怪我の功名（仮）

なくて七癖と言うように、誰にでも多少なりの癖がある。もちろん私にもある。中でも「爪いじり」の癖はやめようとしてもなかなかしぶとく、場合によっては出血や化膿に至ってしまうことさえあった。

自分でも困り果てるようなしつこい癖だったのだが、ピアノを始めて数年経った頃になんとか克服した。深爪した指で弾けば痛いし、爪をいじる動作そのものが手指への負担になる。ピアノを上手く弾けるようになりたいという欲が身体に染み付いた手癖に勝り、週に数回、まめに爪を切って良好な状態を保てるようになった。ただし、小指だけはなぜか癖が抜けず、ピアノを初めて11年経っても常に深爪のままだった。

先日、その小指に切り傷を負った。自分の不注意で包丁で切ってしまった程度のことだったが、中途半端に治療を止めると傷が開いて悪化しそうだったので、2週間ほど絆創膏を巻いて過ごした。絆創膏で覆われたら爪をいじることはできない。なんのことはない、こんな古典的なやり方で、長年連れ去った癖と道を違えることができた。

小さなことだけれど、ピアノは自分の人生を違うものにしてくれている。

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