パレルゴンとエルゴン
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それぞれギリシア語のπαρερνουとερνουを語源とする用語。エルゴンは「作品」を、その接頭辞であるπαρは「外に、そばに、傍らに」を意味していることから、パレルゴンは「作品とは無関係な部分」「付属物」「アクセサリー」等々と解される。カントの『判断力批判』が両者への言及を含んでいることは以前から知られていたが、書物の行間に埋もれていたその事実は、ジャック・デリダの『絵画における真理』(高橋允昭+阿部宏慈訳、法政大学出版局、1997)による独自の再解釈によって、現代に甦ることとなった。絵画の額縁、彫刻の衣紋、神殿の回廊などの例を取り上げて検証するデリダにとって、芸術の真理とはパレルゴンの側に、パレルゴンとエルゴンの境界にこそ潜むものであり、その真理のイデオロギー的機構を暴こうとする意識は、書物の中にも空白を太く縁取ったパレルゴンを再現するほどに徹底したものであった。デリダのこの読解は、『判断力批判』が未だ近代美学の出発点とも呼ぶべき重大な文献であり、この書物をどう解釈するかが美学的態度の分岐点であることを明らかにした。なお、1980年代初頭の東京で営まれていた現代美術の先鋭的な画廊「パレルゴン」は、この用語に着想を得たものである。