1.17 青山練兵場の「なんじゃもんじゃ」
池野がまだ学生の頃、青山練兵場のナンジャモンジャの木(この木は本名をヒトツバタゴという)の花を採ろうと話し合い、夜中に採集を強行した事があった。樹が高くてとれないので一人の人力車夫を傭うてきて、樹に登らせ、その花枝を折らせた。夜中で人が見ていないから自由に採れたし、練兵場も荒れていて、この樹も後年のように大事がられなかったので、採集に成功したわけである。それに学術資料を採るのだから、そう罪にはなるまいと考えた。この時の花の標品が今なお私のハァバリウムの中に保存されているが、ナンジャモンジャの木は寿命が尽きて、数年前には枯れてしまったので、今では当時の標品がまたと得難き記念標品となっている。また当時本郷の春木町に、梅月という菓子屋があって、ドウランと呼ぶ栗饅頭式の菓子を売っていた。形が煙草入れの胴籃どうらん見たようで、この名があったのだが、大層うまかったので、池野と二人で度々食いに行ったものである。