テレビは幼児に何ができるか: 新しい幼児番組の開発
おかあさんといっしょ』はじめNHK教育番組制作チームが70年代末期に立ち上げた研究プロジェクト「2歳研」の成果が興味深くて、幼児には「固定されたアングルでキャラクターが生き生きと動き回る演出」、「シンプルなアニメ」、「2分半未満の短い尺」が好まれることがこの研究でわかっている。 CTW(Children's Television Workshop) 1978
第2章 2歳児のテレビ視聴の実態
テレビ視聴の低年齢化
「2歳児がテレビを見たがるが、番組が高年齢向けばかりなので、適切な番組が欲しい」
第3章 2歳児の発達の実態
2歳研による調査実験の要点👇️
発達の地域差は大きくないにせよある
特に知的側面で山手>下町>農村の順位で良い
友だちとの関わり
1歳半:友達同士の交渉が多少成立
2歳:上手になる
3歳:長時間子どもだけで遊べる
集団で遊ぶのは4〜5人より2人くらいの方が良い
型にはまった遊び(イナイイナイバー、かくれんぼ)、ごっこ遊び(見立て)、相互に模倣
型にはまった遊びは、年齢が小さいほど、子ども同士のやり取りを持続するのに有効
番組自体が子どもにとって意味のあるものとしなければ、テレビがかかっていることが望ましくならない
テレビを見ているとそれ以外の遊び(ひとり遊び・集団遊び・おもちゃへの高度な関わり)は低下するため
1歳半〜3歳の間にこどもがどんな事ができるようになるか
第4章 2歳児のテレビ番組のための教育目標
2歳児向け番組の教育目標の設定
特に、2歳児向けに絵本をテレビで扱うことについて
絵本の本領は1対1での読み聞かせでの体験の共有があってこそ
しかしそれでもテレビで絵本を取り上げた方が良い
「機械の言葉は情報を送ることはできても人間の心を育てる力はない」(松井, 1981, p67)
テレビであっても絵本の面白さを子どもに教え、絵本の"楽しみ"を伝えることはできる
カメラワークや、心のこもった語りかけ、効果音等によって、絵本の使えたかったことを、子供の頭の中にはっきり描き出すことができるのではあるまいか
繰り返し放映することが可能
特定の時間にかならずなにかのお話をしてもらえるということも約束される
母親に対しても絵本の楽しみ方や与え方を知らせる効果もある
2才児にとっての絵本
テレビにおける、2歳児にわかりやすい絵本の提示方法
絵
輪郭が明確
表情が生き生きしている(心理状態が読み取れる)
地と図の区別(焦点の対象が明瞭)
ことば
リズム感
短い単純な文
幼児の語彙の範囲を大幅に超えない、正しい言葉遣い
読み手
子供の心に向かって語りかけることができるナレーターの選択
絵とことば
十分に理解できる間の確保
実験
幼児番組の理解の発達に関する実験
上記は3歳児までの、静止画の実験
2歳児だとどうか?ナレーションが入った番組だと?
番組を見せ、注視率と視聴後の再生・再認テスト
2歳:持続した注視が難しい
3〜4歳:よく注視するほどよく内容を覚えている
5〜6歳:記憶テストの成績が高いが、注視との関連がない
チラチラ見てるだけでも画面内容が理解できている
何をしようとしてる?どんなお話が始まる?
5. 長さは、具体的な効果測定結果を使って検討する
あまり長いと飽きてしまう
幼児にとって望ましい番組とは
第5章 効果測定の意義
幼児による視聴実験の概要
第6章 2歳児向けテレビについての最初の視聴実験
関心を持つもの
男児
子どもの声
3人以上
大型動物
非移動性活発
軽快な音楽
(断定できないが関心を持っていそう)
成人女性
飲食物
ズーム
パン
逆に、テレビを見なくなるもの
不動性不活発
独唱
(断定できないがそれらしい)
成人男性
小型動物
第7章 数の認知に関する実験
セグメント「果物計算機」がなぜよく見られたのか、追加実験 要因についての結論
背景の単純な画面の中で
1個〜3個の物体が順序よく並べられる
画面にある程度の動きがある
男女数人のユーモラスな語りかけがある
第8章 数唱および図形セグメントに関する実験
(教育番組のために破ってはならない法則はあるのか?)
効果的に学習させるための原則
できるかぎりシンプルな映像や音声にして、学習者の反応を促す
学習内容の明確な提示 + 学習者の反応
(おもしろさを考えず、学習面のみ)
常に学習に有効な技法はありえない
おもしろくするための原則
浜野、他, 1981: 知覚の原則から演繹的に導ける
できるだけ「見てもらう」 = 知覚を促す
絵の情報量を増加させる
絵を差し替える
CTWの研究で明らかになった、注視を獲得する技法👇️
ベースの変化
短いセグメント
動き
注意を引くキュー
これらの原則に従ったセグメントを視聴実験
マイク、カブト虫
テンポが速く情報量の多い番組(例:セサミストリート)である必要はない
Schrammの「単純化」とHochbergの「情報量を増加させる」は競合している
(学習面については測定していないが、積極的反応と相関すると考えることもできる)
第9章 おはなし絵本の番組の実験
1歳半〜2歳は、絵に興味を示し、次第に簡単なストーリーを理解する時期
絵本4種をもとにした番組の制作、視聴実験
2歳0ヶ月〜2歳11ヶ月を年少・年長に分ける
結果
ナレーションには、幼児の持つ語彙数・種類からかけはなれていない言葉を用いる
特に年長児はナレーションが簡単な方が注視率が高い
子どもが物語を見ないのは、言葉が十分理解できないから(G. Dunn, 1977)
わずか12ヶ月の中でも、年少・年長で注目のプロセスが違う
年長児は物語を理解できるとよく視聴する
年少児は場面や絵・人の声で、瞬間ごとに惹きつけられる
(以下は具体的内容)
各番組の属性と注視率
ナレーション
簡単な方がよく視聴された
年少児では、言葉の理解がなくとも人の声で引かれることも
カメラワーク
動・静(カット切り替えのみ)で有意差はなし
絵の複雑さ
それぞれの「おはなし」の複雑性を図式化
年少児に限り、絵が簡単であるほうが多少注視率を上げる
おはなしの構造
注視率は内容構造以外にも要因が多いので、ただちに構造による差があるとは言えず
(理解については複雑さによる差異がある:後述)
題材
2才児がよく体験する出来事(子どもが手を汚す)を扱うと注視率が高い
難しかったと思われるもの
大きさの差・兄弟関係との対応
比喩(小さな種が芽を出し大きくなる)
鳥の種類や鳴き声の差
4歳以上では男女差が出るが、3歳以下ではほぼ同じ
質問テスト
理解
N=64
かぶを引っ張ってることまではわかるが、抜けたことに理解が及ばない(理解できたのは8名のみ)
引っ張っている場面から抜けて喜ぶ場面にナレーションのみで飛ぶのも原因?
「鳴き声が違うから休ませてもらえない」を理解できていない(理解できたのは年長女子2名)
ポーズ数を少なく・ひとつの動作をじっくり見せるほうが、理解が進み、模倣が増える
セグメントが短いほうが注視率が高い
「大人の女性の注視率が高い」に反例
Anderson & Levin, 1976
大沢・秋山, 1981
(実験に参加したインストラクターがそれぞれ1名ずつなので、個人のキャラの問題かもしれない)
インストラクションがあると模倣行動が起きやすい
McCall et al, 1977
呼びかけ型・回数が多いと模倣が増える
さまざまな専門家の参画
ID: 教育目標作成担当
R: 形成的評価担当(Researcher)
PD: 番組の制作担当
第13章 番組開発の手順の定式化
セサミストリート
Mates, 1981
専門家の関与、視聴者の限定、現実的カリキュラム、理解可能なカリキュラム、調査・研究
行動目標の記述
学習成果を明確にするために、教育目標の分類体系を参考とする
学習者の能力の査定
視聴者の実態を把握すること
波多野(1981) p123
よく『大人の文学はむずかしいから、児童文学でも』という人があるが、とんでもない誤解で、児童文学のほうがずっとむずかしいのである。児童文学では、大へんすくない語彙(ヴォキャブラリ)で語らねばならない。子どもにわからせるには、子どもの知っている語の範囲で書く必要がある。
「教育内容を理解できるか」のみならず、「表現方法を理解できるか」も含める必要がある
教授事態の選択
教授メディアの選択
番組の制作
教授体型のモデルにおける一般的手続き
1. 教授事態の配列を決定
2. どの刺激(文字・話し言葉・静止画・動画……)を使用するか選択
3. その刺激を提示できるすべてのメディアから最良のものを決定する
たとえば、文字の場合ならテロップ・パターン等から
形成的評価
総括的評価
第14章 2歳児テレビ番組研究会の歩み
忘れてしまった感覚にサイエンスで迫る