死者はクレームを言えない
東京大学「ボーカロイド音楽論」講義
ぽわちゃんについて語るのは、何度話しても、緊張がなくなることがありません。もちろん誰に対してもつねに緊張感とともに語ってきましたが、やはり、もういない人について話すことは一層です。反論できない人について話すときに、人はもっとも緊張感を持つべきだからです。
「自殺とは、他殺である」|河合優実主演・映画『あんのこと』を通じて戸田真琴さんが感じた、実在の人物を描くことの怖さと希望の光
これまで、「社会派ドラマ」という名目でどれだけの実在の人々が物語の中に組み込まれ、観客の興奮によってその尊厳を消費されてきただろう。本来、実際の事件をモティーフに物語をつくることは負の面がとても大きいものである。もちろん話題性もあるし、事件を風化させない、事実に思いを馳せてもらうための社会的意義もあるだろう。
しかし、その内容がどんなに真実と遠ざかってしまっても、死者は訂正やクレームが言えない。その事実一つで、実際の事件をモティーフとして扱うことに、まず生者の我々は遠慮するべきなのだ。
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