タイトルについて
ダブルバインドという言葉が表すように、本作にはメインのメッセージとメタメッセージが同時的に発されており、それが時としては良い形で,もちろん時としては悪い形で現れている
最も分かりやすい形としては、本作にはエクスペリメンタルな態度とポップな態度が同時的に発されており、それはそもそもとして対立概念ではないため矛盾を生まないはずだが、結果として矛盾として機能してしまっている場合がある
これ自体はネガティブbutそれでいて何故リリースしているか、については別途話す
本来的には我々としては絶対条件としてエクスペリメンタルがあるはず
それはエレガンスを形成するために必要な状態だからである、という話はあるが、それもまた別途話す
一旦端的に言えば、エクスペリメンタルな試みがない音楽に単純に自分らが何かを感じることがない、それはシンプルにそういう属性だから という話をする
何を持ってエクスペリメンタルとするか、という定義はここでは避ける
が、エクスペリメンタルを取り巻く状況は常に芳しくない
我々としても「真に良い音楽」を作ればそれは確実に聴衆に届くはずだと信じてやっていきたいものだが、自分も散々「真に良い音楽」が全く人々に聞かれていない状況をこれまで見てきたし、それは単なる幻想でしかないと気づいてもいる
spotifyのアルゴリズムやプレイリストに組み込まれることを想定して曲を作るなどということは本当に極めて馬鹿げたことだと思いつつも、それを全く無視できないのも実情ではある
どちらかというとこれらの考えとそれに基づく結論は、必ずしも音楽業界の構造や聴衆のリテラシー、批評の現在などに対する批判ではない(もちろんそれらに対する批判が全くないわけでもない)
spotifyは馬鹿げているが、spotifyがあろうがなかろうが俺たちの音楽は愛されるとも言い切れないので、安易にspotifyやプレイリストカルチャーを批判したところで何も起きない
むしろ一番の問題は、そういう課題に対峙した際に安易に聴衆に働きかけやすい装置としてポップス的な語彙を拝借してしまうことだったりする
実際問題ポップス的な語彙はうま味調味料ほど勝手がよく万能な装置ではない
それはそれで形作るのが難しいものではある
正直に言えば本作を作り終えるまでは
実際アンビエント作品の多くは人工的なものとの対比としてアンビエントを配置し、自然に何かしらの純粋性を見出すと同時にそこに存在している美的な資質のみを抽出しているような、言ってしまえばかなり人間中心主義的な自然解釈に基づいた作品が多い
なのでそこに対する批判精神として、アンビエントにリアリズムを付与するという発想でもって世界そのものの猥雑性に向き合っている
周期性を持った音もそうでない音も、継続的になる音もそうでない音も、パーカッシブな音も持続的な音も、人工的な音も自然物の音も鳴る、そしてそれらが鳴ること自体への介入不可能性
そういった考え
カクテルパーティー効果に若干触れてもいいかもしれない
実際問題自分らが上記的なコンセプトを持ちつつも、カクテルパーティー効果的にある特定の音素材を中核に据える、的な恣意性をそこに持ち込んだのは事実
その事実、詰まるところリアリズムに対する作為
それ自体がアンビエントの語源,ambiの意味である二者間の往来へと意図せず接近するきっかけになっている
アンビエントのリアリズムと作為が混ざり合っている箇所、一方だけが強調されている箇所
あとこれは批評的なテキストではないとどこかでちゃんと提示しておきたい
更に言えば自分たちの考えを展開するために恣意的に物事を抽象化して解釈していることも提示しておきたい
防衛策ではあるが、実際音楽制作するということがそこまでシンプルなものではないということも理解していると提示する
なのであくまで主観的に自分たちの活動をどう捉えているか、みたいなところに軸がある、と
(エレガントフレームワークスは全く別物)
鳴ること自体への介入不可能性
ダブルバインドはアメリカの学者グレゴリー・ベイトソンが提唱した概念/造語であり、非常に雑ではあるがWikipediaからその意味を引用すると"ある人が、メッセージとメタメッセージが矛盾するコミュニケーション状況におかれること"を指すものであるとされている。ダブルバインドがどういった概念,状態であるかの説明をするとそれだけで随分な文量になってしまいそうであるし、更に言えば自分達も厳密な研究を行った上で本タイトルを付けたわけではないので抽象的に理解していただければそれで十分である。
仮想敵化することを目的とした上でやや抽象化していることを認めた上で言えば、今日において聞かれる多くのアンビエント作品はドローン的なサウンドや最近で言えばグラニュラー的なテクスチャーと躍動感のあるリズムトラックの不在、そして幾らかロマン主義的なメロディなどといった要素の組み合わせによって構成されているものが多い。