【照滴集】
第2歌集 78首
照滴集の特徴
#目次
1.仏法・教義
(Buddhism / Doctrine)
塵壺も 法の器よ 教薬吐く 薬師如来の掌の上
語られぬ さとりの獅子吼 聞くまいと 耳を塞ぐは わが心なり
2.修行・実践
(Practice / Discipline)
手を結び口に真言 心(むね)に阿字 我れはみほとけ みほとけは我れ
くらぶればいずくが先ぞ わがいのち 尽くるが先か悟るが先かと
罪ゆえのいたみを秘めて生きていく 磨き磨いて艶の出るまで
その胸に秘めたやさしさ育てよう ゆっくりじっくり花の咲くまで
唱えよう迷いながらで構わない その一句から未来が変わる
祈りつつも届かぬものと知りながら なお紡ぎだす淡き旋律
骨と爪残して虹と成りぬらん 塵のまにまに 法の花咲く
わが心(むね)の 仏の種に 水やらば 芽吹き繁りて 花も咲くなり
3.信仰・信心
(Faith / Devotion)
何故にありがたきかなみ仏は 熱き涙の知らずこぼるる
慕いても届かぬ思いと知りながら それゆえ合わさん右手左手
口噤み つむぐ言の葉 音もせで 強き祈りぞ 届けよ君に
たまゆらの響きは耳に聞こえねど しかとまします心にみほとけ
みほとけはいづこに在します西方の 十万億土か五尺のこの身か
銀鼠の空の彼方の高野山 静謐の室 大師まします
ありがたや朝な夕なに君と我れ おろがむ苫屋は浄土なりけり
清浄身体生塵中 蓮華生師笑如童 燦燦光明残爪髪 五色彩光溶虚空
百万の悪業須臾に消しぬらん ただ一遍の光明真言
わだつみに 沈みし経の 文字文字が ほとけとなりて 光泡立つ
問わざれど 語るはほとけ 問わずとも こたえる仏 その声を聴く
4.無常・生死
(Impermanence / Life & Death)
いづくより来りて去るやアダムの子 土より生まれ土へ帰ると
ぬばたまの闇かと思ふあの日から 灑ぐ涙ぞ雨と降りける
5.自然・風景
(Nature / Scenery)
雨だれの岩を穿つはその雫に 宇宙をすべて込めしゆえかな
いずくより 来たりし滴(しずく)空よりか 眼よりくだりて 海へと至る
わがまなこの 涙は鹹(から)き 何ゆえに 海を宿して 天(そら)へと還る
ひさかたの雨に打たれて鮮やかに なお麗しきあじさいの花
知らざりき空広くして明らかに 土を出で君はかなかな(哉々)と鳴く
星々を極微(ごくみ)に砕きしその粒の 一つ一つに宇宙を蔵(おさ)むる
加速した放物線の向こうには 未来か過去か 仏か我か
藍よりも青き碧空 愛よりも淡き空寂 一炷の香
惜しめども散りゆくものと知りながら なほ待ち遠し 花開く時
6.情愛・人間関係
(Love & Relationships)
優しさを求めてみれば遠いかな 与えよこれが得ることぞかし
求むれば逃ぐるものかな愛はいさ 身を浸してこそ味わえよ君
思い出をなぞりてみれば胸痛し 永遠(とわ)に美し失いし恋
愛しめば愛しむほどに苦しきは 何故なのか わずらわしきかな
愛されず愛さぬ道のあじけなさ 恨まれ恨む人ぞ羨まし
人知れず流す涙の冷たさよ 分かっていたけど分からなかったの
少しだけ目を閉じていてあなたには 弱い自分を見せたくないの
見せなさい私だけにはその涙 露を含んだ華ぞ愛しき
うたてやな人の言の葉頼みにき 変はらざらんや紫陽花の色
天翔ける翼はあらで ぬばたまの黄泉まで行かむ 君がためなら
美玉かと紛う言の葉紡ぎだす 君の魂やどす容れもの
君想ひ夜半に見る月 朧月 猛る心を霑せ慈雨よ
春の夜の薫る帳の裡寒く 待つや月の出君の訪い
長々し夜は弱りゆく虫の声を 冷たき枕に顔を埋め聞く
うたてやな関越ゆ人は紫陽花の 色な信じそあの日の私
松浦の待つ人来ぬと嘆きつつ 恨みつ恋ひしあだし君かな
眠れずに迎える朝の胸痛し 零れる涙の知る人ぞ無し
忘られぬ一夜の夢の報いかな 眠れぬ長夜を千度重ぬは
紅の炎(ほむら)立つなり八重椿 刹那の恋に身をば焦がしつ
物憂げに空に浮かぶは夜半の月 心に浮かぶは君の面影
ぬばたまの暗き八尋のわだつみの 底に沈みて君に寄り添う
天かける鳥船漕ぎて思ふべし 君と我とは星より遠しと
寄る辺なく漂ふ我れを砕かむと 探す巌ぞ宛てなくかなし
もう顔も覚えていないあの人が 澱(おど)みとなりていずいのしゃ だれ
7.覚悟・布施・捨身
(Resolve / Giving / Selflessness)
与うれば 空(くう)となりぬる 我れもそも 空しきが故 盈つる功徳ぞ
手のひらに残る重みは 捨て終えた 布施の清さと信じる心
8.比喩・諷刺・諧謔・引用
(Metaphor / Satire / Playfulness/ Allusion)
愚かなりと誰もが言わん石一つを 休まず積まば山を為さんや(愚公移山)
言の葉は朽ちぬ黄金(こがね)か玉響(たまゆら)か 文字に記憶に留まりて生く
土中三年蓄露眠 樹上三日化仙謳 君不知也世明明 冬到来則雪深深
電光の須臾の光に照らされし さとりのおもかげ 恋いて狂おし(菩提行経1_5)
さやかなる月の光か わが心(むね)か 居るはウサギか ほとけか阿字か(ジャータカ番号316番「ササ・ジャータカ (Śaśa Jātaka)」)
深き淵臨みて恐れず 薄氷(うすごおり) 構えて履(ふ)むや密教行者(詩経小雅「小旻」、カータカ・ウパニシャッド 第1篇第3章 第14節)
ねこのこのこねこ どこのこ かわいいこ なつかないでよ つらくなるから
9.日常・生活
(Everyday Life)
虚空にて我れ歌詠むは君がため 何をかなさん ならで散るとも
朝勤行 夢見心地に坐すわれの 頬をなでるは仏の息吹
お帰りと迎える妹の温もりに 凍えた頬のふわり和らぐ
10.精神・悟り・心象
(Mind / Enlightenment / Imagery)
目を凝らし耳を澄ませて聴く音は 宇宙の響き みほとけの声
瞳(め)を閉じて耳をふさげば 我が血潮は 星の奏でる交響曲(シンフォニー)かな
我が庵は 如来の胎の金剛座 電林の蓮華座 南天の鉄塔
繋露命食素麺 覆露身以素綿 蓮華生於泥中 唯観月在中天
麺啜(すす)り襤褸(ぼろ)をまといて三五夜の 月をみるなり泥田の蓮(はちす)
耳に聴き 心に回す 梵音は 口より出でて 宇宙(そら)に響かん
み口より 出でし梵音 頂(ちょう)に入り 心月輪を 奏で回すなり
星を越え 迷いを越えて いざゆかん 言の葉つむぎ 言の葉超えて
轟々獅子吼 赫々熾盛光 従何処来兮 是吾如来蔵
何処(いずく)から聞こゆる風の音(ね)東雲(しののめ)の あなたおもてか 我が心(むね)の内か