メールのフォルダ分けをやめよう
はじめに
こんにちは。
日々の会社における業務では、毎日大量のメールを処理する必要があります。
一部の先進的な企業ではGmailやSlackなどを使って仕事をするところも増えていますが、多くの日本企業ではさまざまな理由によりクラウドツールが禁止されており、MicrosoftのOutlookを使っている方がまだまだ多いと思います。
わりと評判の悪いOutlookですが、工夫によってはOutlookでもGmailのように効率的にメールの処理が可能です。
メールの処理にストレスを感じている方を対象に、効率化のヒントを提示します。
最初に参考資料を二つ紹介します。
参考資料① IBMによるメールの探し方に関する研究
Am I wasting my time organizing email? A study of email refinding
IBMによる研究ですが、メール利用者の端末に利用状況監視ソフトを入れて、メールを探すのにかかる時間を手段別に調べたものがあります。これによると、フォルダ分けよりも検索のほうがメールを探すのに時間がかからないそうです。あまり意外な結果ではないと思いますが、メールを探すのにかかる時間をきちんと測定したことに価値があります。
論文のabstractを日本語訳したものは下記になります。硬いですがすいません。
「わたしたちはみんな毎日メールの中の情報を探しているが、この再発見のプロセスについてほとんど知らない。複雑なフォルダ分けなど事前(preparatory)の努力をするユーザーもいる。しかし現代のメールクライアントはそのような努力のいらない検索やスレッド化という便宜的(opportunistic)な手段を提供している。メールを探す方法を比較するため、これら機能を備えたメールクライアントを用意し、345人のユーザーの85000回以上の(メールの)再発見を研究した。われわれのデータは便宜的なアクセスを支持している。フォルダ分けは発見の生産性を向上させなかった。反対に、検索とスレッド化は効果的な発見を促進した。現在の検索ベースのメールクライアントはスクロールというもっとも一般的な行動を無視している。スレッド化のアプローチはもっと拡張されるべきである。」
英語原文ABSTRACT
"We all spend time every day looking for information in our email, yet we know little about this refinding process. Some users expend considerable preparatory effort creating complex folder structures to promote effective refinding. However modern email clients provide alternative opportunistic methods for access, such as search and threading, that promise to reduce the need to manually prepare. To compare these different refinding strategies, we instrumented a modern email client that supports search, folders, tagging and threading. We carried out a field study of 345 long-term users who conducted over 85,000 refinding actions. Our data support opportunistic access. People who create complex folders indeed rely on these for retrieval, but these preparatory behaviors are inefficient and do not improve retrieval success. In contrast, both search and threading promote more effective finding. We present design implications: current search-based clients ignore scrolling, the most prevalent refinding behavior, and threading approaches need to be extended."
要するに検索しましょうということです。
論文の中の表によると、フォルダ分け経由ではメールを探すまで平均一分かかりますが、検索だと20秒以下とのことです。
論文から抜き出した下のtable 2に測定結果がまとまっています。
https://gyazo.com/e2f4c48e2b654a0d79bd22acae2aab20
英語ですがかなりおもしろい論文だと思いますので、興味のある方はご一読どうぞ。
ユーザーはメール利用時間の一割をメール整理に使っているというデータや、平均して五日ごとに新しいフォルダを作ってるという興味深いデータも紹介されています。
コンピュータ関係で名著とされているThe Art of Readable Codeに以下の文があります。
"Code should be written to minimize the time it would take for someone else to understand it."
「コードは他の誰かがそのコードを理解する時間を最小化するように書かれているべきである」
これの単語を入れ替えてメールの話に適用すると、
"Mail box should be organized to minimize the time it would take for a person to find target mail."
「メールボックスは本人が目的のメールを探す時間を最小化するように整理されているべきである」
と言えるのではないかと思います。
そして、その整理とは、フォルダ分けではなく検索なのです。
紙の整理のアナロジーで、フォルダ分けをしていては、時間的な効率は低いままとなるのです。
電子情報なのだから、なんらかのキーによる検索が早いのです。
参考資料② 超整理法
超整理法新書版リンク。電子版は下の文庫版のものしかありません。
超整理法文庫版のkindle版リンク
『超整理法』は画期的な書類管理システムを提唱して1990年代にベストセラーになった本です。
大きな主張は二つあります。
①ポケットひとつ原則=置き場所を一つに限定すること
置き場所をひとつに限定するならば、何かを探すときはそこだけを探せばよい。もしそこになければ、その何かは存在しないということが証明できる。
②検索には時間軸のキーが有効
人間はそもそも分類が苦手である。分類してもどこに分類したか忘れることが多い。
なので分類をそもそもしない、放棄するか最小限にするとよい。
一方でその情報にいつごろ接触したかという時間に関する記憶は意外としっかりしていることが多いということです。
具体的な超整理法は紙の整理にかかわるもので、自分の管理するすべての書類をA4より少し大きい角二の封筒に入れて封筒の名前を付け(日付は個人的にはオプションだと思います)、どこかの棚に右から左に順番に置いておくという方法になります。
新しい封筒は一番左に置きます。また、途中の封筒を取り出したときは、新しい封筒と同じく、戻すときに一番左に戻すようにします。これだけで書類が効率的に整理できるようになります。
野口悠紀雄 『「超」整理法―情報検索と発想の新システム』 中央公論社 1993
『アルゴリズム思考術』という本によると、超整理法の方法はコンピュータアルゴリズムの「再長未使用時間の原理」と「自己組織化リスト」に忠実なものだと言えるそうです。
「再長未使用時間の原理」はファイルのキャッシュなどの様に古いものから消されていくような原理といえば分かるでしょう。超整理法では、必ずしも古いファイルを処分しませんが、使わなかったファイルは右側に移動していきます。
「自己組織化リスト」とは、本から引用すると、
「複数のアイテムが一列に並んでいて、そのなかから特定のアイテムをしょっちゅう探し出さなくてはならないとしよう。探索自体は直線的で、アイテムを端から一つずつ調べていく必要がある。しかし、探していたものが見つかったら、列のどこに戻してもかまわないとする。この場合、検索の効率を最大限に上げるにはどこに戻せばいいだろう」
という問いがあった場合に、
「最長未使用時間の原子に従ってただアイテムを常にリストの先頭に戻せば、探索にかかる時間全体は、未来がわかっている場合の二倍以上には決してならないはずということ」
です。この場合に、量を度外視すれば超整理法は書類をただ積み上げる場合と等しくなるという指摘もあります。
ブライアン・クリスチャン トム・グリフィス 『アルゴリズム思考術』 早川書房 2017
二つの参考資料のまとめと私見
フォルダ分けをせずに時間軸を活かしながら検索メインにするとメールを探す時間が短縮できます。
メールフォルダの移動は時間的に高コストです。
フォルダを分ければ分けるほど目的のメールを探すまでに時間がかかるようになります。
メールは特に最近届いたものほど重要な可能性が高いです。
その日に返信するメールはほとんどが近い過去またはその日に届いたメールのはずです。新しいものが一番上に来る逆時間順に並べるのが一番効率的です
改善の大前提:デフォルトの検索対象フォルダの変更
Outlookの検索対象フォルダに対する初期設定は、すべてのフォルダを検索するのではなく、それぞれのフォルダを検索するようになっています。
この点がメールを探すのにかかる時間を無駄に長くしている可能性があります。
メールの検索対象を「現在のフォルダ」から「すべてのフォルダ」へするとすべての過去メールを対象とした検索ができるようになります。
ファイル→オプション→検索タブ→結果→検索対象範囲
のところから変更できます。
行動経済学で、人間はデフォルトの設定を自分からは変えないことが多いという話があると思いますが、ぜひそれを乗り越えてほしいと思います。Outlookの利用方法としては、どんどんフォルダ分けしていくというのが多く見られる利用方法だと思いますが、そちらに流れるのに抵抗すると時間節約というメリットがあります。
メールの利用方法マトリックス
この文章の上までの見方からすると、メールの利用方法は4つに分類できます。
①メールのフォルダ分けして、現在のフォルダを検索する設定
②メールをフォルダ分けして、すべてのフォルダを検索する設定
③メールをフォルダ分けせずに、現在のフォルダを検索する設定
④メールをフォルダ分けせずに、すべてのフォルダを検索する設定
①のやり方をされる方は多いと思いますが、非効率になりやすいためお勧めしません。
②は二番目に効率的です。このやり方を選ばれる方が多いです。
③は、現行の受信トレイ以外にあるアーカイブ化された過去のメールなどが探しにくくなります。
④は一番効率的ですが、私が過去にメールの使い方などを発表したリアクションからすると、実際のところこのやり方を選ばれる方は多くありません。
上で引用した話とはすこし矛盾しますが、無理してフォルダ分けを止める必要はありません。
しかし検索対象はすべてのフォルダにしましょう。
SearchTips① 検索関連リボン
検索ボックスを入力オンの状態にすると、Outlook上部のリボンが検索関連のものに切り替わります。
その中には便利なものが多くあります。
「添付ファイルあり」で抽出
「フラグあり(to doなど)」で抽出
「最近検索した語句」を10件表示
「自分がtoまたはccに含まれているメール」を抽出などです。
以上がとりあえずオススメです。
SearchTips② クイックアクセスツールバーと設定方法
よく使うリボンの機能をクイックアクセスツールバーとしてウィンドウの左上に固定表示ができます。これに登録するとよく使う機能を使うときに1クリック節約できます。
各リボンのボタンの上にマウスをもってきて右クリック→「クイックアクセスツールバーに追加」で追加可能です。
Outlookのオプションの「クイックアクセスツールバー」で順番も変更できます。
SearchTips③ 検索クエリー
メールは、fromとtoを使うだけでかなり絞られます。
メールボックスに常時100人くらいが登場しているならば、「from:名前」で絞ることで単純計算で1/100に絞られます。実際には偏りがあるのでそうはなりませんが。
人間は他人の顔認識が得意という研究がありますが、誰から届いたメールなのかというのも結構印象に残りやすく覚えていることが多いのではないかと思います。
さらにfrom:とto:を同時使用するとかなりピンポイントで目的のメールにたどりつきます。
すごくおおざっぱに言うとfrom:他人 to:他人で1/100*1/100 = 1/10000になることもあります。正確にはなりませんが。
また、subjectでの検索はかなり強力です。
subjectは最大全角100文字程度なので、そこだけを対象に検索をするとかなり絞られます。
社名、キーワード、定型subject、通知メールの定型句などが使用できます。
普段から件名に注意を払っておくと、後からの検索精度が上がります。
SearchTips④ 右クリックからスレッドの検索
カーソルをメールの上に持ってきて右クリックして、「関連アイテムの検索」→「このスレッドのメッセージ」をクリックするとメールがスレッド表示されます。
この機能で簡単にスレッドにまとめられます。
同じく「関連アイテムの検索」→「この差出人からのメッセージ」検索も便利です。そのメールの差出人からのメールを抽出表示します。
SearchTips⑤ 検索ワードの部分一致と完全一致
メーリングリストのメールはaliasの部分を完全一致検索することで簡単に抽出できます。もちろんアドレス全体でも可能です。
ダブルクオテーションで挟むことで完全一致検索が可能になります。
メールの判断基準
受信者の意向を無視して不特定多数にばらまかれるメールをスパムメールといいます。
スパムメールは時間の無駄なのでクライアント側でフィルタすることが多いでしょう。
逆に、主に自分に宛てられたメールで、何かアクションの必要になるメールは必要なメールです。英語ではham mailと呼ぶこともあるそうです。
自分のメールボックスに届くあるメールが、アクションの必要なメールであることを一番よく予測する要素はなんでしょうか。
それは、宛先またはccに自分が含まれているかどうかだと思います。
会社でのメール受信では、メーリングリストなどを通して自分にはそこまで関係していないメールがたくさん届きます。
メーリングリスト別にフォルダ分けなどをする人も多いでしょうが、自分のアクションの必要なメールはさまざまなメーリングリストに分布します。
どのメーリングリストで流れたメールだとしても、自分のアクションが必要なメールは、宛先またはccに自分が含まれていることが多いです。
そのため、アクションの必要なメールを効率よく抽出するには、フォルダ分けに頼らず、自分宛のメールだけを目立たせるような処理をすることが効果的だと言えます。
上で紹介したように、リボンの自分宛てだけを抽出する機能もありますが、受信箱での各メールの色を替えることもできます。
Outlookでは条件付き書式の機能でそれを実現できます。
下記などで設定方法が説明されています。
私は過去に自分宛てのメールだけ赤字で表示するようにしていました。
メール通知のオンオフ
フォルダ分けを止めるとすべてのメールに対して通知が発生しますので、ストレスになるならば通知を停止しましょう。
通知を切っても、タスクバーのOutlookアイコンに新着メールアイコンを表示させることができます。
そこを見れば新着メールがあるかどうかは分かります。
ある程度の短い間隔で新着メールをチェックしておけば、同僚から反応が遅すぎるなどと苦情がくる可能性も少ないと思います。
フォルダ分けしないメール運用の実際
この文章の方法ですと、基本メールは届いてから短時間のうちにすべて開く感じの運用になります。
自分に届くメールは
A 読む必要のないメール
と
B 読む必要のあるメール
に分かれます。
読む必要のないメールは、
①自分の業務には直接かかわらないが、メーリングリストなどを通して届いてしまうメール
です。読む必要のあるメールは、
②読むだけで終わりのメール
と、
③返信や作業など、読む以上のアクションの必要なメール
とに分かれます。計3種類です。
①の業務に関係ないが届いてしまうメールにはなるべく最小限の時間しか使わないようにしましょう。
開いた瞬間に判断できると思います。
差出人と件名だけで読む必要がないことが分かることもあります。
②の読むだけのメールはなるべくその場で読みましょう。
③のアクションの必要なメールにはすぐ反応するか、フラグをto do代わりに付けておきましょう。
フラグをつけたメールは、検索関連リボンの機能ですぐに抽出可能です。
基本的に③のアクションの必要のあるメールの95%以上は最初に開いたタイミングで拾えると思いますが、一部取りこぼしが発生するでしょう。
取りこぼしを探すための検索方法を工夫して用意しておき、定期的に検索することで作業漏れを防止しましょう。
時間がもったいないので、受信トレイにあるメールのアーカイブ化以外のメールフォルダの整理はまったく行わないほうがいいでしょう。
業務の変化には検索行動の変更で対応しよう
仕事や取引先の変化に合わせてフォルダと振り分け設定を増やしていくと、フォルダのリストがどんどん長くなります。
それを移動するだけで時間を食います。
業務上の意外と大きな負債になります。
仕事の変化に対しては検索ワード・検索クエリの変更で対応しましょう。
「現代の仕事とはストックの管理ではなく、フローの制御である」(超整理法3)という野口氏の発言があります。
不要なメールの削除は一切しないほうがいい
理由は時間が浪費されるからです。
メールフォルダの全体はある意味カオス的な状態のままでいいのです。
見つけたいメールが適宜すぐに見つかるならば、見かけ上の整頓はあまり重要ではありません。
メールを削除するときには、あなたの時間が捨てられていることを意識しましょう。
最後に
「ビジネスメール実態調査2015」によると、9割以上の企業で「ビジネスメールの研修がない」そうです。
それぞれの人が我流でメールを利用しており、非効率なやり方になってしまうことも多いです。
ここを標準化できるとメリットが大きいと考えます。
今まで述べたとおり、メールを探すのにはフォルダ分けではなく検索のほうが時間がかかりません。
Outlookを業務で使っている人はぜひフォルダ分けをやめて検索メインにしましょう。
それによってあなたの仕事が少しでも楽になれば幸いです。
また、本文章のやり方は、会社のなかで実行する人が増えればそれだけ会社全体の時間が節約できます。
効果が単純に掛け算的になります。
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