に影響が大きかったのは、ボレスワフスキの弟子だったリー・ストラスバーグがニューヨークで仲間とともに設立したグループ・シアターであり、ここがご紹介するメソッド演技法のゆりかごとなりました。
グループ・シアターに集った仲間たちはやがて独自の路線を進むに至り(しかし、それぞれ自分こそはスタニスラフスキーの正しき継承者だと自認していたようです)、独自の拠点をつくっていきます。以下で人物と拠点、参考文献を挙げていきましょう。
グループ・シアター解散後、ストラスバーグもまた「アクターズ・スタジオ」の芸術監督として多くの俳優を育てて、メソッド演技法を根付かせていきます。
ストラスバーグの教えを受けた俳優に、ジェームズ・ディーン、ポール・ニューマン、マリリン・モンロー、ダスティン・ホフマンらがいます。
文献としては、ストラスバーグ 『メソードへの道』劇書房、またロバート・H・ヘスマン編『リー・ストラスバーグとアクターズ・スタジオの俳優たち』劇書房を。
ストラスバーグの仲間だった女優ステラ・アドラーは、パリで短期間スタニスラフスキーから直接指導を受けたこともあり、ストラスバーグが強調していた情緒的記憶をスタニスラフスキーが重視しなかったことを伝え、ストラスバーグと袂を分かち、自身の名を冠した「ステラ・アドラー芸術学校」を設立します。
アドラーに教えを受けた俳優にマーロン・ブランド、ロバート・デ・ニーロらがいます。
文献はアドラー『魂の演技レッスン22 〜輝く俳優になりなさい! 』フィルムアート社。
さらにグループ・シアターの俳優で、ストラスバーグ、アドラーの教え子だったサンフォード・マイズナーもまた、ニューヨークのネイバーフッド・プレイハウス演劇学校を設立、自身のメソッド演技法「マイズナー・テクニック」を教えていきます。
マイズナーに教えを受けた俳優にグレゴリー・ペック、スティーブ・マックイーン、ダイアン・キートンなど。
文献は『サンフォード・マイズナー・オン・アクティング』を。
分裂・解散するまでグループ・シアターの運営責任者だったハロルド・クラーマンにメソッド演技法の教えを受けたウタ・ハーゲンもまた、演劇学校のHB STUDIOを拠点にウタ・ハーゲンテクニックを展開していきます。
ウタ・ハーゲンに教えを受けた俳優にライザ・ミネリ、ウーピー・ゴールドバーグなどがいます。
文献はハーゲン『“役を生きる”演技レッスン ──リスペクト・フォー・アクティング』。