AAVベクター
AAV(アデノ随伴ウイルス:Adeno-Associated Virus)ベクターは、遺伝子治療や研究用途でよく使われるベクター(遺伝子を運ぶ“運び屋”)です。以下の特徴があります:
病原性がほぼない
AAV自体は単独では病気を引き起こさないウイルスとして知られています。そのため、安全性の面で優れるとされています。
遺伝子導入効率が高い
さまざまな組織に対して遺伝子を届ける能力が比較的高く、特定の型(セロタイプ)を選ぶことで標的となる組織(神経、肝臓、筋肉など)を絞り込むことも可能です。
大きな外来遺伝子は運べない
搭載できる遺伝子の長さに上限があり、約4.7kb程度までしか入れられません。より大きな遺伝子導入が必要な場合には、ほかのベクターの選択が求められます。
遺伝子が安定して発現しやすい
AAVベクターは細胞の染色体の外部(エピソーム)として残り続けることが多く、比較的長期間遺伝子を発現させることができます。ただし、細胞分裂によって薄まる・失われる可能性はあります。
免疫反応の課題
AAV由来のカプシドタンパク質に対して免疫が起こり、中和抗体が生じることで再投与が難しくなるなどの課題があります。近年はナノマシン化などによって、こうした免疫回避を狙う技術が研究されています。
研究者たちは、AAV9ベクターの表面をタンニン酸やフェニルボロン酸誘導体でコーティングすることで、中和抗体の攻撃をかわし、効率的に目的細胞に遺伝子を届けようとしています。
タンニン酸
多価フェノール化合物であり、タンパク質などに結合しやすい性質がある。ウイルスカプシドを“覆う”ことで免疫系から隠す“シールド”のような役割を果たす狙い。
フェニルボロン酸誘導体
糖鎖やその他の分子と結合しやすく、標的細胞への結合性や送達性を高めるのに利用できる。このコーティングによって、より効率的に目的細胞へ移行することが期待される。
このようにコーティングによって「免疫回避と標的指向性」を同時に実現し、AAV9ベクターを“ナノマシン化”しているわけです。