兎本生譚(ウサギの物語)
さやかなる月の光か わが心(むね)か 居るはウサギか ほとけか阿字か(ジャータカ番号316番「ササ・ジャータカ (Śaśa Jātaka)」)
「ササ・ジャータカ(Sasa Jātaka)/兎本生譚」の要点を整理して示します。
🐇 ササ・ジャータカ(Sasa Jātaka)概要
出典:ジャータカ(本生譚)第316話
パーリ名:Sasa-jātaka
漢訳名:「兎本生経」「兎譬喩経」など
テーマ:布施(檀那)、自己犠牲、慈悲
一、物語のあらすじ
昔、ブッダがまだ菩薩(悟り前)であったころ、**兎(ササ)**として生まれていた。
その時代、彼は森の中で三匹の友(猿・狐・ジャッカル)とともに修行生活を送っていた。
彼らは毎日戒を守り、布施を行い、心を清浄に保っていた。
ある日、兎は仲間にこう言う:
「もし誰かが私に食べ物を乞うなら、私は自らの身を布施しよう。」
その言葉を聞いた帝釈天(インドラ)は、兎の誓願を試そうとして老人の姿に化け、
「食べ物を恵んでください」と現れる。
猿は果実を、狐は魚を、ジャッカルは肉を与えた。
だが兎は草しか食べないため、
「私には草しかない。だが、もしあなたが私の肉を求めるなら、私は自ら火に身を投げて捧げよう。」
そう言って火を熾し、身を躍らせた。
しかしインドラはその尊い心に感動し、火を冷やし、兎を救い出した。
その徳を称え、月の中に兎の影を映したという。
以来、人々は**月の兎(ササの姿)**を見てその慈悲を思い出すという。
二、主題と教義的意味
項目 内容
主題 布施・犠牲・菩薩行・慈悲
象徴 火=試練/真布施、月=永遠の記憶・功徳
菩薩の徳 他者のために身命を惜しまぬ「無畏施」
仏教的意義 菩薩の行の理想を動物譚で象徴的に示す。布施波羅蜜(檀那波羅蜜)の典型例。
三、文化的影響
インド〜東南アジアでは、月の兎伝説として広く伝播。
中国・日本では「月に兎が餅をつく」説話と融合。
法話・説教では「自己犠牲」「布施行」の理想を説く定番譬喩として引用される。
シンボル:月兎=菩薩心の象徴。
四、要点まとめ
菩薩は兎として生まれ、布施行を修する。
食を乞う老人(帝釈天)に、自らの身を捧げようとする。
火に身を投げるが、帝釈天が救い、その徳を称えて月に兎の影を残す。
教訓:「真の布施とは、自己をも惜しまぬ心」。