菅俊一氏(第1回ゲスト)
プロフィール
研究者/映像作家
1980年東京都生まれ。人間の知覚能力に基づく新しい表現を研究・開発し、さまざまなメディアを用いて社会に提案することを活動の主軸としている。主な仕事に、NHKEテレ「2355/0655」ID映像、21_21 DESIGN SIGHT「単位展」コンセプトリサーチ、21_21 DESIGN SIGHT「アスリート展」展示ディレクター。著書に『差分』(共著・美術出版社、2009年)、『まなざし』(ボイジャー、2014年)、『ヘンテコノミクス』(共著・マガジンハウス、2017年)。主な受賞にD&AD Yellow Pencil など。
著書:『観察の練習』
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『ヘンテコノミクス』
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2018/1/29 講演内容
踏み台としての制約、動線としての制約
法の専門家ではなく、デザインの表現をする、教えることをしている
創造において、制約は足かせとなっているのか?
創造において制約はネガティブなものに見える、というのが一般的なイメージだと考えている。
制約こそが、創造性を誘発するトリガーとなっている
日々制作している中で、これを実感している
制約とは、ある制限をして、自由にさせない
実は多くの表現制約者は、経験上そのことに気がついているが、あまり言語化されていない。
制約があれば、なんでもいいという訳ではない。
創造性に寄与できる制約には、良い制約と、悪い制約がある
創造に制約が関与する2つのアプローチ
1. つくり手が新しいアイデアを生み出すための踏み台としての制約
2. 人々に効果的に情報を伝達・判断してもらうための導線としての制約
踏み台としての制約
完全な自由な状況では、どう考えれば良いのかわからない
どの方向に、どれくらい考えればいいのかわからない。
多くの人は無限の選択肢に直面すると手と思考が停止してしまう。
いろんな創造領域で当てはめられるのでしょう (論文フォーマットの制約が創造を生む、という話を思い出しました)
踏み台としての制約を用意することで方向性が決まる
踏み台に乗って、飛べばいいので、方向は定まる
あとはどれくらい飛ぶのかを決めるだけ
問題が整理されている状態というのが、踏み台としての制約
Q. 身の回りのある風景から、何か気になるものに1つ注目してください。
問題が抽象的で決めにくい。
→身の回りにある「赤いもの」を探してください。
制約の仕方によって、創造性を発揮できるかどうかが決まってくる
表現制約者は、思考技術として、踏み台としての制約をどう設定するか、を身に着けなければならない。
事例
NHK Eテレ
2355
0655
とっかかりは何か
とにかく面白い映像を考える → 無理
自分の中で、踏み出しとしての制約を定める
2355 ID製作時に課した制約
人間の資格認知メカニズムを使って、「見えない物が見える」という状況を作り出す。
視覚心理学の知見を使って、2355という数字を映像内で見えた、という状況をつくることを考えた。
制約を課して考えていくと、「制約を外れる」という新しい踏み台が現れる
デザイン教育における「踏み台としての制約」の可能性
多摩美術大学の統合デザイン学科で教えている
課題:構造による組写真
対比、並列、入れ子、ループになっている様子を5枚の組写真で撮ってきなさい
課題:開いたり、閉じたりして見る写真
「人間の行動」をテーマに、実際にプリントアウトして、開いたり閉じたりしてみると、動作として見えていく。
課題:ありえない状況を想像させる写真
2枚の写真を合わせることで、あり得ない状況を想像させる写真を用意する
この制約がないと生まれないような写真表現が生まれる
創造性を発揮するための思考モデルとして、「踏み台としての制約」を自ら設定できるように設定方法を学ぶ
導線としての制約
判断や行動に制限をかけることで、よりユーザーの価値を高めることができる
価値の作り方
相対的な物の見方でつくる価値
比較対象があってはじめて、価値自体を認識・評価できることがある
表現の側から比較対象を定めて、価値の認識をしやすくする
ex: 観察の練習、『ヘンテコノミクス』
選択という行為を経ることでつくる価値
単一な選択肢ではなく、複数のものから選ぶという経験自体が満足度や価値につながる
例:
捨て案
カラーバリエーション
伊藤園の自販機(エビアン、おーいお茶)
選択や判断の存在を消すことで作る価値
めんどくさいの正体は、判断という行為にある
そもそも判断しなくて済むように、設計しておく
デフォルトの設計
アプローチャリビティ(使おうとしやすさ)を考慮した設計
例:シャインマスカットを小分けにして冷蔵庫に入れておく
例:土足禁止の玄関に、ダミーの靴を置いておく
誘導されていても、ユーザーが怒るわけではない。自然と動作してもらう
まとめ
制約が創造性を誘発する可能性がある
創造が制約を関与するには、踏み台としての制約と導線としての制約の2つのアプローチがある
制約には良い制約と悪い制約がある
表現製作者が設定している制約の粒度を分析することで、法や契約の仕組みを策定する際の指針になるかもしれない。
サンスティンてこの人ですか?
キャス・R.サンスティン
なお、水野弁護士からのオーダーで出されたのはおそらく『シンプルな政府』という書籍だと思います。
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サンスティンは、リチャード・セイラーとの共著ですが『実践行動経済学』もおすすめですよ。 アプローチャビリティに関する記事@エクリ
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コメント
特許制度はまさに踏み台としての制約ですが、批判が非常に強い。法制度の場合、ある日にスタートすると、それ(特許制度)がある世界とない世界の比較ABテストができないのが悩ましいところ。(なお特区制度) takujihashizume.icon