ケビトの伝承01『月と太陽』
原詩(初期近代)
Lianiw a Siwniw
Gnisin-gnisin gniniw-gniniwma
Suwan'am li'ils li'ils siw als
Liawen'am Lianiw a Siwniw als
Niwsin'ils wan'in Siwniw tew'i
Nonsin'ils wan'in Lianiw tew'i
Niasin sen'in Siwniw lesiwn'i
Melitin'om lesiwn'ih atay
Nonsin'in sanewn'ils niwsinnay
Liw'ils sen nesin'om lunawn'i
Li'om nignon'ils win als anay
Oy'in naw'i'ils Lianiw new'i
Liwsenma waywaw'i mia anay
Nesen'in a liawew'in lawn'ih
Lin'in a min'in Lianiw tewn'i
Ay'in litin'om tu lesiwn'ih
Amay oy'in Siwniw gnew'i mia
Waygnawn'ils Lemen'in samiw'ih
Suwan'in tegnow'ils tesiwma
A le'ils walama samaw'ih
New'in Siwniw gnawaw'i amay
Suwan su'om gna'am lison'i
Lianiwsen tu wawew'i atay
Suwan'in gnen'om luwiwiw'ih
Lemen'in Lianiw mia magnow'i
Amgna susin'om lutawow'ih
Susemi a Menanmi sin'am
Lemen mesaw'om malesaw'i
Anen'om lusin'om suwan'am
Niwsin'ils wan'in Siwniw tew'i
Nonsin'ils wan'in Lianiw tew'i
訳詞
月と太陽
昔々のいにしえより
世界には沢山の生命があり
天には月と太陽があった
昼の大地を太陽が治め
夜の大地を月が治めた
ある時、太陽は人々を育てたが
誤った育て方であったので
夜をまるで偽物の昼のように
賢い人々がたちまち変えてしまった
とても悲しいことであると
その様子を見た月は思った
賢い人々に負けないように
獣や鳥たちを喚び寄せた
月は知識と言葉を与え
私たちを正しく育てた
しかし太陽はそれを良しとせず
恐ろしい大海を説得して
世界を怒りあふれる熱気と
大波で飲み込んでしまった
太陽が心を取り戻したとき
世界は完全に破壊されていた
月生まれたちは大地に下り
世界を良く作り直した
月は大海を赦すことができず
今でもずっと絶えず争っている
満月と新月のときには
大海は落ち着きなく膨らむのだ
このようにして再び世界では
昼の大地を太陽が治め
夜の大地を月が治めている
韻律
〇〇〇〇〇〇〇〇〇
強勢不定の九拍
解説
ケビトの神話として語り継がれている物語である。この物語では、かつての科学文明が地球環境を大きく作り変えた挙句、天災によって滅亡していったという一連の流れを神話的に解釈したものが描かれている。「獣や鳥が月によって知恵と言葉を与えられた」とされているが、これはかつてケビトやハビトが月面の研究基地で遺伝子工学によって生み出されたものであるという事実に由来している。また、月の引力と潮汐の関係性にも触れているなど、かつての科学的な知識が形を変えて受け継がれていることが読み取れる。旧世界で見られた人間の神話と大きく異なる点として、ケビトの神話は「天地創造」に言及していないことが挙げられる。その大きな理由のひとつに、世界各地で見られる旧世界文明の残滓の存在がある。それらの遺物に大昔から接触してきたため、彼らは「人々や生物は原初から存在している」という思想を持つに至ったのだと考えられる。