[エッセイ] 沖島の耳
すごく静かだ、と思った。いや、ひっきりなしに鳥の鳴く声が聴こえるのだけれど。その鳥の種類が自然と聴き分けられるぐらい静かだった。湖面は平らかで、波音もしない。ほんの時折、モーターボートがうなるぐらい。
穏やかだ。同時に、なんとなしに少し落ち着かない気もする。
わかった。ふだんはずっと車の音を聴いているからだ。エンジンとタイヤとアスファルトがひっきりなしに鳴っているのが、街の耳の日常ということか。沖島には車がないから、耳が戸惑っている。
堀切港に帰ってきたら、さっそく耳慣れた音が聴こえはじめた。わたしの耳はすぐにいつものモードに戻った。沖島の音にチューニングした耳は、沖島に置いてきてしまったのか、もう簡単には思い出せない。
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追記
昨日まで数日間、東京に滞在していた。
地下鉄に乗ったのだけれど、新型コロナウイルス対策で換気のために窓が開けられていた。カーブに差し掛かったのか、
きききききぎいいいいいいーーっ、って、まともに聴いたらふるえるぐらいの暴力的音量で
レールと車輪がこすれるえげつないノイズがダイレクトに響く。
だのに、車内の誰一人としてそれが聴こえているふうではなかった。
なるほど、これが東京の耳……。
とビビっていたのもつかの間、気がつけば私の耳も東京仕様にチューンナップされ、地下鉄の音は聴こえなくなっていった。
2022/5/14
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