薔薇寓話21
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十二時すぎ、彼が校長室を辞去する時も吹雪はおさまらない。世界は白く、雪は横ざまに流れる。スネイプは今日の午後届くはずのふくろう便を思いやる。ふくろう達は時々超人的なことを成し遂げる。だが今日の荷物は薬問屋からの重い木箱だ。彼は玄関ホールからしばらく外を観察し、台所に降りていって昼食と夕食の分のパンと林檎を受け取る。
午後最初の仕事はメディチ・マギカ社宛の報告書の作成だ。実験の進捗状況について、必要な資金について、その他重要な事項。スネイプは書類立てにひっかかっていた封筒を取り上げ、そこに書かれた宛名を眺める。装飾過多の丸文字で記された自分の名前。差出人はギルデロイ・ロックハートと読める。書簡は実験計画をすみやかに提出するよう要請しているが、はしばしに懇願の口調がのぞくのは隠しようがないーーおそらくメディチ・マギカを立ち上げた時、ロックハートが考えていたのはささやかな売名行為以上のものではなかった筈だ。『愛の妙薬』は昔からそのために存在しているようなものーー彼が日刊予言者新聞に共同研究者募集の広告を載せた時、彼はやはり無邪気ないかさま師が応募してくることを予想していたに違いない。だが目を留めたのはホグワーツ魔法魔術学校魔法薬学教授セブルス・スネイプだった。
スネイプとはじめて会った時、ロックハートは満面の笑みを浮かべていたが、計画の概要を説明されるうち、笑いはちりちりと剥落していった。それはすばらしい計画だ。スネイプが口を閉ざした時ロックハートは呟いたが、名残のうす笑いがわずかに歪むばかりだった。しかし我々は資金が十分ではなくて‥‥ 手紙の中でもロックハートは遠まわしにそのことを示唆している。スネイプは相手の躊躇を顧慮しない。彼は返事をしたためる。あなたはルシウス・マルフォイ氏に相談すべきだ。彼は若者が冒険的な事業に身を投じることにつねづね敬意を払っており、きっと必要な援助を与えてくれるだろう‥‥ スネイプは別の羊皮紙を取り出し、ルシウス・マルフォイにあてて書く。私はイゾルデ回路に関する共同研究をメディチ・マギカ社と行うつもりでおります。メディチ・マギカ社への出資をぜひ検討願いたい。‥‥ マルフォイは、たとえロックハートが拒んでも助力を申し出るだろう。二年とたたぬうちに、彼は自分の会社が完全に乗っ取られていることに気づく。あわれなロックハート。彼は少なくとも経営者には向いていないのだ。スネイプは憫笑する。それから二通の封筒を封印し、この荒天を飛んでくれる勇敢なふくろうを探しにふくろう小屋へ出かけてゆく。
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◆"Allegory of Rose" is a fan-fiction of J.K.Rowling's "Harry Potter"series.
◆"Allegory of Rose" was written by Yu Isahaya & Yayoi Makino, illustrated by Inemuri no Yang, with advice of Yoichi Isonokami.
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