KPTへの洞察
問い: KPTという方法が、チームや組織の継続的な学習と成長を促すための手段として最大限の効果をもたらすための条件は何か
Keep/Problem/TryのKPTフレームワークがもたらす効果
人間の認知バイアス 『根本的な帰属の誤り』
他人の失敗の原因を気質・能力的な要因に求めやすい
状況や偶然性が軽視される
自分の失敗の原因は状況的な要因に求めやすい
逆に気質・能力的な要因が軽視される
『一番単純で直感的な結論を出す傾向』
成功についても同じことが起きる
自分の成功の原因は気質・能力的な要因に求めやすい
状況や偶然性が軽視される
他人の成功の原因は状況的な要因に求めやすい
逆に気質・能力的な要因が軽視される
単純で直感的な結論、あるいは自分にとって都合のいい結論に急ぎやすい
KPTの本質
Keepの本質
Keepとは「続けたいこと」である
「続けたい」ということは、それが「行為」であることを要求する
「続いてほしい」であればそれは「事象」である
「行為」と「事象」の分別
Keepできるのは行為のみ
「やったこと」は書けるが「起きたこと」は書けない
行為の主体の特定
行為を続けるかどうかは、その行為の主体が意志するものである
われわれのうちの誰の意志にも依らないなら、それは事象である
コントロール不可能な事象の発生は偶然の賜物である
行為が再現可能であるかの分析
行為の主体がわれわれであっても、意志だけでは続けられない行為もある
再現するための十分条件を見いださなければ、Keepできない
状況に恵まれたうえでの行為であれば、真の原因は行為ではなく事象(状況)である
行為は必要条件かもしれないが、十分条件ではない
うまくいったことの要因からバイアスを取り除く
自分(たち)のうまくいった原因は能力・気質的な要因に求めやすい
バイアスを矯正するための問い
そのKeepは行為であるか
行為の結果でなければ、成功は偶然である
そのKeepの主体はわれわれか
主体がわれわれでなければ、成功は偶然である
そのKeepは再現可能か
再現可能でなければ、成功は偶然である
Keepとは、成功の状況的要因、偶然性に目を向けさせるための認知トレーニングである
上記の問いにより、KeepからKeep足り得ないものがふるい落とされる
KeepしたくてもできないものをKeepできるようにする、それがKeepから生まれるTryである
言いかえれば、その行為をKeepに書きたいのに書けないということそれ自体がProblemである
ある行為の結果が好ましいものであったなら、それを再現しようとする意志は自ずと生まれうる
ましてやそれが再現可能であるなら、特別な方法論などなくても続けようとするだろう
ではなぜKeepを書くのか
それはKeepを書こうとしてはじめて見つけられる「Keepに書けなかったこと」を発見するためである
成功の要因がアンコントローラブルな偶然の賜物であったことを知覚するためである
その知覚はなんのためか。成功が行為の結果となるように、偶然性を克服するためである。
その偶然性を、われわれの成功を損ないうる問題であると認識するためである。
Keepできないことを知覚するということは、すなわち解決すべきProblemを見つけることにほかならない。
Keepに書かれた行為を続けることそのものはKPTの本質ではない
「Keepに書けなかったこと」、Keepにスポットライトを当てることではじめて輪郭を表す影の領域、自然には知覚されぬものを知覚するためにこそフレームワークという形で認識を矯正する意味がある
Problemの本質 = 失敗に対するバイアスの矯正
Problemとは「問題」である
問題とは、何かとわれわれの関係性である
問題は 「私」と「何か」の関係性の中で立ち現れる現象である
Faultではないし、Accidentでもない。つまり、過去の出来事や事実を書くのではない
何がどうあることがわれわれにとって不都合なのか、ということに目を向ける
「われわれの問題」になっているか
事実それ自体は問題とはなりえない
問題はかならず評価を伴う
われわれにとっての問題であれば、それはかならずわれわれのなんらかの欲望を阻害している
よって、どんな問題であれ深く掘り下げるといずれは「――ができない」という不可能の形になるはず
KeepしたいことがKeepに書けない、これも不可能の形である。
うまくいかないことの要因からバイアスを取り除く
自分(たち)のうまくいかない原因は状況的な要因に求めやすい
バイアスを矯正するための問い
そのProblemは「われわれの問題」か
事象や行為そのものは問題になりえない
それを問題視するわれわれの価値基準が説明されているか
そのProblemはTryを生み出すか
Tryが思いつくということは、その問題は状況的な要因だけに支配されているのではなく、行為によって介入する余地がある
まったくTryを生み出せないProblemだけが、真に状況的な要因による失敗だと結論付けられる
それ以外のProblemは行為の関与、つまりわれわれの能力・気質的な要因を含む
KeepとProblemの本質から導かれるTryの本質
Keepとは「Keepに書けないこと」を見出す段階であり、成功の裏のアンコントローラブルな偶然性を発見するものであった
Problemとは物事を問題視する価値基準を明らかにし、失敗の裏のコントローラブルな可能性を発見するものであった
つまりTry、あるいはKPTによる振り返りの本質とは、
どのような事象・行為が「われわれにとって」好ましく、逆に好ましくないのかという価値基準のチューニングであり、
好ましいことの原因のうち再現可能な要因とそうでない要因との分別であり、
好ましくないことの原因のうち解決可能である要因とそうでない要因の分別であり、
われわれが取り組むべきは、再現可能ではない成功の要因と、解決可能である失敗の要因を、行為によって(偶然によってではなく!)解決するという「改善する意志」の確認である
KPTでの振り返りでは、TryにはAction (行動) を書き、次からの改善行動に結びつける必要がある。そのためには、KeepにもActionを書くようにするか、もしState (状態) を書いたならば、そのStateを生み出したActionをTryに記載するようにする。