薔薇寓話23
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ーーヨーロッパ魔法界の新しい勢力図が姿をあらわしはじめた。その一つは伝統的な純血主義の主張であり、魔法族の血統こそが魔法界の枢軸をなすべきであるという。彼らはマグル出身者を重要な地位から締め出すために、マグル出身者に対する教育の制限を求めている。ヨーロッパの魔法界を代表する名家の出であり、大財閥の長でもあるルシウス・マルフォイがこの立場の代表的存在だ。他方、各国魔法省の公式見解はマグル出身者にも門戸をひらくことをうたっている。それに伴い、彼らは、マグルをより劣等なものとする従来の姿勢に変更はないものの、マグルを魔法界に対する障害とみなすのではなく、保護すべき対象とする方針を打ち出しつつある。これは、イギリスにおけるマグル保護法制定の動きに特に顕著である。
両者はマグル出身者の扱いにおいて対立しているが、魔法界とマグル界は互いに関わりあうべきではないこと、小鬼以外の魔法種族、人狼・吸血鬼等の闇の感染症の患者の権利を制限すべきであるという点においては一致している。この二派を、右派と中道寄りの差はあれ、分離主義者とよぶことができよう。
従来、ヨーロッパ魔法界では保守的な分離主義が主流を占めていた。だがヴォルデモートを名乗る闇の魔法使いの興隆と前後して、融和主義的な考え方が大きな影響力を獲得するようになった。ホグワーツ魔法魔術学校長アルバス・ダンブルドアはその筆頭である。彼は自分が校長をつとめるホグワーツ魔法魔術学校にマグル出身者を積極的に迎え入れ、闇の感染症の患者をも受け入れたことが知られている。さらに彼は魔法種族の権利向上に関するさまざまな提言も行っている。
ヴォルデモートによって引き起こされた戦いにおいて、つねに後手にまわった魔法省に対し、ダンブルドアとホグワーツ卒業生は大きな貢献をなした。イギリス魔法省はこの老魔法使いに多大な敬意を払っている。彼を魔法省大臣に、という呼び声が高いことはよく知られている。しかしながら、我々は彼の言動に絶えず注意を払うべきであると考える。何となればダンブルドアの校長着任後も、ホグワーツは闇の魔法使いを多く輩出し、闇の勢力は今なおホグワーツと密接な関わりを維持していると見られるからである。我々は、半世紀近く前ホグワーツを卒業したヴォルデモート自身もまた、魔法種族やマグル出身者を重用したことを指摘したい。彼は魔法界とマグル界の相互不干渉を撤廃すべきとも主張したのであり、激しい戦いの当事者であったダンブルドアとヴォルデモートが、ともに左派の融和主義者であったことは、示唆的である。
昨日、オーストリアのザルツブルクでひらかれた〈教育と文化交流のためのヨーロッパ魔法会議〉は、魔法戦士同盟加盟国の協力による新大学の設立について議論した。これは魔法界の相互理解と寛容の精神を深める目的でダンブルドアによって提案されたものである。包括案はイギリス魔法省とヨーロッパ魔法連合の文教委員会によって検討・作成された。しかしながら、この構想の叩き台となるダンブルドアのレポートが、ホグワーツ魔法薬学教授スネイプなる人物によって起草されたものであることを我々はつきとめている。
スネイプはヴォルデモートが没落したのと時を同じくして、ダンブルドアの招聘でホグワーツに着任した。彼はホグワーツのスリザリン寮の出身であり、八十年から八九年にかけてプラハに留学している。プラハでは魔法大学で闇の感染症を研究する一方、マグルの大学にも籍を置いていたようであり、双方の大学で改革運動にかかわっていたことが判っている。これらから、また他の証言から、我々は彼がアナーキーな傾向を持つ融和主義者であると推測するものである。彼とヴォルデモートとの関係を示す証拠は存在しないが、彼がプラハにおいてルシウス・マルフォイとしばしば接触し、金銭的援助を受けていた事実は確認されている。この援助は一九八四年、ホグワーツの当時の魔法薬学教授バルトルシャイテスの不可解な事故死の直前にはじまっている。同年、バルトルシャイテスと提携していたネクター&アンブロシア製薬は破産し、マルフォイ財閥に吸収された。
バルトルシャイテスは(ホグワーツの伝統によって)魔法薬学教授であると同時にスリザリン寮監もつとめていたが、バルトルシャイテスの死後、ダンブルドアがこの双方の職に選任の教師を置かなかった事実に我々はもっと注意を払うべきだろう。魔法薬学の授業には外部から講師が招かれ、スリザリンの寮監は八九年にスネイプが着任するまでの数年間、実質的に不在であった。ルシウス・マルフォイをはじめとする有力者の寄付はこの時期に集中しているが、当時の寮の経理はきわめて不明朗である。寄付は寮の運営のほか、マグル出身の卒業生のための奨学金につかわれた。そしてこの時期に奨学金を受け取ったマグル出身者は、すべて闇の陣営に身を投じているのである。
八四年から八九年にかけて、ホグワーツのスリザリン寮が闇の陣営の重要な資金・人材獲得窓口であったことが推測される。そして、スリザリン寮のこの機能は、八九年以降もなお継続しているものと考えられる。東欧の魔法界の首都的存在であるプラハに、闇のもっとも強大だった時期に留学していたスネイプは、マルフォイとの関係ひとつを取ってみても、闇の陣営と何らかの接触を持っていたと考えるべきだからである。スネイプは闇の陣営の温存された工作員であり、ホグワーツにおいて資金および人材の管理という重要な任務をこなしつつ、スパイ活動と分断工作に従事している可能性がある。
我々が見極めなければならないのは、ダンブルドアがスネイプの活動を承知しているかという問題である。
おそらくダンブルドアはスネイプの活動を承知し、さらには支持を与えているかもしれない。スネイプは闇の陣営との関係を疑われた時、ダンブルドアの弁護によって起訴をまぬがれている。闇の側についてアズカバンに収監されている魔法使いの多くがダンブルドアによって入学を許可されたマグル出身者であるという事実もある。さらに、闇の感染症の患者の権利をみとめるダンブルドアの方針は、ヴォルデモートの行動と同様、魔法界の秩序を乱すものであり、アメリカ魔法情報局は、ダンブルドアのネットワークに細心の注意を払うべきであると、魔法省長官に対し勧告するものである。‥‥
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◆"Allegory of Rose" is a fan-fiction of J.K.Rowling's "Harry Potter"series.
◆"Allegory of Rose" was written by Yu Isahaya & Yayoi Makino, illustrated by Inemuri no Yang, with advice of Yoichi Isonokami.
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