関連性理論
Relevance Theory
ダン・スペルベル Dan Sperberとディアドレ・ウィルソン Deirdre Wilsonによる
語用論の語
人の認知にも着目しているという点で認知言語学においても使われる
ポール・グライスの協調性の原理を発展させたコミュニケーション理論が、この関連性理論
関連性理論では2つの原理が提示される
1. 関連性の認知原理 Cognitive Principle of Relevance
会話的含意を推論するときに、人はできるだけ少ない労力(processing effort)で最大の意味や効果(cognitive effects)を引き出そうとする
もし少ない労力で大きな意味や影響を持つならば、その推論された情報は「関連性が高い」と判断される
具体的なシーン
日常会話における暗示的な発話
状況: 友人が部屋に入ってきて、「窓が開いてるね」と発言。
表面的な意味: 単に窓が開いている事実を述べている。
追加の意味(暗示): 実は「窓を閉めたほうがいいのでは?」という意図が隠れているかもしれない。
関連性の認知原理の働き: 聞き手は、表面上の情報だけでなく、状況や文脈を踏まえて、最小限の労力で上記の暗示を推測します。これにより、単なる情報伝達以上の意味が効率よく理解されるのです。
曖昧な発言の解釈
状況: 会議中に上司が「最近、業績が落ちているかもしれない」と発言。
表面的な意味: 業績の現状についての単なる観察。
追加の意味(暗示): 「対策を講じる必要がある」や「今後の方向性を見直すべき」という意図。
関連性の認知原理の働き: 部下は、上司の発言から単に現状の報告だけでなく、今後の行動指針や対策のヒントを引き出そうとします。労力を最小限に抑えつつ、業績改善という大きな効果を期待して情報を解釈します。
2. 関連性の伝達原理 Communicative Principle of Relevance
話し手は、聞き手ができるだけ少ない労力(processing effort)で最大の意味や効果(cognitive effects)を得られるように、自身の発話内容を工夫する。
話し手は、「これで十分に伝わるはずだ」という前提で、情報を組み立てる際に聞き手が容易に意味を引き出せるように表現や文脈を用いる
聞き手は、話し手が意図的に最適な関連性 optimally relevantを目指して発話しているという前提のもとに情報を受け取る
そのため、聞き手は曖昧であったり暗示的であったりする表現も、話し手の意図や状況を考慮して、裏に隠れた意味を補完的に解釈しようとする
話し手と聞き手の間には、お互いにできるだけ少ない労力(processing effort)で最大の意味や効果(cognitive effects)があるという期待を共有しているので、明示的な情報と暗黙的な意味とがバランスよく混ざったコミュニケーションとして意思疎通が円滑に進む
SperberとWilsonは、意図明示的伝達行為 ostensive communicationとそうでない行為を区別する
意図明示的伝達行為 ostensive communicationとは、ジェスチャー、まなざし、イントネーション、言語表現そのものなどを用いて、話し手が明確に自分のコミュニケーション的意図 communicative intentionを示すこと
そうでない行為は、記号の単なるエンコードとデコードに過ぎないこととなり、意味の推論は行われない