広義の『国語力』の訓練について
研究教育を行っていると,広い意味での「国語力」は研究において重要だと良く感じる.ここでは,金澤の昔やっていた,国語力を訓練する方法に触れる.金澤の独自手法なので,責任は持たない.(特に新規性を主張したいわけではないので,もし類似方法が既にあるなら,金澤に教えてほしい.引用したい.)
研究において国語力は何に使われるか?
「国語力」というのは曖昧過ぎる単語なので,少しだけ定義(の努力を)する.大学での研究活動で必要な国語力とは次のようなものをイメージしている:
論文/教科書/書類/メールを迅速に読み,正確に理解する能力
論文/研究計画書を執筆する時のストーリーテーリング能力
共同研究者(指導教員含む)との議論を円滑に行うための論点整理能力
これらの能力が十分高くない学生は多い.例えば,
指導教員としてコメントした時に,そのコメント内容を最後に学生に要約してもらうと,その学生が提示する「要約」がこちらのコメントとかみ合わない.
本を輪読して説明してもらったとき,本に書かれていない独自解釈を,あたかも本にそう書かれているかのように話す(※本の内容と個人の独自解釈を適切に切り分けできるなら,解釈をゼミで議論することは全然良い)
文章を書かせると,他人にとっては何を言いたかったのか,全くわからない文章を書く
というような事が典型的には多い.
まず前提として,殆どの大学生(院生)は作文が苦手である.これは作文の教育をまともに受けていないことに起因するので,仕方ないところがある(これは教員である我々の責任である).しかし,作文が出来ない根本的な理由が,ベースとなる国語力が低いことに起因することも多い.この場合は作文方法だけを教えてもすぐ作文が出来るようにはならない.ベースとなる国語力を高めることが先決である.よって,ここでは「ベースとなる国語力をどうやって訓練するか?」というのを説明したい.
国語力が低い理由は何か?
金澤が考える,国語力が低い理由とは次の3つである:
根本的に興味がない他人の話を,まじめに聞けない(性格の問題)
文章を読む行為が,我慢の問題として苦痛に感じる(マラソンで言う「基礎体力」がない状態)
短期記憶能力が低く,文章の各パラグラフでの主張内容を,頭の中でkeepしながら文章を読むことが出来ない
これらは金澤が高校生の時,全てに当てはまっていた.金澤が重要視するのは特に第三の理由である.まず第一,第二についてさっと触れた上で,第三の理由に進みたい.
第一の問題点は本質的に性格の問題である.金澤の場合,この問題は現在でも解決していないが,訓練で抑え込むことにした.具体的には,興味がなくても理性として読むべき文章を読むときは「これは仕事だ...これは仕事だ...」と最初に唱えてから,心を空にして読み始める訓練をした.金澤は「仕事モード」と読んでいる.仕事モードにスイッチするトリガーは何でも良い.私の場合は,一回の深呼吸をした後に「仕事するぞ」と心の中で一回唱えることだ.大事なことは「仕事としてならちょっとくらいなら我慢できる」という状態には訓練でなることができることだ.「モードを切り替える」訓練をしてほしい.
第二は単に文章を読む量が少ないことに起因する問題である.これは単に毎日文章を読めばよい.筋トレと同じであり,毎日文章を乱読すれば自然と解決する.恐らく,同時に第一の問題もクリアできるだろう.むしろ第三の問題が最大の障害だと金澤は感じる.というのは,意識しないと解決しない問題も含んでいると思うからだ.
第三の問題点である.まず金澤は短期記憶力が低いことを最初に告白しなければならない.これは文章読解において根本的な原因だった.文章を読むと,前の段落で何を論じていたのか,すぐポンポンと忘れてしまった.当然,文章を読み終わった時に「これは何を論じていたのですか?」と聞かれても,忘れてしまうので何も答えられなかった.これを根本的に解決する必要があった.
解決法:方法論
文章では,各パラグラフに何か主張がある.それらの主張を順に繋げることで最終的な主張が導かれる.まともな文章ならそういう構成になっているはずである.よって,各パラグラフの主張内容を頭に留めながら読むことは重要である.そこで金澤は
1. 各パラグラフにおいて,そこでの主張を短く要約した.
2. その内容を意識的に短期記憶に留める訓練をした.頭になかなか残らない場合は,頭の中で要約文を複数回暗唱したり,要約文を(英単語学習の様に)紙に鉛筆で書き出して,確実に要約文を頭に留める訓練を行った.
3. 上記の行動を複数のパラグラフに渡って継続する.要約文を連続的に繋ぎ,自然な論理になっているか確認し,その論理を短期記憶に留める.当然要約文はどんどん長くなるので,その要約文を時々再要約する.
という訓練をした.もう少し別の角度から説明するために,Pythonプログラミング風に書くと
code:Python
def summarise_document(paragraphs) # n個のパラグラフで構成される文章をparagraphs(リスト)で渡す
summary = []
for i in range(n):
sentence = summarise_paragraph(paragraphsi) # 要約する関数にi番目のパラグラフを突っ込む summary.append(sentence) # 要約文を繋いでsummaryにする
if length(summary) > memory_limit: # メモリー使用量を調べる関数length
summary = compress(summary) # 短期記憶可能な容量を超えたら圧縮(削減)する.
return summary
みたいなイメージで作業している.ここで,for文が終了した時点で,summaryを完全に短期記憶容量に留めることを意識する必要がある.つまり,金澤のイメージとしては,国語の出来ない人とは
読解終了時点でメモリ上(=短期記憶スペース)にsummaryが載らず,かなり情報が失われている.この大きな要因はメモリの容量不足である.
summarise_paragraph関数の精度が悪く,sentenceが長すぎる.また圧縮compressにも失敗しており,メモリに載らない
そもそもappendを行っておらず,読解後に要点を覚える努力すらしていない
人だと感じる.また,興味がない話をまじめに聞けない性格の人は,summarise_paragraph関数の精度が急に悪くなったり,ランダムにappendをサボってしまうのだと感じる(少なくとも金澤はそうだった).つまり,国語の訓練とは
summarise_paragraph関数/compress関数を適切に構成する訓練をする(短期記憶=メモリに載せれるように圧縮する)
ちゃんと毎回appendすることを意識する
ことが重要だと感じる.
解決法:具体的な対処法
上記の訓練を実装するために最初に金澤がやったのは,天声人語の様な短い文章の「要約+短期間の暗記訓練」である.いきなり長い文章で上記のsummarise_paragraph関数/compress関数を構成すると非常に時間がかかり,また集中力が持たない.そこで天声人語の様な短い文章で,上記の手続きを非常にまじめにやった.具体的には,
1パラグラフを読むのに何分も時間を掛け,確実に要約する(つまりsummarise_paragraph関数を確実に実行する)ことを心掛けた
要約文(変数sentence)を脳内メモリ上に留める訓練をした.頭に残らない時は,英単語の暗記と同様の要領で反芻し,それでも無理なら何度も書き出して短期記憶に留める訓練をした
それを何度も繰り返した
このやり方だと,天声人語のような短文でも最初は10分以上(覚えていないが30分くらいかも?)掛かった気がする.これを毎日行った.これが出来るようになれば,国語(現代文)のテストと同様の文章を読む.最初は非常に時間がかかった(模試の試験時間内に終わらなかった)が,それでも良いことにした.この訓練を1年くらいかけると,読解速度は平均以下だが,平均的な東大生よりも遥かに現代文を『精読』することが出来るようになる.また,数年継続すれば,読解速度もまぁまぁ早くなった.
※ ちなみに天声人語を選んだのは,天声人語はエッセイであり,また、金澤の感覚では悪文だからである.金澤にとって悪文である以上,それは短期記憶に残しにくく,金澤のメモリに負荷をかける意味でいい題材になると思った.また,天声人語は問題集的に集められているため,沢山の課題をこなしやすいという特徴もある.