東京オータムセッションのアニメーションMVがすごい
https://www.youtube.com/watch?v=asZ0SVwCec4
インスト版もおすすめ。
https://www.youtube.com/watch?v=9IykYWuPQ30
2020年1月15日発売のアルバム「好きすぎてやばい。〜告白実行委員会キャラクターソング集〜」収録曲である「東京オータムセッション」であるが、初めて聴いたときからとても好きで、何度も聴いたのだが、そのあと2020/01/24にMVがYouTubeに公開されて、どうも全体がごちゃごちゃしてアニメーションと歌詞がうまくハマっていないように思えて、真面目に観たことがなかったのだが、このたび、ひとにHoneyWorksをおすすめする機会があり、みかえしてみたところ、技巧的で面白いMVだと思ったので、詳しく説明していこうと思う。以下の論考では、上に埋め込んだ東京オータムセッションのアニメーションMVから画像を引用する(秒数指定あり)。 ちなみに、この曲は四季を題材にした『東京サマーセッション』『東京ウインターセッション』とセットな曲なので、おそらく『東京スプリングセッション』もいつか来るのかも。この2曲との対比はあんまりしてません(暇なときにやる)。「今」において6人組がまったく揃ったりしないとかいったことは指摘できるかも。 このアニメーションMVの中では、以下の3人のカップルの「今」と「過去」の対比をふまえて、疎遠な関係の今を修復しようという物語が描かれている。
瀬戸口優・榎本夏樹
望月蒼太・早坂あかり
芹沢春輝・合田美桜
自分もHoneyWorksは詳しくないので、まず3つのカップルを描いていることを意識しないとごちゃごちゃして何をやっているかわかりにくいと思う。3つのカップルごとに違った演出をしていて、それを交互にやっているのだから違和感があって当然で、最初観たときに、すごいごちゃごちゃして歌にあってないように思えたのかもしれない。自分にとっては完璧な演出のMVというよりは、目標を達成するために色々な工夫をしていることが学べるMVという意味で教育的な作品だった。
このMVのアニメーション、凡庸なひとが作ったら、たんに歌詞に対応させて17~20歳までの毎年を映像アルバムのようにする駄作になりかねないけど、本作は、出会った子供の頃~高校生、現在の二分で、前者をサビなどと対応させるといった行き来をする構成にしているのが意欲的である。
歌詞の秩序、物語の秩序(小説や劇場アニメなど)、アニメーションの秩序があって、それぞれがちゃんと噛み合わうように構成を考えて、それを観たひとが、どのスキーマを参照しても理解可能な秩序を作るというのはほんとうに大変なことで、自分も読み解きながら、どっか検討してないことがありそうだなと思いながら考察していた。
自分がMVの作り手だったら、過去のHoneyworksのアニメーションや小説を参照して構造的に読み取れるような工夫を埋め込んだりする気はするので、自分はそういうのあんまり覚えてないから、きっと見落としている演出箇所もあるんだろうけど、そこは詳しいひとの論考を待ちたい。
https://gyazo.com/57f71eb3fb65b7042c843be8ea05fd1c
3:41
疎遠になりそうな今を焦点に、登場人物たちが過去を回想して、今と向き直すという物語を描くのに、単純に、歌詞通りに、高校の付き合い始めたとき以降の歴史だけに焦点をあてるだけでなく、幼馴染としての出会いまでを視野にいれているのは、MVの作り方、見方として勉強になるものだった。
3つのカップルを描く必要があり、尺をどう振り分けるかというのがとてもむずかしい課題で、それぞれのカップルごとに、アニメーションのカメラなどの演出を変えているのも見どころ。
このMVはイントロで瀬戸口優の18:26の留守番電話の音声から始まり、待ち合わせ場所から榎本夏樹が「バカ」と呟いて離れるように、この2人が大きく取り上げられており、二人が手をつないで終わるという二人の恋愛関係の修復の物語となっている。
東京「オータム」セッションというタイトルの通り、時期は「秋」であり、冒頭の街樹も紅葉しており、エピローグの過去回想も優と夏樹の二人の過去で落葉を夏樹がかけってふざけあって終わるというのも印象的である。3:54のY字の枝は合流の象徴ともいえるかも。
秋というと、人肌恋しくなる時期であり、この歌の歌詞のサビにある「ねえ、触れていたいよ」という気持ちをどうアニメーションで芝居させるかという部分が観るときに意識すると面白いポイントで、今はどのように疎遠になっているのか、距離がどうして離れているのか(各自、仕事など大事なことに向き合ってる)、また過去はどのように触れ合っていたか、それらを踏まえて今、過去みたいにまた距離を縮めたいという心の動きを手などに注目して今と過去とを対比的に捉えることができる部分だ。 https://gyazo.com/630a33b260c3ce1fc9a8e9c9ec314a10
4:27
https://gyazo.com/7d0c0cd7be23dd24f82bed87c3cd8053
4:28
https://gyazo.com/7b3784b3948cdc335b82b315606c20ef
4:31
https://gyazo.com/09e0dcee283cdf80bf9b01d04cb7e2af
4:39 過去の回想ではいつも優から手を差し伸べている(と思ったけど、傘は夏樹が差し出してたな)。「今」花束を渡されたというシーンに繋がる。
https://gyazo.com/ff7b93fd9a51d19d84a158a93af5b440
4:48
https://gyazo.com/bd5ee3c4d6ffb181e42a62827dea21c1
5:07
https://gyazo.com/7720a7bc37f14470e487f2d9e2cba6ac
5:28 最後だけは夏樹からの落葉のプレゼントになっているのが面白い
過去のたとえば最初に出会った頃はふつうに瀬戸口・榎本なんかは手を握ったりして、距離感というを二人の背中からの相合い傘で示した最後の部分が、その延長として今の二人の背中で終わるという部分もよいと思う。
https://gyazo.com/055df225a33eef4ea57dd451cd1b5960
4:51 中学生のときは距離が遠くなる。
https://gyazo.com/39e1a7ac1afe99de68b0f3cc3fa7669a
4:57 雨があがって、「今」においてもまた雨があがるという重なりがある。
https://gyazo.com/0a384938981a4a6993da933608863dab
5:16
望月蒼太・早坂あかりでは視聴者カメラを意識したメタ性のある演劇的ショットで、掛け合いを実際にアニメーションの二人に歌わせている。
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1:32 歌詞に「LINE」みたいな言葉が入ってると、長期的には古びてしまったりしそう。ノスタルジーを想起させる記号になりそう。逆にいえば、今の若者にとってアクチュアルな作品になってるのかも。
https://gyazo.com/acf7bc12852667fd03087d5e43a21393
1:36
芹沢春輝・合田美桜
芹沢の「比べられない」(1:54)のパートは、現代の芹沢の職業がカメラマン的なもので、手に持っているカメラからショットがそのあとに入る(子供がバスケでゴールに入れる)のは、サビの「baby girl」の過去回想(2:11)が、たんなる回想でなくて、2カットだけ「カメラ」を通したもので、それが今の仕事の原点だったという繋がりがあるのかも(小説などとの整合性があるかは不明)。
https://gyazo.com/789bf4385af9d1db8d48ffd6deb04b53
1:54
https://gyazo.com/7ffcfc113c741063f5820fb584ede0da
1:56
https://gyazo.com/d6bdb4d6af3551c11a330f1ba7cffd3f
1:57
https://gyazo.com/c813599f28ddce17f7ef3518e2e87631
2:10 こっちのカットは手前の早坂あかりが自分で撮ってるのかも。
https://gyazo.com/6e1e1eb147f6962c5049dc30bfa383c2
2:11 こっちは芹沢春輝の自撮りだと思う。まあ、この辺は深読みだったかも。
このカップルだけMVの最後まで「今」において触れ合わないんだけど、一本道の階段のカットだったり、両者のいる場所の画面を決して共有しないという「関係が修復できてない」ことを明示的に表現しているのは地味にすごい。たぶん、ここまでちゃんと気づくひとは少なそう。
https://gyazo.com/176fbca60459425f383179e078b97249
2:07
3:44のカットが、ここだけ分割反転するから目立つなと思って、なんで空間を分割することを目立たせようとしているんかなと思って気になっていたので、そこが着想になって気づいた(触れることができない手という演技がよい)。
https://gyazo.com/e0d95a9fa480a7c988ffdcd697458cf3
3:43
https://gyazo.com/ae68028cdb67e28465973b82440f9a44
3:16
https://gyazo.com/6be2270fa425839128138d94bf5f8dd0
3:20
芹沢春輝・合田美桜の「今」のパートで、「1本」の飛行機雲を通じた世界の共有という表現も面白い。夕焼けと明るい昼間という対比的な部分も印象的。
アニメーション監督の角地拓大ってひとは自分は知らなかったけど、ここまでちゃんとした仕事ができるひとなのだと記銘しておこう。『邪神ちゃんドロップキック'』8話とかが気になってる。 その他メモ事項
正直、いまいちだなと思った「揺れて揺れて」のくだりは倦怠期みたいなので疎遠になっても、初心にかえってみると、やっぱり運命の人に対しては、ちゃんと出会い直すよ、みたいなのの、心象的、時間的な重なりを表現してるのかも(もしかすると他のアニメーションのどっかを参照してるのかも)。
https://gyazo.com/a6240557a829689811eee4e7201ab94a
3:54 分岐の象徴の枝。すれちがいの象徴であり、合流のきざし、「人生の分岐」を暗示する。
https://gyazo.com/e0d4f65698a33daaf9a48af7e55f1442
3:57雨が降ってきて、待ち合わせの場所に来たが、もう彼女は行ってしまっている。
https://gyazo.com/7d8db084171aea06d1f5d46a13982052
4:01 ここの巻き戻し的な部分は面白い。心象的、過去的なものへのアクセスなのか。
https://gyazo.com/169eac2f12535d10a8ddc486599cacab
4:01 雨が降ってて、靴が離れると水の波が広がる。「雨」は最後の相合い傘にも繋がる要素である。
https://gyazo.com/2d81ac6731a18d32b4350f3140c68bec
5:11 待ち合わせ場所に間に合わなかった伝言が18時で、そこから雨が降って、雨が止み、仲直りしたのは23時ぐらいかな。
https://gyazo.com/51ad7202fa7483ed039eed520a2307ce
3:48 時間というと、ここでは19時過ぎ
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0:15 ショットとショットの間の時間経過、繋がりを意識させる道具が色々と出てくるな。
https://gyazo.com/961546d3eefee90cecfb3bac6b3ddfdd
1:06 鳥が羽ばたく。ちなみにこのときの花柄は、最後の花束だったり、二人で手をつないでいるシーンのサイドの花柄ともつながりがありそう。
https://gyazo.com/ff97d8cdba109941cde3f19e72cac4b1
1:10
https://gyazo.com/4e376c35e3e46334ea51350a85dbed6b
2:35 この二人のシーンは花束を背景にして切り替えているとかそういうことかな。
https://gyazo.com/b8931b60b3043c5e520f89e617e3f7ac
5:15
https://gyazo.com/1292f5dc44ecb405651f8a88b1354f10
1:11 心象風景的な白背景の箇所も最後の部分だけでなく何箇所か出てくる。
https://gyazo.com/071c291a8401f4628b983231ef41c882
2:17
『東京オータムセッション』を解釈するうえで、歌が統語(シンタグム)的、線形的に規定していて、そこに対応するようにアニメーションが作られていると思ってしまうが、アニメーションにもまた統語的な秩序があって、単純に歌詞を映像化しているわけでないというのが面白かった。
「たんに歌詞に対応させて17~20歳まで」順番に歌詞どおりに、アニメーションも対応させるということもありえたが、アニメーションにはまた違った秩序があって、今と過去と、それぞれのカップルを交差して表現していて、単純な対応関係になっているわけではない(もちろん、歌詞的な対応箇所(1:32とか)はたくさんあるが)。
順序的には歌詞やメロディが最初に作られて、それを元にMVを作ったのかもしれないけど、解釈のうえでは、どっちをドミナントにするかによって、違った解釈ができるようにMVを作るということも理屈上では可能なのではないかと(当該作ではそこまで踏み込んでいるようには思えないが)。
HoneyWorksってカゲプロと同じで、歌とMVの総体としての物語もあり、それを踏まえた劇場アニメなり小説があるため、どこを参照するか、どこを参照しないかで、観るときの軸が違ってくるから、解釈においてまずアニメや物語を軸にしてそこを参照するひともいるんだろう。自分はまず歌詞だったけど。
アニメとか小説まで追ってるガチ勢は、スキーマとして、各カップルの関係性について深く知ったうえで、MVを観るときも、それを参照することができるが、自分はそうでないので、歌詞を軸にして解釈する中で、アニメをより説明的に理解することができると。
いくらMVの外に大量の統御的な情報があったとしても、そのMVしか触れることのないひとに届かないのでは意味がないということはあって、アニメーションで芝居をさせることで、それをどうやったら説明できるかという部分が監督の腕の見せ所なんだろうな。