社会的ネットワークにおける協調形成に関するゲーム理論分析:ネットワーク・トポロジーに着目して
https://gyazo.com/5943bf0ff4d154b34ca864289344fe71
m0t0k1ch1.icon ネットワーク上におけるゲーム(games on graphs)の概要を把握する
m0t0k1ch1.icon 社会的ネットワークにおける協調形成を想定したゲームを games on graphs の一例として把握する
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1. はじめに
(1) 研究の目的
昨今,より良い地域生活を目指し,地域内の多様な主体(住民・NPO・企業・行政など)が協働して様々な社会的サービスを提供しようとする取り組み(以降,協働型地域づくり活動と呼ぶ)が全国で展開され始めている.
こうした協働型地域づくり活動は,地域内の主体が広く協働して活動に参加することによって自律的に存続可能となり,活動の成否において,社会的ネットワークを介した人々の協調関係の形成が重要である.
本研究では,特に,社会的ネットワークの位相幾何学的構造(トポロジー)に着目し,そのメカニズムが有するロバストな性質の解明を目指す.
m0t0k1ch1.icon 地域の活性化を促すサステナブルな社会的ネットワークをトポロジー的な観点から分析する、と
(2) 既存研究と本研究の位置づけ
ネットワークを外生とする(exogenous network)か,内生とする(endogenous network)かで分析の枠組みを大別できる.前者はネットワーク上におけるゲーム(games on graphs),後者はネットワーク形成ゲーム(network formation games)と呼ばれる.
m0t0k1ch1.icon もう少し違いがイメージしやすいように書くと、以下のようになると思う
m0t0k1ch1.icon games on graphs:与えられたネットワーク上でのゲームを通じてネットワークの性質を分析する
m0t0k1ch1.icon network formation games:ネットワークの形成プロセスをゲーム理論的に分析する
https://gyazo.com/796b841bbaf92dee1df88149039cb2b1
本研究では,ネットワーク上における協調ゲームを分析の対象とする.
m0t0k1ch1.icon この論文で扱われているのは games on graphs の方
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2. 分析の枠組み
(1) ゲーム
$ N ~ (\geq 2)人のプレイヤーをノード,プレイヤー間の繋がりをリンクとする社会的ネットワーク$ gを想定する.本モデルではネットワーク構造は与件とする.各プレイヤーは2つの行動$ X = \{0, 1\}を選択する.行動$ 1は協調する(e.g.地域づくりに参加する),行動$ 0は協調しない(e.g.地域づくりに参加しない)を意味する.各々のプレイヤーはリンクで繋がっているプレイヤーと毎期ゲームを繰り返す.本モデルのゲーム構造には戦略的補完性が働くものとする.戦略的補完性とは,自分と同じ行動を取るプレイヤーが増加(減少)すると,自分の限界効用が増加(減少)する性質をいう.プレイヤー$ iの効用関数$ u_i(X)は式(??)のように与えられるとする.
$ u_i(1) = \frac{m_i}{d_i(g)}\alpha - c ~~~~~ (1)
$ u_i(0) = 0 ~~~~~ (2)
ここで,$ d_i(g)はプレイヤー$ iの次数,$ m_iはプレイヤー$ iのネイバーのうち行動1を取っているプレーヤー数,$ cは行動$ 1を取る為のコストを表す.
m0t0k1ch1.icon 前提として、games on graphs なので、ネットワーク構造は与件
m0t0k1ch1.icon キーワード:戦略的補完性
m0t0k1ch1.icon この場合、$ m_iが戦略的補完性に寄与してるということかな
m0t0k1ch1.icon $ d_i(g)が増えると効用が小さくなるのは、人が増えて効用が希釈されてるイメージ?
m0t0k1ch1.icon $ \alphaについては触れられてないけど、単なる係数?
各プレーヤーには,行動変更の機会がランダムに到着するとし,行動$ 1をとるプレイヤーが行動変更の機会を得る確率を$ \mu_1,行動$ 0のプレイヤーが行動変更の機会を得る確率を$ \mu_0で表す.行動変更の機会を得たプレイヤーは,変更後の行動をロジット選択する.プレイヤー$ iが行動$ 1を選ぶ確率$ \sigma_1,行動$ 0を選ぶ確率$ \sigma_1は以下の式に従う.
$ \sigma_1 = \frac{\exp{\{\eta^{-1} u_i(1)\}}}{\exp{\{\eta^{-1} u_i(1)\}} + \exp{\{\eta^{-1} u_i(0)\}}} ~~~~~ (3)
$ \sigma_0 = 0 ~~~~~ (4)
ただし,$ \eta > 0:プレーヤーの異質性パラメータである.
m0t0k1ch1.icon 行動変更の機会はランダム(また、行動変更したからといってネットワーク構造が変化するわけでもない)
m0t0k1ch1.icon ざーっくりとは、$ u_i(1)が大きいほど行動 1 を選ぶ確率が高くなる、という素直な式
m0t0k1ch1.icon また、$ u_i(0) = 0なので、$ \sigma_1の分母の右側は実質$ 1
m0t0k1ch1.icon ちなみに、後のシミュレーションでは$ \eta = 3としている
地域づくり活動を想定した本モデルにおいては,各プレーヤーのとる行動の組合せは問題ではなく,何人のプレーヤーが協調行動をとっているかのみが活動の成否(経済効率性)に影響を及ぼす.そこで,行動1を取っている人数を集約化した状態として再定義し,状態数を$ N + 1(全員が行動0の場合を含む)とする.
(2) ネットワークの指標
a)次数(Degree)
あるノードの次数とは,そのノードのもつリンク数である.ノードの次数が確率変数であるとき,その分布を次数分布といい,横軸に次数,縦軸に次数を持つノードの割合を取った分布である.
b)平均距離(Average Distance)
ノード$ i, j間を結ぶために必要な最小リンク数と距離と呼び,$ l_{ij}と表す.すべてのノードのペアに関する距離の平均値が平均距離である.
$ < l > ~ = \frac{1}{N} \sum_{i = 1}^N \frac{1}{N} \sum_{i = 1}^N l_{ij}
c)近接性(Closeness Centrality)
ノード間距離に対して,距離$ 1の場合には$ \deltaを,距離$ 2の場合には$ \delta^2,距離$ tの場合には$ \delta^tといった具合に割引をおこなったものをすべてのノードのペアに関して平均したもの.ネットワーク全体として,ノード同士が近接していることを示す指標である.
$ < l_d > ~ = \frac{1}{N} \sum_{i = 1}^N \frac{1}{N} \sum_{i = 1}^N \delta^{l_{ij}} l_{ij}
m0t0k1ch1.icon 「割引」って書いてるってことは、$ 0 < \delta < 1( $ < l_d >が大きいほど近接性が強い)ということかな
d)クラスター係数
あるノード$ iにとって,$ iを頂点とする三角形の数をノード$ iと繋がっているノードの総対$ d_i (d_i - 1) / 2で割った値をクラスター係数と呼び,$ C(i)で表す.あるノードと距離$ 1で繋がるノード同士が何割距離$ 1で繋がっているかを示す指標である.ネットワーク全体のクラスター係数$ Cは,すべてのノードのクラスター係数の平均で表す.
$ C = \frac{1}{N} \sum_{i = 1}^N C(i)
m0t0k1ch1.icon もう少しわかりやすく言うと、「$ C(i)は、ノード$ iの隣接ノード$ d_i(g)個から 2 個選んだ(選び方は$ d_i(d_i - 1) / 2通り)とき、その 2 個が繋がっている確率」という感じになると思う
(3) 社会的ネットワーク
本稿では,社会的ネットワークの重要な特性であるスケールフリー性とスモールワールド性に着目して分析を行う.スケールフリー性とは,少数のプレイヤーは多くのプレイヤーとリンクを持ち,大きな次数を持っている一方で,大多数のプレイヤーはごくわずかなプレイヤーとしか繋がっておらず次数が小さいという特性であり,指標a), c)と関連する.また,スモールワールド性とは,平均距離が短く,クラスター係数が大きいネットワークの特性であり,b), c)に関連する.具体的に,分析に用いるネットワークは,以下の通りである.なお,スモールワールド・ネットワークについては,すべてのプレイヤーの次数が等しいレギュラーネットワークを基に,Watts&Strogatz(WS)モデルに倣って3つのネットワークを作成した.
https://gyazo.com/7166a8781f58334cdd5592523768b201
・エルデシュレイニー(ER)ネットワーク:次数をポアソン分布(8)に従うように与え,リンクをランダムに繋いだネットワークであり,平均次数に近いプレイヤーが多く,次数が大きいプレイヤーや小さいプレイヤーも少数存在する.
・スケールフリー(SF)ネットワーク:次数をべき則(9)に従うように与え,リンクをランダムに繋いだネットワークであり,スケールフリー性を持つ.
・1WSネットワーク:ローカルな相互作用を持たず,グローバルな相互作用のみを持つネットワークである.平均距離が短いが,クラスター次数は低い.
・pWSネットワーク:ローカルな相互作用(左右のプレイヤーと結ぶ割合(1-p)のリンク)とグローバルな相互作用(ランダムに結ばれた割合pのリンク)を併せ持つネットワークである.平均距離が短く,クラスター次数が高いスモールワールド性を有する
・0WSネットワーク(サークルネットワーク):ローカルな相互作用しかなく,近所同士のみが繋がっているネットワークである.クラスター次数は高いが,平均距離は長い.また,0WS$ + ~ \alphaネットワークは,0WSネットワークに$ \alpha本のリンクをランダムに繋いで作成したネットワークである.
m0t0k1ch1.icon 1WS ネットワーク・pWS ネットワーク・0WS ネットワークは、スモールワールドネットワーク
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3. シミュレーション分析
(1) 設定
モデルに共通のパラメータを次のように設定する:$ \rho = 0.01,$ \mu_1 = 0.05,$ \mu_2 = 0.05,$ \eta = 3,$ T = 50000.また,いずれのネットワークにおいても,ノードの平均次数が$ 5となるようにパラメータを設定した.
(2) 結果と考察
https://gyazo.com/169ae667682210e9b43657f4450c384a
a)リスク支配的行動と均衡選択
コスト$ cを区間$ \lbrack 0.8, 1.2 \rbrackの間で変化させた時の行動$ 1を取るプレイヤーの割合に着目する.なお,上記区間において,常に行動$ 1がパレート効率的な行動である.一方,$ c >1の場合,行動$ 0がリスク支配的であり,$ c < 1の場合,行動$ 1がリスク支配的となる.図-2は,横軸にコスト$ c,縦軸に全プレーヤーによって行動1が選択された回数の割合を表している.これより,いずれのネットワークにおいても,リスク支配的な行動が選択される可能性が高いことが明らかとなった.この結果は,均衡選択に関する既存の研究と整合的である.
m0t0k1ch1.icon 効用関数(再掲):$ u_i(1) = \frac{m_i}{d_i(g)}\alpha - c
m0t0k1ch1.icon 引き続き$ \alphaがなんなのかよくわからないが、$ 0 < \alpha < 1なら、$ c > 1のときは$ u_i(1) < 0なので、行動$ 0がリスク支配的になるということかな
https://gyazo.com/5d37263972f0531a8bdd6211ee16e727https://gyazo.com/3834a55122c002830a7738dde8ca43fb
b)ネットワーク・トポロジーが協調形成に与える影響
ネットワーク・トポロジーが協調形成にどのような影響を与えるかについて考察する.$ c = 0.95とし,協調行動が効率的かつリスク支配的な行動である場合を想定する.図-3は,行動1の人数(状態)に関する頻度分布(ヒストグラム)を1WSネットワークとSFネットワークについてそれぞれ示している.1WSネットワークにおいては,効率的な均衡に対応するピークが1つであるが,SFネットワークにおいては,非効率的な均衡に対応するピークが同時に存在している.表–2は,各ネットワークにおけるヒストグラムの平均と分散を表している.各ネットワークとも,平均はほぼ同水準であるのに対し,SFネットワークの分散が大きいことがわかる.次に,図–4は近接性(Closeness Centrality)と分散の関係を示している.以上より,次数の大きなプレーヤーが存在し,そのためにネットワークの近接性が高いとき,次数の大きなプレーヤーの選択に周りのプレーヤーが引きずられ,ネットワーク全体として非効率な均衡に落ち込む可能性があることが推察できる.結果として,SFネットワークでは,非効率的な行動が選択される,すなわち協調形成に失敗する確率が他のネットワークと比較して高いといえる.
m0t0k1ch1.icon スケールフリー性を持つネットワークは、次数$ d_i(g)の大きなノードに引きずられて非効率な均衡に落ち込む可能性があるため、協調形成がうまくいきにくい
表–2より,0WSネットワークと1WSネットワークを比較すると,1WSネットワークの方が平均が高く,分散が小さいことが分かる.図–5は,WSモデルおける平均距離(の逆数)と分散の関係を表している.平均距離が短いほど,分散が小さい(それに伴って平均は大きくなる)ことがわかる.したがって,WSネットワークでは,平均距離が短い程,効率的な行動が選択される確率が高い.一方,クラスター性については,分散との相関関係は見られなかった.
m0t0k1ch1.icon スモールワールド性を持つネットワークは、平均距離$ < l >が短いほど効率な行動が選択される可能性が高い(協調形成がうまくいく可能性が高い)
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4. 結論
本研究は,協働型地域づくり活動を念頭に置き,社会的ネットワークと人々の間の協調関係の構築について,そのメカニズムの解明を試みた.分析を通じて,ネットワーク・トポロジーが協調形成に以下のような影響を及ぼすことが明らかとなった.
1.スケールフリー性を有するネットワークにおいては,協調形成に失敗する可能性が他のネットワークと比較して高い.
2.スモールワールド・ネットワークにおいては,平均距離が短い程,協調が形成される可能性が高い.
以上の結果から,地域づくり活動においては,少数のカリスマ的存在に頼るのではなく,地域全体がより密なコミュニティを形成することが重要であるといえる.なお,ネットワークの形成を内生的に扱うモデルへの発展は,今後の課題である.
m0t0k1ch1.icon 「地域づくり活動においては,少数のカリスマ的存在に頼るのではなく,地域全体がより密なコミュニティを形成することが重要」らしい
m0t0k1ch1.icon 「ネットワークの形成を内生的に扱うモデルへの発展」って書いてるってことは、「games on graphs を通じて所望の性質を備えたネットワークを見極めつつ、どうすればそのネットワークを構築できるのかを network formation game で考える」という研究プロセスが一般的なのかしら