【宝滴集】
第3歌集 80首
宝滴集の特徴
#目次
1.仏法・教義
(Buddhism / Doctrine)
言の葉は如来の息吹き 我が身から 迸(ほとばし)りてぞ三世に響く
雨垂れは如来の鼓動 朝勤の 切々経(ぜぜぎょう)の声 法界に盈つ
雲霽れて月明らかに見渡せば いずくが穢土ぞ こなたかかなたか
心(むね)に染む 切々経(ぜぜきょう)の音 滴滴と 一音一仏 宇宙(そら)を揺るがす
切々経声如波紋 滴滴雨霤如宝珠 一語一尊伝十方 万世万界振一切
静けさの中に賑わう仏たち 一音一響 億万由旬
言の葉は強き言霊真言ぞ 儚き契りの涙ともなる
妙音は 聞けども聴けぬ 静かなる 不可思議の目で その音を観よ
影まねに すぎぬと思いき 今はただ 仏が我れの 真似すとぞしる
口閉じて 語らう仏の 雄弁さ 結ばぬ印が ご縁を結ぶ
衆生(もろびと)の心に巣食う貪瞋痴 小なれば煩悩 大なれば悟り
知らんとて 知れぬ心を探しても 那由多の星にも 答うものなし
沈黙は強きみ言葉 みほとけの 知ると知らぬと 誰(た)が罪科(つみとが)ぞ
こだわらぬこだわりを捨て み仏に ただ抱(いだ)かれて 安心(あんじん)を知る
微笑めば 一時の仏ぞ 君と我れ 仏と仏が 見つめ合うなり
見守(まも)りあう 欲なき世界の 交わりは 菩薩と菩薩の 蓮華の慈悲よ
隔てなくわだかまりなく笑みあうは 相互礼拝 相互供養
みほとけの清きみ心(むね)を我れ問えば 仏心はただ 大慈悲なりけり
形無く 色無く音無く 香り無く それゆえ距(へだ)ても 無きものと知る
一人子の深き罪業救わんと 慈悲のみ怒り 燃ゆる明王
目をつぶり 如来は居らずと思うなよ まなこをひらいて ただしかとみよ
2.修行・実践
(Practice / Discipline)
み手をまね み言葉まねて 心まね 我れがほとけか ほとけが我れか
みほとけが 仏と語らう 座禅かな 動かざるゆえ 漏れなくすくう
曼荼羅を普供養せんと 閼伽捧げ 経唱う我れ 曼荼羅に坐す
水を汲み 花を供えて 灯ともし 香を焚きては 手を合わすなり
見て聞いて 嗅いで味わい 触れ思う 菩薩の供養は 誓いなりけり
澗水浸足涼 凝心聴静響 潺潺洗塵念 足心共寂然
せせらぎに足を浸して耳澄ます さらさら清まる 足も心も
一仏を 置いて拝して 万仏を 礼するほとけ 曼荼羅供養
歩一歩 進んでいかん 一つずつ 積んでいかんや 無量の福智
今ここから 浄土へ向かわん 今ここが 浄土と知って なお歩みゆく
たえしのぶ 思いに如来の 寄り添うて やがて芽の出て 花咲けるかな
現れて 笑みて消ゆるはみほとけか 我れかとあやしむ 理趣三昧なり
3.信仰・信心
(Faith / Devotion)
応じては 生じて消ゆる それもよし 生かされるかも それもまたよし
いのち絶え 三界尽きても それゆえに 清く妙なる法身まします
誰(た)がともす光か愛か 我が心(むね)に 揺るがず消えず 人知れず燃ゆ
信心の定まる時を待つなかれ 心に浮かぶ今ぞその時
如来よりたまわりたるや この信心 やさしさ注ぎ 育むは我れ
ありがたや 我れはひとり子 みほとけの かたじけなさに 涙こぼるる
何故か知らねどむねの熱くなり まなこ潤みて 両手を結ぶ
両の手を いつとはなしに 結びしが 涙とともに 仏のまします
雨しとど 乾ぶる心 うるおせば 知らず芽吹ける 慈悲の種かな
まごころは まことの心 まめごころ まめまめ育てよ 慈悲喜捨の種
4.無常・生死
(Impermanence / Life & Death)
いつの日か 別れゆくかな この世とは 惜しめど術なし ただ愛しめよ
芳しき あの夜の御髪(みぐし)の 抜けければ 芥となりて 一顧だにせず
金持ちも 美人も力ある人も 何ありとても 悟りはつれなし
鶴千年 亀万年とぞ 言うぞかし 今日がその日と限らんものを
阿と生まれ 泣きて怒りて 妬みても 訶訶訶と笑いて 吽と死ぬなり
5.自然・風景
(Nature / Scenery)
留まれと願えど巡る年月の はやき流れに思いぞ托す
星々は いずれ消ゆとも み光は 三世十方 耀きを増す
洛叉の星 倶胝の銀河 どこまでも 謳わん君と 那由多の宇宙(そら)を
6.情愛・人間関係
(Love & Relationships)
我が背子の紡ぐ言の葉虚空(そら)に消ゆ 腕(かいな)の中に聞きし幻
洛神かベアトリーチェかジョコンダか きみが面影 菩薩の如し
幾億の空の青さを重ねたら 君の瞳の色になるのか
あいさつは身近な真言 仲らいを 近づけんかな 和らげんかな
煩悩は 奪い合いして 足らぬなり 分け合わばなお 供物はあまる
7.覚悟・布施・捨身
(Resolve / Giving / Selflessness)
煩悩を いずくに捨つかな みほとけの 作りし弁当 包みしものぞ
この世をば 遠足と思う 煩悩は 如来弁当の包み紙かな
毒草は 少しく使えば薬なり 薬も過ぎれば 毒となるなり
8.比喩・諷刺・諧謔・引用
(Metaphor / Satire / Playfulness/ Allusion)
寂而不聞之聲兮 漠而不見之景兮 観用不可思議眼
天知らず 地知らず子知らず 我知らず みほとけのみ知る 我が心かな(四知より)
ならぬ堪忍するが堪忍 忘るるが肝心
杵鈴驚覚十八空 幢幡翩翻涼風通 沈香馥郁火舎中 閼伽清水汲聖地
注意一秒 怪我一生 弥陀の一念 福万世
念念重念念 相去万由旬 行行重行行 唯我与仏近(古詩「行行重行行」より)
智慧もとめ 慈悲を本とし 救いの手を 差し伸ぶるこそ 道成すと知れ(大日経 住心品「三句法門」)
一華飾一仏 万灯照万尊 我仏座中台 笑歌響無門
閉眼而無仏 開眸正観真 塵世顕智理 如実知自心
一念思三千仏 一一礼三千尊 須臾展大三千 眼前成大曼荼
君を恋い思い焦がれて燃ゆる火は 同じ火なのか違う火なのか(ミリンダ王問経より
9.日常・生活
(Everyday Life)
曇天より落ちる最初の雨粒に 打たれた私はなんかラッキー
思いつくままに詠むなり花のごと そっと開きて 如来荘厳す
10.精神・悟り・心象
(Mind / Enlightenment / Imagery)
幢幡(どうばん)を翻す風 経を乗せ 微音を奏で 六道に吹く
たまゆらの刹那の響きに身を委ね 転法輪の轟音を聴く
霊滴は極微(ごくみ)の雫 見えねども 心を穿ち 宇宙にぞ満つ
みほとけは 微かなること たまゆらの 密かなること ささやきの如し
ささやきは 小川のせせらぎ そよかぜか 星の瞬き 如来の法語
形無く 色無く音無く 光無く 香りも無けれど 満ちる法音
み胸から 巣立ちゆく我れ 旅路経て ようよう着いたは 如来のみ胸
見つめ合う 五億由旬を越えて今 我れと仏が めぐりあう夏