薔薇寓話15
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「チャーリー、いいタイミングで目を覚ましたね。さっき、ハッフルパフとスリザリンの試合が終わったところさ」
「ハッフルパフ・スリザリン? それじゃ、僕は一月も眠っていたというのか?」
「君が意識不明だったのは一週間だけ。もっともその身体じゃあ、あと一月くらいはベッドに寝てなきゃ駄目みたいだけど。マダム・ポンフリーが特製ふくらし粉の用意を‥‥」
「しけた話はよせよ、マシュー。チャーリーはクィディッチ談義が聞きたい筈だ」
「まず、安心したまえ、チャーリー。グリフィンドール・レイブンクロー戦は三学期に再試合だ。君とオコンネルが仲良く始祖鳥化石になっちまったものだから‥‥」
「ほんと、びっくりしたぜ。あの大嵐だろ、雷だろ。何も見えやしない。突然ピカッと火花が散って、君とオコンネルがまっさかさまに落ちてきた」
「うーん、僕自身、あまり覚えていないんだ‥‥」
「駆けつけてみればグラウンドの上で君たちはぺしゃんこ。先生方は闇のテロルかもしれないなんて言い出すし‥‥」
「フリットウィック先生とポトツキ先生が調べまくったのさ。でも事故っぽいって。僕はてっきり‥‥」
「クィディッチ談義だろ、マイケル。面会時間は十五分しかないんだ」
「ハッフルパフ・スリザリンはどうだった? 今年のスリザリンはどんな具合?」
「スリザリンのシーカーはボスニーだ」
「あの五年生の? でも彼はチームに入ってなかったんじゃ‥‥」
「スネイプが入れたのさ。奴、クィディッチ・フリークだって噂、本当らしいぜ。ボスニーの実力に目をつけたとこ見ると」
「おまけに箒まで買った。ボスニーはハーフだし、自前の箒を持ってなかったんだが、これがーー『ルチフェロ』」
「何だって?」
「落ち着け、チャーリー。ポンフリーに追い出されちまう。 ‥‥スリザリンが目くらましまでかけて、練習をひた隠しにしてた訳だよな。『ルチフェロ』、来年夏のワールドカップの公式箒メーカー金星社の新製品‥‥」
「イタリアの伝統のわざと日本のハイテクを組み合わせたっていう‥‥」
「チャーリー、グリフィンドールは『クリーンスイープ』だからって落ち込むなよ。試合を決めるのは箒じゃないぜ」
「そうそう。ただでさえブランドものだらけのスリザリンの中に銀色に輝く『ルチフェロ』を見出した時は、グラウンドじゅうがどよめいた。そしてまたボスニーがすごいのなんの。守備や攻撃までうまい具合にサポートして。箒に喰われるどころじゃなかった。あれならきっとプロになれる」
「チェイサーも動きがいいんだ。あっという間に三十点入れた」
「誰もが思ったね。今年のスリザリンは、って」
「でもそうはならなかった」
「マシュー、いいとこを持ってくなよ。チャーリー、これから〈明けの星、いかにして天より落ちしや〉を語るからな。ボスニーとチェイサーのファイン・プレーにスリザリンだけじゃなくて他の連中まで感心した。そうすると面白くないのはビーターだ。スリザリンの伝統が内ゲバだってのは知ってるよな。ビーターはチェイサーの得点を妨害しはじめたんだ。非道いぜ、味方のチェイサーにブラッジャーを投げつけるんだから‥‥ それで一人が玉をくらって医務室送りになっちまった。もうブーイングの嵐さ。二人のチェイサーは怒ってブラッジャーをビーターに投げかえした。そうしているうちにハッフルパフが難なく追い抜いた。今度はキーパーが怒り出した。試合を妨害するならさっさと退場しちまえとばかりに棍棒を奪ってビーターの一方を叩きのめした。もう滅茶苦茶さ。キーパーも退場になるし。この時点で80対30」
「スリザリンは三人退場で、もはやチームの態をなしていなかった。今や頼みの綱はシーカーだけ。そしてボスニーはスニッチを発見したんだ」
「『ルチフェロ』の降下はすごかったぜ。確かにあれは『クリーンスイープ』じゃ太刀打ちできないかもな‥‥ みんなが見とれた。その時」
「ビーターが彼にブラッジャーを投げつけた。ほんとの至近距離さ。ほとんどスニッチをつかみかけていたボスニーはバランスを崩してグラウンドに叩きつけられた」
「それで試合終了だ。ハッフルパフがスニッチをつかまえて。ボスニーは手首を骨折してた。結局、今年もスリザリンは内ゲバで負けたんだ」
「その後がまた見ものでね、‥‥スリザリンの奴らがのろのろとだらしなくグラウンドから戻って来た時、いなかった筈のスネイプが‥‥」
「スネイプがいなかった? あれこれ理由をつけてはよそのチームの練習を覗いていたくせに」
「査問会に呼び出されたって噂だ。東欧にいた時、彼が『例のあの人』に仕えていたという告発があったんだって」
「勿論根も葉もない話さ。いくらなんでもダンブルドアが、昔の教え子だからって、デスイーターをホグワーツの教師に雇うわけないだろ。だから、ダンブルドアが自ら弁護をかって出たのだそうだよ」
「まあ、彼が闇の陣営にいたと聞いても驚かないけど。反抗的な生徒を闇の魔術で金縛りにしたとか言うし‥‥ 校長先生も大変だよな、変な噂の尻ぬぐいをしなくちゃならなくて。 ‥‥判ってますよ、マダム・ポンフリー」
「それで、試合後の話な、ほんとに見ていて楽しかったぜ‥‥奴がすごい勢いでグラウンドに下りていって、スリザリンの奴らをぶちのめした剣幕ときたら」
「ぶちのめした?」
「言葉でね。よく切れるナイフで肉を一枚一枚削いでゆく感じさ。目がすわっていたな。スリザリン寮の一員なのに、寮の名誉より家柄やみみっちい虚栄心のほうが重要なのかとか何とか」
「言ってることはまともだ」
「剣幕がまともじゃなかった。寮から出て行けとも怒鳴ってたな。スリザリンの崇高な理想に泥を塗るのかって、スリザリンにどんな高邁な理念があるよ?」
「ただ、切れたスネイプが魔法薬学の授業みたいな調子でチームをしごきだしたら、スリザリンは結構手ごわくなるかもな。チャーリー、寝ながらゆっくり対策考えとけよ」
「もっとも家柄を鼻にかけた連中が新任教師の言うことを聞くとも思えないけど。かえってスネイプが首になったりして。僕らはそれでもいいけどね」
「‥‥はいはい、もう行きますってば。じゃあな、チャーリー。はやく膨らめよ」
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◆"Allegory of Rose" is a fan-fiction of J.K.Rowling's "Harry Potter"series.
◆"Allegory of Rose" was written by Yu Isahaya & Yayoi Makino, illustrated by Inemuri no Yang, with advice of Yoichi Isonokami.
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