第1回/章/目覚め
もちむら.icon
夢と現実の境目でまきばは童話のような夢を見る。このココアとはなんだったのか、わかったような気がした(夢特有の謎納得)
まきばと森永は部屋で目覚める。
会話、起こすのはルームメイト
部屋はぐちゃぐちゃになっていた。
arika.iconこの回収の仕方すき
どうやら夢の世界にいる間、夢遊病患者のように歩き回っていたらしい。
ということは部屋を破壊したのはまきばである。
まきばは目が覚めても続く悪夢に肩を落とすが、森永は楽しげでテンションが非常に高い。
まるで青い鳥みたいだとはしゃぐ。
まきばは内心ではうれしく思いながらも塩対応でいなす。
ひとまる.icon↑ここ好き
全ては夢だったかのようにも思われたが、少女から買ったココアのコップが確かに現実に残っている。
回想
改めてココアの入っていたコップを手に取る。印刷されているのは仲良く手をつないだ二人の女の子。ココア売りの少女と、その大事な人の姿だったのだろう。まきばはそれを握り潰すとゴミ箱に投げ込んだ。
code: text
むかしむかしあるところに、ふたりの女の子がいました。
病気がちな女の子と、魔女の子ども。
魔女はお友達の治療費を稼ぐために、自分の家の庭先でココアを売ることを思いつきました。
甘くて黒い飲み物の中に、隠し味に魔法をひとつまみ。
飲めばたちまち思いのままの素敵な夢を。
ココアはどんどん評判になって、たくさんのお金が集まりました。
けれどそのお金がお友達の手術に使われることはありませんでした。
楽しい夢を見られるココアにお友達自身が夢中になってしまい、夢の中から二度と戻ってこなくなってしまったからです。
魔女の女の子は行き場のなくなってしまったお金を使ってココア工場を作りました。
彼女は今も、お友達のために作ったココアを売り歩いているのです。
知らない誰かの声で語られる荒唐無稽なおとぎ話。考えたのは私なのだろうか? 白い光の中に夢が消えていく。
「まーきーば。まきば」
ほっぺたがぷにぷにとつつかれている。重い疲労感に体を動かせずされるがままでいると、今度はそのまま私の頬が無限に伸ばされていった。
「痛い!」
「オハヨ~」
にやけた顔が目に飛び込んでくる。というか、顔が近い。
「起きた? 朝だよ~。見て見て、すっごいことになってるから」
私は森永に手渡された眼鏡をかけた。
「何これ?」
「何って、全部まきばがやったんだよ?」
目覚めた場所は真っ白な病室――ではなかった。
見慣れたワンルームですらなかった。いや、ここは確かに私たちの部屋なんだけど。倒れたイーゼル、ヘッドと本体が物別れになった掃除機、破れたお気に入りのカーテン、あらゆるものが無茶苦茶に破壊されていた。
「うそでしょ」
歩けば鳥の羽がフワフワと舞いあがる。羽毛布団破けてる、最悪。
「これを片づけるの……?」
「いい考えがある。しばらくこのまま暮らそう!」
「馬鹿じゃないの」
「なんで、よくない? まきばが壊したあたしのオブジェ、めちゃ映えるよ」
「怒ってないの?」
「へ? 怒ってるのはまきばじゃなかったっけ? あんないかついハンマーふりまわして、こ~んな顔してさぁ」
森永は自分の眉毛を指で釣り上げた。唇まで突き出して、悪意しか感じられない。
そんなことより。
「待って。なんで私の夢のことを森永が覚えてるの」
「私の夢? あたしの夢までまきばが来てくれたんでしょ? いままでで一番サイコーだったぁ!」
森永はベッドから飛び降りて破れた布団を抱きしめながらぐるぐる回った。
「ちょっと、羽が飛び散るからやめて!」
「あはははは!!! ね、青い鳥みたいだね! 一番わくわくさせてくれるのは、寝て見る夢なんかじゃなかったんだ!」
「ちょっと何を言っているのかわからないんだけど」
森永はぎゅっと羽毛布団を抱きしめてその塊にキスする。
「やめて!」
「何照れ? あはは~」
それにしても何が夢で何が現実だったんだろう。
あのココアは。病院に森永を運び込んだことは。
私の視界に赤いものがうつった。いろんなものの残骸にまぎれて落ちていたのはあのココアのカップだ。印刷されているのは仲良く手をつないだ二人の女の子。あの子のさみしそうな顔が頭をよぎった。
「これはもう、いーらない!」
森永はそれを握り潰すとゴミ箱に投げ込んだ。