[エッセイ] お好み焼きを通して考え直したいこと / dot architects 家成俊勝
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私たちにとってとても身近な食べ物であるお好み焼きが、どういった材料でできていて、どのようにつくるのかは皆さん大体お分かりだと思います。ところがその材料がどうやって自分の手元に届くかを正確に言い当てることができる人はおそらくほんの一握りしかいないと思います。ましてやその材料が育っている環境を知っているかどうかは言うに及びません。私たちの暮らしを作っている様々なもの、それは食べ物だけでなく、服や小物、電化製品、部屋、住宅、ビルが一体どこから材料が運ばれて、どのようにつくられているのかをほとんど知らないため、それらの物や空間に対してどうしても受け身になってしまいます。現在、一から何かをつくり出す機会は凄く少ないですし、今使っているものが壊れたとして、それを修理して使い続けることもとても難しいです。それはほとんどのものがとても専門的な技術でできていることで、あらかじめ使用者の関わり代がすごく少ないのです。例えば、車が壊れたとして、昔なら直せる人が一定数しました。それはエンジンや機械がシンプルにつくられていて、その原理さえ分かればなんとかなったからでしょう。ところが現在の車にはコンピューターが搭載されています。ですから車が壊れると、そのコンピューターに接続していかねばなりません。グッとハードルが上がってしまうのです。 食べ物はレシピが分かりやすく、様々にカスタマイズ可能で、私たちでもつくることができるという意味で、能動的に関わっていける素晴らしい世界です。特にお好み焼きはかなり開かれた開放系の世界です。どこにでもある材料、誰もが分かるつくり方でできています。ただ分からないのは、先に申し上げました通り、どこからその材料がやってくるかということです。スーパーマーケットに行けば、お金で材料を買えますよと言われるかもしれませんが、スーパーマーケット以前がなかなか分からないのです。
お好み焼きをつくるにあたって小麦粉は外せません。例えば小麦の場合、輸入されている総量の半分ほどを国がアメリカから買っている。これは、「G to G」いわゆる政府間の取り決めで、日本はアメリカから小麦を買うことになっていると聞いたことがあります。スーパーで売られている小麦が原料の商品を調べると、急に国と国のお話に繋がったりします。アメリカのカンザス州には広大な小麦畑が広がっていますが、Googleマップで見るととても不思議な風景が広がっています。それは効率的に小麦のみを生産管理するための仕組みがつくりあげるちょっと変わった風景です。広大な敷地に単一の作物しか植えない状況は、その作物が売れるから大量に作っているのですが、このようなプランテーションは、世界の様々なところで見ることができます。つまり生産地と消費地は大体の場合、大きく分断されており、それらを繋ぐネットワークシステムで地球という惑星の表面がアレンジされているということです。そのネットワークシステムは、海を渡る船、空を飛ぶ飛行機、陸上を走る鉄道やトラック、あるいはパイプラインなど様々です。地球の人口がどんどん増加しているので、まずは食糧を確保するのはとても大切なことです。ですからこのような物流システムを構築することはとても重要だと言えますが、同時に運ばれているものに付随する様々な情報は私たちのもとにはなかなか届かないのです。この前、ニュースで見ましたが、日本の商社が海外の企業と共同で種を開発しているわけですが、その種からできる野菜は、一回収穫したら終わりになるようにあらかじめ遺伝子がつくられています。できた野菜から取った種で、再び育てると良くない野菜が育つようにできているのです。企業は毎年種を販売することでお金を手に入れることができます。農家も品質の安定した野菜を作り続けることができるので助かるというわけです。このように種も既に囲い込まれておりまして閉鎖系の世界になっています。そういった種も、プランテーションも物流システムも凄い発明です。しかし、それによって私たちが何かを想像する力や何かをつくり出す力が削がれているのも事実です。とても便利な世の中ですが、今一度お好み焼きを通して、そういったことを考え直したい。分断されているものを繋ぎ合わすせめてもの妄想をしたいと思っています。これは私たちの手で私たちの暮らしをつくるための一歩だと思います。