頬伝う涙拭う手無きものを 有りやと思ほゆ身こそ悲しき
滴塵014
本文
頬伝う涙拭う手無きものを 有りやと思ほゆ身こそ悲しき 要点
涙を拭う手はないのに、「誰かがいる」と思えてしまう切なさ。 現代語訳
涙が頬を伝っても拭ってくれる手はないのに、あなたの手があると思えてしまう自分の身こそ悲しい。あなたはもういないのに。 注釈
有りやと思ほゆ:実際はいないのに、いると(錯覚して)思えてしまう。
解説
深掘り_嵯峨
究極の孤独を描いた歌です。涙を流している時、誰もそばにいないという現実と、それでも誰かがいてくれるのではないかと一瞬でも期待させられてしまう心の弱さ(「有りやと思ほゆ」)の間の落差が、「身こそ悲しき」という深い悲哀を生んでいます。 この孤独は、俗世的な孤独であると同時に、真理を求め続けた末に全ての縁を断ち切った者が味わう精神的な孤独にも通じる深さを持っています。