教科書:確率過程
確率過程に興味があるB4・M1が読むべき教科書について説明する.
金澤の書いた速習ノート
まず読むことを薦めるのは金澤が書いたノートである.
この最初の3章までを読めばよい.確率過程のイロハ(確率微分方程式⇔マスター方程式の一対一対応,伊藤の公式)を30ページ以内にまとめている.金澤はこれより外観を速習できるノート・教科書は存在しないと思っている(実際,統計物理界隈では結構読まれているようで,「読みました!」というコメントが結構来る.但し,誤植があるので要注意...).もしより高度な内容(近似論・漸近論)に興味があれば4章まで通読するか,
を読めばいい.特に詳細版はランジュバン方程式のような確率モデルが,ミクロな力学系からどうやって数学的に導出されるかを書いている(分子運動論の範疇だが).
英語の標準的教科書
金澤のノートを読めば外観はつかめるはずなので,次は本格的な教科書を読もう.鉄板なのは次の2冊である
C. Gardinerは現代的な確率過程の教科書で,N.G. van Kampenは昔の物理流確率過程の教科書である.Gardinerの方が読みやすいが,van Kampenの教科書の方が物理的直観を鍛える上では優れていると思う.なので,両方を読むことをお薦めする.Gardinerに関しては1~5章(Fokker-Planck一般論),10~11章(ジャンプ過程)を読めばとりあえず良い.Van Kampenはシステムサイズ展開の章を読めばよい.
Gardinerを読めば様々な分野の「標準的な話題」についていけるようになるので,1冊読むならこちらが無難である.しかし,Gardinerは数学流の洗練された整理が入ったため標準的で分かりやすくなった一方で,かえって確率過程に対する物理的理解レベルが下がる整理方法になってしまっていると金澤は思う.金澤は最初「Gardiner分かりやすいなー」と思って読んでいたし,「van Kampenは泥臭くて嫌だなー」と思っていたのだが,システムサイズ展開をはじめとした,(この技術周辺の蘊蓄から来る)確率過程の物理的理解に関しては,明らかにvan Kampenの方が優れており,Gardinerから入門したことに少し後悔がある.特に非線形伊藤過程についての物理的な妥当性についての解釈は明らかにvan Kampenの方が適切に理解していたのだと思う.はっきり言って,「非線形伊藤過程については,『数学的に自然なモデル拡張が,物理的にはあまり自然ではない拡張になっていて,しかもそれは数学側からの整理だと一見気付かない』という教訓を与える印象的な題材だな」と,金澤は捉えている.しかし,Gardinerを読んだ方が,標準的な話題についてはまとまっている(教科書は他人との共通コミュニケーションの教養を増やすことが最大の目的)ので,Gardinerを先に読んだ方が良い気もするので悩ましい.
技巧的な内容(解の具体例)に興味がある人は
を読むと良い.解析解がたくさん載っている.また,経路積分表示(Onsager-Machlup表現)なども載っている.他には
なども確率過程について載っている.
異常拡散系の教科書
上の教科書は主に「普通の確率過程」を扱ったもので,異常拡散系のモデルはあまり載っていない.異常拡散系というのは,連続時間ランダムウォーク理論(continuous-time random walks, CTRW)で扱われていて,これはマルコフ確率過程と少し毛色が違う扱いになっている.CTRW系の標準的で教育的な教科書は
が良い.非常に読みやすいので,お薦めする.初学者向けなので,Gardinerを読む前に読んでも問題ない気さえする.