組織における多様性
「多様性は成長をもたらす。従って促進すべきである。」との言説をしばしば目にするが、強い違和感を覚えている。
まず、以前にも書いたが、多様な価値観や趣向や能力のバラつきは本来それ自体尊重されるべきものであって、「組織の成長をもたらすが故に重視される」のではない。この論理を認めてしまうと、組織の成長に寄与するという効用が認められなくなった途端に、多様性自体の重要性が否定されることとなる。実利的な観点からの誘惑に駆られようと、このようなナラティブは決して用いてはならない。
また、多様性の促進が成長を齎すのではなく、成長が組織内の多様性を許容する。通常、多様性の追求は効率の低下をもたらし、合理性の追求と逆行する。多様性の高い組織であることを目指すなら、対外的な提供価値の幅を拡げたり内部プロセスを再構築したりして、組織内で必要とされるスキルの多様性を高めなければならない。前者は新規事業、後者は分業と専門化に等しく、成長を志向することや規模を拡大することの先に初めて、多様性は合理性と両立できる。それらを欠いた状態で多様性を謳うことには欺瞞がある。
合理性が損なわれているにも関わらずそうした現実に向き合うのを怠っていると、合理性の毀損分は「多様性」側にない誰かが負担することになり、組織の分断を促す。故に、多様性と経済合理性とを両立し得る戦略不在のままでは、いずれどこかで調整局面に入る。本質的に価値あるアイデアであってもタイミングを誤ったり作り込みを怠ったりして一度失敗すると、その失敗の記憶が組織の足を引っ張って改革を妨げる。価値あるアイデアこそ丁寧に実装されなければならない。 それ自体に価値のある多様性の追求のためにこそ、成長を志向すべきであり、それを成し得る内実ある戦略が求められていると思う。