Debriefing Facilitation Guide
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はじめに
調査の目的は、ものごとがうまくいかないことがあることの説明の基盤として、どう上手くいってるのかを理解することである。
- Erik Hollnagel, Safety-I and Safty-II
伝統的な事故調査のほとんどが、実際には発生しなかった事象のまわりになにか見つけようと躍起になる傾向がある。将来の事故を防ぐ試みには、この特異な強調のための根底にある前提(Shorrock, 2014)がある。
「誰かによると、誰かがやるべきことをやっていなかった」
このレンズを通して、人々が実際にやったことよりも、やらなかったこと(注意を払わなかったこと、正しい決定をしなかったことなど) についての「発見」が、一般的に調査で表面化する、誰も気付かないうちに、これらは「ヒューマンエラー」とのレッテルをはられ、魅力的で便利な論理の捻じ曲げによって、実際には起こらなかった出来事が事故の「原因」とみなされてしまう。驚くに値しないだろうが、その結果、未来に向けての明白な提言がなされていることになろう。
「次は、やるべきことをやる」
不幸なことに、このアプローチでは、私たちの望む安全でよりよい未来はやってこない。今日では事故やミスに関する「新しい視点」として知られている観点は、この考え方を反転させて、改善と学習への別の道筋を提供する (Dekker, 2002)。私たちは、Etsyにおいてこのアプローチを信奉している。私たちはこれを組織レベルで運用することに賭け(Allspaw, 2010)、私たちの観点を公に共有してきた。
「適応性と学習。私たちは、レッスンや驚きを、正直に誰も責めることをしない反省をすることで学ぶ。従来の根本原因分析では、ミスからの学びが困難だろうと考えている。私たちの誰も責めないないポストモーテムプロセスは、広く認められた手法で、イノベーションを重視する組織においては、ベストプラクティスになりつつあると考えます。
私たちは本番環境で何が最適じゃなかったを分析し、その対策を迅速に行うため、誰も責めないポストモーテムは私たちの開発の重要な一部となっている (Etsy, Inc., 2015)」
ポストモーテムのデブリーフィング(以後 ”デブリーフィング”)をどうやるかは、このアプローチの中心であり、デブリーフィングのファシリテータの専門性にかかっている。私たちは長年にわたり、強力なデブリーフィングファシリテータたちを育成するのにフォーカスした社内コースをEtsyで開発してきた。執筆時点では、このコースは以下の内容で構成される。
事故モデルの理論的、経験的な基礎、歴史的事例研究、「Just Culture」と「Safety-I/II 」のトピックを網羅した3つのセミナー(読み物と記述演習を含む)
ファシリテータがコアスキルを実践するための対話型ワークショップ
新人ファシリテータのためのシャドーイングとフィードバック
定期的なフォローアップディスカッションループ
このガイドは、ファシリテータがデブリーフィングのファシリテーション力を向上させ、それを磨き上げるのに役立つように、フルコースのものから抽出したテクニックと戦術をまとめたものとなる。
私たちがこれを書いたきっかけ
現代のビジネスは、ソフトウェアにすごく依存していて、その依存度は今後もますます高くなっていくだろう。これは天啓ではない。ソフトウェアが豊富な環境での事故調査において現在主流となっているパラダイムには、根本的に欠陥があって、混乱していて、長期的にみると危険なことだと、私たちは信じている。
インターネットコマースとマーケットプレイスのEtsyの片隅で、私たちは「安全」とは何から構成されるのか? 単に事故が発生しないというのではなく、人々の専門性の発露によるものだ、ということについての対話に貢献できると信じている。
私たちはまず、Etsyのエンジニアグループ内で、デブリーフィングをファシリテートするのに専門知識を開発し、実践するところから始めた。何年もかけて、この仕事とその価値についての理解を深めていくうちに、(技術的な側面を越えて) より大きな組織がこの新しい学びの源に興味を持つようになった。その結果、私たちは元々はエンジニアリング関係者向けにカスタムされたものを、より一般化し、アクセスしやすい教材セットに進化させてきた。これは成功だった。これまでに、Etsyではエンジニアよりも非エンジニアの方がコースを受講していて、示唆深いデブリーフィングの多くを非エンジニアがファシリテートしている。
社内コースの開発と進化に4年を費やした後、私たちはまとめたものを他の組織にも活用してもらえるのではないかと考えた。この資料はできるだけ一般化しようとしたが、これは業務で開発されたものであり、私たちがオンラインビジネスを運営する会社なので、その影響は少なからずあるだろう。でも、(オンライン、オフラインの) 他の組織のみなさんが有用なものだと感じてもらえることを心から願っている。
構造と準備
私たちは事故からの組織的な学習は、熟練した中立の立場のファシリテータにより、事故についてのデータを収集し、タイムラインを作り、みんなをグループディスカッションに巻き込むことによって達成できると信じている。単にメールでフォームを送り記入してもらうという方法もあるが、本当の改善に必要なコンテキストや対話が得られないことが判明した。1つの部屋に集まって、静的な学習でなく、動的な学習を行うことが重要だ。とはいえ、デブリーフィングの構造化と準備には、いくつか重要な要素がある。
事前にタイムラインを把握しておく
デブリーフィングの前に、ファシリテータは、何が起きたかを意見を混じえず、発生事象の流れを把握する必要がある。客観的なデータがあれば何でも集めて、発生事象のタイムラインを作る。
タイムラインの初版は、その発生事象に最も近い人たちが作ったほうが良い。一般的に彼らにはタイムラインの基本的な構造を考える責任があり、議論対象の発生事象の境界線を決めるのに役立つだろう。コミュニケーションパターンや意思決定のポイント、観測、とったアクション、などデブリーフィングでどこを深く掘り下げるべきかをスケッチできる。
準備とは、デブリーフィングの間、自分の集中力とグループの精神的なサイクルを最高の状態にもっていくけるように、自身を。そのお大部分は、ミーティングの時間がどのように使われているかを強く意識することだ。デブリーフィング会議のためにとった時間はいつも恣意的であり、すべてをカバーするには決して十分ではない。学びは尽きることはないのだ!事前に初版のタイムラインに目を通しておくことで、会議の構成が決まり、すべてをこなせるように議論を誘導できるようになる。
「客観的なデータは直接観測可能である、見たり聞いたり嗅いだり味わったり数えたり計測できる。(思い込み、結論、意見は含まれない)」USDA Forest Service, 2014
ファシリテータとして成功するためのロジスティック(?)な提言をいくつか示す。
一人でファシリテートしない。理想的にはデブリーフィングの間、あなたを影で支え、会議の後でフィードバックを与えてくれる共同ファシリテータを付けるとよい。
ファシリテータは、その事象に直接関わった人でない方がよい。もし、あなたがその事象に関わった、または近くにいたのであれば、中立的な外部の人にファシリテータを頼むようにしよう。
デブリーフィングのための専任でメモを取ってくれる人を(事前に)探しておく。
タイムラインに書かれている人みんなをデブリーフィングに招待するようにしよう。理想的には言及されているチームから、少なくとも一人の代表者が出席するのが望ましい。
事前に部屋のロジスティクスを調べておこう。部屋の広さは十分か? 誰かがリモート参加するか? 自分自身と空間(ビデオ機器、椅子のレイアウトなど)を準備しておこう。
より多くの主観データ、客観データを発掘する
タイムラインはデブリーフィングの骨組みとして使うための、広く受け入れられた観測を与える。タイムラインを構築するのに役に立つ追加データとしては、出来事を調整して対応しようとしている人々の会話を収めたチャットの記録、ダッシュボード、人々が参照したグラフやログ、イベント中に人々がとった行動のタイムスタンプなどがある。
デブリーフィングが進むにつれて、タイムラインとそこでの成果物を使って、尋ねるべき質問を作成していく。これらの質問については、次節で詳しく述べるが、アクションや意思決定のコンテキストを構築する主観的なデータを収集するためのセリフになる。主観的データには、デブリーフィング中に明らかになるだろう意見、判断、仮説、信念、個人的な発言が含まれる。
重要なのは、誰かが「Xが起きた」と言ったときに、Xのコンテキストを与える質問をする機会を作ることだ。この
質問の技芸
心に最終ゴールをもち続けよう
デブリーフィングの日がやってきた。部屋にはたくさんの人が居て、あなたの頭の中にはたくさんの考えが浮かんでいることだろう。
みんなを部屋に迎え入れ、会議の間、彼らがどのようなマインドセットでいるべきか(非難しない)、また彼らがどのような結果を期待しているか(学ぶこと)、についての期待値を設定したら、あなたはストーリーの背後にあるストーリを見つけることに集中しよう。それがあなたのノーススターだ。
質問することがすべてだ
では、どのようにデブリーフィングで必要なことが起こるようにするだろうか? その秘訣は、答えではなく、質問にある。
あなたは、交通整理する人みたいなもので、非難や判断のようなものに、停止信号を出しながら、本物の思慮深い質問や傾聴に青信号を出す。交通標識や発煙筒の代わりに、質問の種類や質問のタイミングがあなたのツールだ。
ファシリテータとして、あなたにはみんなが広く理解できるように粘り強いリードの義務(と特権)がある。あなたはすべての段階で相互視界が確実に行われるような原動力をモデル化するリーダー的存在であり、その場にいる全員が何を期待されているのかが明確になるまでは先に進めない。
結論
Etsyでは、失敗が起きたらシンプルな選択肢があると信じている。
その失敗に対して、後知恵やみんなの行動の判断やコンテキストから外れた意思決定から
それとも、その仕事に近い人たちの多様な視点やストーリを明らかにすることにより、その出来事から本当に学びたいのか
この時点で明らかだとは思うが、私たちは後者を選択する。
あなたの組織でも、後者の選択ができるように、このガイドがお役に立てればいいなと思う。そうすれば、周りで毎日行われている仕事の複雑さを目にすることができるような学習のコンテナを構築できるだろう。効果的なデブリーフィングを推進する努力は、組織内で学び、専門知識を身につけるための貴重な機会を無数に提供することだろう。