アドルフに告ぐ
https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41ERTtZEHNL.jpg
1983年、イスラエル。1人の日本人男性がひっそりと墓地の一角に佇み、ある墓の前に花を供えた。彼の名は峠草平。40年前、3人の「アドルフ」に出会い、そしてその数奇な運命に立ち会うことになった彼は、全ての終わりを見届けた今、その記録を1冊の本として綴ろうとしていた。
時は1936年8月、ベルリンオリンピックに湧くドイツへと遡る。協合通信の特派員であった峠草平は、ベルリンオリンピックの取材にドイツに派遣されていた。8月5日、取材中にベルリン留学中の弟・勲から1本の電話が入る。勲はおどおどした調子で草平に「重大な話があるから明後日の夕方8時に必ず自分の下宿に来てほしい」と頼んだ。峠は個人的な話だろうと思い、弟の深刻さを理解しないまま電話を切った。
8月7日、勲との約束の日がやって来た。草平の取材しているオリンピック競技は棒高跳びから始まり、アメリカ勢3人と日本2人のしのぎを削る争いとなった。その後雨が降り出し競技は中断。決勝は日没後にもつれ込んだ。そのため草平は弟との約束の時間である8時に間に合わなかった。
ようやく競技が終わり、草平は急ぎ足でタクシーに乗り込み、勲の住んでいるベルリン大学の西通りへ向かったが、勲は何者かに襲われ、無残な姿となっていた。しかも勲の遺体は予想もしない形で持ち去られ、行方不明になってしまう。さらには事件そのものが跡形もなく消されてしまった。
自分が約束に遅れたために、勲を死なせてしまったと悔やむ峠は、勲の遺した謎を追って奔走するが、彼自身にも危険が迫る。アセチレン・ランプとの邂逅、そして勲の元恋人を名乗る謎の女ローザの出現。様々な奇禍を重ねながら、物語はやがて日本へとその謎の舞台を移して行く。