断捨離
noという力
Knowing when to fold / 撤退力
「捨てる会議」で捨てたもの
Elon Musk
「本質(シグナル)に集中し、ノイズを排除せよ」 – マスクは重要でないことに時間を浪費しないよう強調しています。USCでの講演では「Focus on signal over noise. A lot of companies get confused, they spend money on things that don’t actually make the product better.」(多くの企業は混乱して、本質でないことにお金や時間を使ってしまう)と述べ、テスラでは広告に一切費用をかけず製品改善に集中したと語りました。これは「やらないこと」を決め、本当に価値あることに集中する姿勢を示しています(出典:USCビジネススクールでのスピーチ)。
「価値を生まない会議なら途中退席せよ」 – マスクは社員にも非効率な活動を「やらない」よう求めました。2018年のテスラ社内メールでは、大規模で頻繁な会議を避けるよう指示し、「Walk out of a meeting or drop off a call as soon as it is obvious you aren't adding value. It is not rude to leave, it is rude to make someone stay and waste their time.」(自分が貢献していないとわかったら会議から退出せよ。途中で席を立つのは無礼ではない。人を無駄な時間に拘束するほうが無礼だ)と述べています(出典:社内メールの内容が報じられたIndependent記事)。不要な会議に「NO」と言うことで、生産性を高める狙いです。
「進路変更の決断:博士課程を辞め起業へ」 – マスク自身のキャリアにも「やらないこと」を選んだエピソードがあります。1995年、スタンフォード大学の博士課程に入学しましたがわずか2日で中退し、インターネットビジネスに集中する道を選びました。その決断についてマスクは後に「I decided to go on deferment... I said I’d probably be back in six months, and the department chairman said he was probably never going to hear from me again. And he was correct.」(休学を決め、「半年で戻るかも」と言ったら教授には「二度と戻らないだろうね」と言われ、その通り戻らなかった)と語っています(出典:インタビュー番組「Foundation」)。自分にとって本当に重要でない道を潔く辞めたこの判断が、その後のZip2創業と成功につながりました。
Peter Thiel
「望まない競争なら最初から参加しない」 – ティールは「何をやらないか」を見極めることの重要性を繰り返し述べています。2015年に学生誌への寄稿で「My advice… is this: Before getting swept up in the competitions that define so much of life, ask yourself whether you even want the prize on offer.」(人生の多くを占める競争に流される前に、その勝利の賞が本当に自分の望むものか自問せよ)と若き自分へのアドバイスを書きました(出典:Intercollegiate Review誌への寄稿)。これは「やらないと決める勇気」― 自分にとって意味のないレースから降りる判断の大切さを説いた言葉です。
「競争に囚われ辞められない人々」 – ティール自身、若い頃はエリート競争のレールに乗っていましたが、その弊害に気づきました。名門ロー・ファーム(法律事務所)に入所後7ヶ月で退職した際、同僚に「アルカトラズ(脱出不可能の刑務所)から抜け出せるとは知らなかった」と冗談を言われたそうです。ティールは「外から見れば皆が入りたがる職場なのに、中の人間は皆辞めたがっていた」と述懐し、「when their identity was defined by competing… they could not imagine leaving.」(競争こそが自己定義になってしまうと、辞めるという発想すらできなくなる)と指摘しました(出典:著書『Zero to One』およびインタビュー)。競争に絡め取られないためには、あえて「辞める」決断も必要だという教訓です。
「『競争』より独占を選べ」 – ティールはビジネスで成功するには他者と争うのではなく独自路線を行くべきだと主張します。彼は「if you’re an entrepreneur who wants to create and capture lasting value, you don’t want to compete with a bunch of interchangeable businesses. You want to build a monopoly.」(起業家として長期的価値を生みたいなら、互いに代替可能な企業群と競争すべきではない。独占状態のビジネスを築くべきだ)と述べています。競争市場で戦うこと自体を「やらない」と決め、誰もやっていない独自分野を選ぶことが成功の鍵だ、とティールは語っているのです(出典:著書『Zero to One』およびWSJ寄稿「Competition is for Losers」)。
Sam Altman
「ほとんどの人は重要でないことに時間を浪費している」 – オープンAI CEOであり起業家のアルトマンは、何をやらないか選ぶ力=フォーカスの重要性を説きます。自身のブログ記事「How to be Successful」(2019年)で「Focus is a force multiplier on work. Almost everyone I’ve ever met would be well-served by spending more time thinking about what to focus on... Most people waste most of their time on stuff that doesn’t matter.」(フォーカスは仕事の力を何倍にもする。私が出会ったほとんど全ての人にとって、“何に集中すべきか”をもっと考える時間を増やすことは有益だ… 大半の人はほとんどの時間を重要でないことに浪費している)と述べています。闇雲に長時間働くのではなく、やるべきことを見極め他は「やらない」ことが成功には欠かせないとする助言です。
「『良いアイデア』にもNOと言う勇気」 – アルトマンは多くの選択肢から最高のもの以外は断つ大切さも語っています。彼はYコンビネーターで多くの創業者を見てきた経験から、「優れた成果を出すには“かなり良さそう”なアイデアであっても断固としてNOと言わなければならない場合がある」と指摘します。実際2016年の自身のツイートでは「Very hard to learn to say no to the pretty good ideas to save focus for the great ones.」(かなり良さそうなアイデアにノーと言って、偉大なアイデアに集中するのを守るのはとても難しい)と述べ、99件中97件はノーと言うくらいの覚悟が必要だと示唆しました(出典:Sam AltmanのTwitter投稿)。つまり、何でも手を広げるのではなく「やらないこと」を決めることが、真に重要な目標達成の原動力になるということです。
Mark Zuckerberg
「雑事を減らし使命に集中する」 – ザッカーバーグは日常の些事に意思決定力を割かないよう工夫しています。2014年の初公開Q&Aで、毎日同じグレーのTシャツを着る理由について問われると、「I really want to clear my life so that I have to make as few decisions as possible about anything except how to best serve this community.」(自分の人生から余計な意思決定を減らし、Facebookコミュニティにどう奉仕するか以外の決断をできるだけしなくて済むようにしたい)と真剣に答えました。朝食や服装といった 「やらなくてもよい選択」 を削ることでエネルギーを節約し、重要な仕事に集中しているのです(出典:Facebook本社での公開Q&Aセッション)。
「巨額オファーへのNOが生んだ成長」 – 2006年、ヤフーからフェイスブック買収に10億ドルのオファーがあった際、ザッカーバーグは当時22歳でこれを断りました。この決断について後年「Yahooが10億ドルで買収したがっていて、経営陣は皆売却に賛成だった…取締役会は僕を解任しようとした。結局、他の経営陣は全員会社を去ってしまった…僕が長期ビジョンを十分に伝えられていなかったんだ」と語っています(出典:テックポッドキャスト「Acquired」での発言)。*「オファーを断ること自体より辛かったのは、その後で多くの社員がビジョンを信じられず退社してしまったことだった」*とも述懐しています。短期的な大金に飛びつかず「売らない」選択をした結果、Facebookは独立路線でユーザー数を飛躍的に増やし、現在では当時のオファーを遥かに超える企業価値を築き上げました。
Sources:
Elon Musk – USC Marshall School interview (Indian Express, 2021); Tesla internal email (2018) via The Independent; Ashlee Vance, Elon Musk (2015) / “Foundation” podcast.
Peter Thiel – “Competition is for Losers” (WSJ, 2014) / Intercollegiate Review column (2015); Zero to One (2014).
Sam Altman – Blog “How to Be Successful” (2019); Sam Altman’s Twitter (2016); James Clear 3-2-1 Newsletter (2019).
Mark Zuckerberg – Public Q&A at Facebook HQ (2014); The Facebook Effect by David Kirkpatrick; An Ugly Truth by Frenkel & Kang (2021); “Acquired” podcast interview (2022).