あ
昨日はひがし君の OSSにPRを投げた話 でした。3日め担当のはずが一番最初に投稿することになるんじゃないかと思ってビクビクしていましたが投稿されてよかったです。 この記事は部内向けに書いているのでふわふわとした議論だけをします
話のおおすじ
微分・積分に似た概念として差分・和分を導入する
→なんか性質が似てる
→調和数 $ H_n と $ logx がうまいこと対応してる
高専2年では、関数がどの位置でどれくらい変化するのか、を調べる道具として微分というものを学習します。
ここでは微分について細かく触れることはしませんが、微分に似た概念として差分というものを導入して、この演算について考えていきたいと思います。
一般に、連続な関数 $ f(x) に対する微分法は
$ \frac{d}{dx} f(x) = \lim_{h \to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}
と定義されます。
微分では、連続的な世界で $ x をすぐそばまで動かして $ f の増加量を調べることをしました。これを離散的な世界、すなわち、整数のようにとびとびの値しか取れない世界へと拡張するとどうなるでしょう?
離散的な関数 $ f(x) に対する差分法として
$ \Delta f(x) = f(x + 1) - f(x)
を考えます。簡単のために、ここでは $ x がとる値を整数としています。
差分をこのように定義したのは、離散的な世界での $ x の "すぐそば" は $ x+1 であるためです。
微分を関数に対する演算と見て$ \frac{d}{dx} を演算子だと見ます。$ \frac{d}{dx} の名前はなんでもいいので、差分との対応がわかりやすいよう $ D f(x) と書くことにすると、
$ D f(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h) - f(x)}{(x+h)-(x)}
$ \Delta f(x) = \frac{f(x+1)-f(x)}{(x+1)-(x)}
となります。
こうすることで、微分と差分の対応がより自然に感じられるかと思います。
具体的な関数で差分を考えてみましょう。
微分において、$ Ce^x は微分しても $ Ce^x となる関数でしたが、差分にもこのような関数が存在します。
$ \Delta f(x) = f(x) なる関数 $ f(x) は、
$ \Delta f(x) = f(x)
$ \Rightarrow f(x+1) - f(x) = f(x)
$ \Rightarrow f(x+1) = 2f(x)
より、$ f(0) = C ($ Cは定数) とすると、
$ f(x) = C2^x
であることがわかります。
つまり、連続的な世界での $ e は離散的な世界では $ 2 に対応しているということがわかりました。
$ \begin{aligned} 連続的な世界での関数 &\longleftrightarrow 離散的な世界での関数 \\ e^x &\longleftrightarrow 2^x \end{aligned}
1次式 $ Cx の微分は $ C ですが、差分は
$ f(x) := Cx
$ \Delta f(x) = C(x + 1) - C(x) = C
となり、微分の結果と一致します。
では $ x^2 や $ x^3 でも微分の結果と一致するでしょうか?
$ f(x) = x^2
$ \Delta f(x) = (x+1)^2 - (x)^2 = 2x + 1
$ x^2 の微分は $ 2x だけど差分は $ 2x+1 になってしまいました。
何かうまい対応付けを考えたいです。
そもそも連続的な世界の $ x^2 をそのまま離散的な世界に持ち込んだことがよくありませんでした。
$ e^x と $ 2^x のように、離散的な世界での $ x^2 を見つけていきましょう。
離散的な世界での $ x の $ m 乗を $ x^{\underline m} と記述することにします。
つまり、 $ x^{\underline 1} = x であり、$ \Delta \{x^{\underline 2 }\} = 2x^{\underline 1}, \Delta \{x^{\underline 3 }\} = 3x^{\underline 2}, ..., \Delta \{x^{\underline m }\} = mx^{\underline {(m-1)}} となるような $ x^{\underline m} の定義を見つけたいです。
$ f(x) := ax^2 + bx + c として、$ \Delta f(x) = 2x となるような $ a,b,c を考えてみましょう。
定義より、
$ \begin{alignedat} \Delta f(x) &= \{a(x+1)^2 + b(x+1)+c\} - \{ax^2+bx+c\} \\ &= (ax^2+2ax+a + bx+b + c) - (ax^2+bx+c) \\ &= 2ax+a+b \end{alignedat}
よって、 $ a = 1, b = -1 ととると、$ \Delta f(x) = 2x が成り立ち、
$ f(x) = x(x-1)
が成り立ちます。
これが離散的な世界での $ x の2乗です。
同様に、$ f(x) := ax^3+bx^2+cx+d として、$ \Delta f(x) = 3x^{\underline 2} (\not = 3x^2) となるような $ a,b,c,d を求めると、
$ a=1, b=-2, c=1, d=0 となって、
$ f(x) = x(x-1)(x-2)
となります。(scrapboxでTeXを何行も書くのが大変なので計算過程は省略しました、難しい計算ではないので気になる人は手元でやってみてね)
ここまで、
$ x^{\underline 1} = x
$ x^{\underline 2} = x(x-1)
$ x^{\underline 3} = x(x-1)(x-2)
となっています。パターンが見えてきましたね!
$ x^{\underline m} を
$ x^{\underline m} = \underbrace{\big(x-0)\big(x-1\big)\big(x-2\big)...\big(x-(m-1)\big)}_{m個}
と定義しましょう。これが離散的な世界での $ x の $ m 乗に対応します!
実際に計算をしてみると、
$ \begin{aligned} \Delta x^{\underline 4} &= (x+1)\underbrace{(x-0)(x-1)(x-2)} - \underbrace{(x-0)(x-1)(x-2)}(x-3) \\ &= \Big\{(x+1)-(x-3)\Big\}(x-0)(x-1)(x-2) \\ &= 4(x-0)(x-1)(x-2) \\ &= 4x^{\underline 3} \end{aligned}
$ \begin{aligned} \Delta x^{\underline 5} &= (x+1)\underbrace{(x+0)(x-1)(x-2)(x-3)} - \underbrace{(x+0)(x-1)(x-2)(x-3)}(x-4) \\ &= \Big\{(x+1)-(x-4)\Big\}(x+0)(x-1)(x-2)(x-3) \\ &= 4(x+0)(x-1)(x-2)(x-3) \\ &= 5x^{\underline 4} \end{aligned}
$ \begin{aligned} \Delta x^{\underline 6} &= (x+1)\underbrace{(x+0)(x-1)(x-2)(x-3)(x-4)} - \underbrace{(x+0)(x-1)(x-2)(x-3)(x-4)}(x-5) \\ &= \Big\{(x+1)-(x-5)\Big\}(x+0)(x-1)(x-2)(x-3)(x-4) \\ &= 4(x+0)(x-1)(x-2)(x-3)(x-4) \\ &= 6x^{\underline 5} \end{aligned}
となり、確かに成り立っています。
同様の計算で一般について成り立つことも示せます。
これまで離散的な世界での冪として扱ってきた $ x^{\underline m} には名前がついていて、下降階乗冪と呼ばれています。
$ x^{\underline m} を
$ x^{\underline m } = \frac{ x! }{ (x-m)! } = \begin{cases} (x-0)(x-1)...(x-m+1)&(m > 0) \\ 1 &(m = 0) \\ \displaystyle\frac{ 1 }{ (x+1)(x+2)...(x-m) }&(m < 0) \end{cases}
と定義すると
$ \Delta (x^{\underline m} ) = m x^{\underline {m-1}}
が成り立ちます。$ m < 0の場合についても成り立つことを確かめてみてください。
$ \begin{aligned} 連続的な世界での関数 &\longleftrightarrow 離散的な世界での関数 \\ e^x &\longleftrightarrow 2^x \\ x^m &\longleftrightarrow x^{\underline m} \end{aligned}
さて、ここまでは微分と差分の類似性について扱ってきましたが、今度は逆演算を扱ってみようと思います。
微分の逆演算として、不定積分
$ g(x) = D f(x) \Leftrightarrow \int g(x) dx = f(x) + C
がありますが、差分の逆演算として、不定和分
$ g(x) = \Delta f(x) \Leftrightarrow \sum g(x) \delta x = f(x) + C
を定めます。以下では定数関数 $ C を省略して記述します。
和分は差分の逆演算ですので、当然
$ \sum (2^x) \delta x = 2^x
$ \sum (x^{\underline m }) \delta x = \frac{x^{\underline{m+1}}}{m+1} (m \not = -1)
が成り立ちます。
今、分母が$ 0 になる、すなわち$ m+1 = 0 \Rightarrow m = -1 を場合分けで除外しましたが、$ \sum (x^{\underline {-1} }) \delta x はどのような振る舞いをするでしょうか。
$ g(x) = \sum (x^{\underline {-1} }) \delta x
としたとき、不定和分の定義より
$ \begin{aligned} \Delta g(x) &= \frac{1}{x+1} \end{aligned}
差分の定義より、
$ g(x+1) - g(x) = \frac{1}{x+1}
これは調和級数の定義式
$ H_{n+1} - H_n = \frac{1}{n+1}
と一致するため、$ g(x) は調和級数、すなわち
$ g(x) = \frac{1}{1} + \frac{1}{2} + \frac{1}{3} + \frac{1}{4} + ... + \frac{1}{x}
であることがわかります。
不定積分においては、
$ \int (x^{-1}) dx = \log x
が成り立ちますので、(厳密な議論はともかくとして)これで離散的な世界における $ \log x は調和数 $ H_n であることが言えます。
これはまた別の証明になりますが、調和数
$ H_n = \frac{1}{1} + \frac{1}{2} + \frac{1}{3} + \frac{1}{4} + ... + \frac{1}{n}
は近似的に $ \log n であることが知られています。
調和数が $ log n になるというのは数式だけを見るとあまり直感的でない主張ですが、差分という概念を持ち出して離散的な世界から考えてみるとごく自然に思えるかも知れません。
$ \begin{aligned} 連続的な世界での関数 &\longleftrightarrow 離散的な世界での関数 \\ e^x &\longleftrightarrow 2^x \\ x^m &\longleftrightarrow x^{\underline m} \\ \log x &\longleftrightarrow H_x \end{aligned}
今回はICT委員会 コロナに負けないぞブログリレーということで 全然埋まっていないし記事を書かせていただきました。
差分・和分についてはまだまだ議論の余地や厳密な証明も可能な話題だと思います。例えば
合成関数の差分はどうなるか?
関数の和/差/積/商の差分はどうなるか?
などです。
こういった一種のお遊びのような数学をいじくり回してみるのも案外楽しいもので、遊んで観察をしているうちに、何か思わぬつながりが見られることもあったりします。
ご時世がご時世で大変だとは思いますが、ひまつぶしにこういった数学をしてみるのもいいんじゃないかなあと思います。
差分・和分はおもちゃのひとつにすぎないので、ぜひ数学で遊んでみてください。
明日はウエハラさんの記事です。楽しみにしています。
2020/5/27 らずひるど