ケビトの伝承02『天の狼』
原詩(初期近代)
Sonsin, liawen'am lemowmi
Sewsen a sewnsen, wisen als
Niasin, tasowsen wewaw'i
Wisen'in new'om gnawiw'ih
Lemow lewiw'om liwow'i
Sewsen'in tu lignusin'om
Neniw-tite satawow'i
Siwmen'uy li'om mawew'i
原詩(現代)
Sonsin, liafenum lemuum(i)
Seesen a siensen, fizen as
Niasin, tazuusen fevaafi
Fizenni neeu caviifiu
Lemuu leviiu livuufi
Seesenni tu lignusinu
Nenii-tide sadafuuvi
Siimen'ui liu maveefi
韻律
●○○●○○●○
●○○●○○●○
○●○●○○●○
○●○●○○●○
○●○●○○●○
●○○●○○●○
○●○●○○●○
●○○●○○●○
韻文訳
冬の空には狼の(ふゆのそらには おおかみの)
母父そして子があった(ははちちそして こがあった)
ある日狩人やってきた(あるひかりうど やってきた)
その子獲らんとやってきた(そのことらんと やってきた)
狼猛く戦うも(おおかみたけく たたかうも)
二度三度母の胸(ふたたびみたび ははのむね)
貫きたるは星の矢ぞ(つらぬきたるは ほしのやぞ)
溢るるものは母の血ぞ(あふるるものは ははのちぞ)
散文訳
冬の空には、オオカミのお母さんとお父さん、そして子どもがおりました。
あるとき、仔オオカミをさらおうと、ひとりの狩人が現れました。
母狼と父狼は、子どもを守るために勇敢に戦いました。
しかし母狼は胸に三本の星の矢を受け、多くの血を流して死んでしまいました。
英訳 English Translation
in winter's sky, the wolves you see
a mother, father, child, these three
one time a wicked hunter came
to snatch the precious child
the wolves, although they fight their best
the mother soon, three times in breast
is deadly-pierced with arrow-stars
sky-ground with blood defiled
解説
冬の大三角を構成していた3つの一等星のうち、ベテルギウスを母狼、シリウスを父狼、プロキオンを仔狼、そしてオリオン座のリゲルを狩人と見なしたことに由来する物語である。母親の死は、かつてベテルギウスが超新星爆発によって消滅した故事を描いており、三本の矢とはオリオンのベルト(アルニラム、アルニタク、ミンタカ)の表象である。
各星の位置関係もさることながら、シリウス(天狼星)とプロキオンがそれぞれおおいぬ座とこいぬ座のα星であること、またオリオンを狩人とするヒビト(人間)の考え方が毅く影響したと思われる。