[エッセイ]竹野南地区の変装盆おどり大会
豊岡市竹野町にある、竹野南地区には、地蔵盆(地蔵菩薩の縁日で、8月23日24日頃に行われる盆のこと)の日に踊る、変装盆踊りという変わった行事がある。名前を聞いただけで面白そうなので、地区のお年寄りに話をききに行くことにした。
写真を見せてもらいながら、地域の風習なども含めて色んなお話を聞くことができた。どうやら変装盆おどりとは名前の通り、みんなで好きなように仮装をして踊る盆踊りらしい。衣装は地区単位でテーマを練り、地区対抗で優勝を決定する。衣装のテーマは本当に自由度が高く、雅子様のご結婚がニュースになったときは雅子様の結婚式の衣装を着たり、三蔵法師の衣装やマーメイドの衣装や、何故か阿波踊りの衣装もあった。こんなに自由な衣装なのだが、みんな同じ盆踊りを踊る。なかなかにカオスな風景が想像される。話を聞けば聞くほど、実際にみてみたくなった。
今回お話を聞いた地区の皆さんは、毎年のように優勝か準優勝されていたなかなかの強豪地区らしく、楽しげに語ってくれた。話を聞くと、衣装をみんなで夜なべして作る過程が楽しいようで、テーマなどは直前にみんなで集まって決めるそうだ。
変装の種類も、その当時の人たちの時事ネタ的な関心から、ドメスティックな日本の古典芸能からの引用、地元民を盛り上げるような地元ネタみたいなものまであり、バラエティ豊かですごく面白かった。こんなにはっちゃけてた人もいたんだ、という変装を一つ紹介する。マーメイドの仮装をした女性の隣に、シルクハットでスーツに鼻眼鏡をつけ、「支配人」と名札をつけた男性が看板を持っている。その看板には、「国民休暇村(地元の旅館)人魚姫はほんとにいるか?いないか?おいでの上たしかめてください。」と書かれている。面白いし、宣伝にもなっているのがとても興味深い。
竹野の盆踊りの信仰の対象にはこんなお話がある。昔、近くの地区で大水があり、お地蔵様が川から流れてきた。それを見つけて拾った人が拾う際に重くて腰を痛めてしまった。そこでその人が「お前は本当に地蔵か?ほんものならこの腰の痛みを治してみろ」ということを言ったところ、たちまち腰の痛みが治ってしまった。それ以来、そのお地蔵様を祀るようになったらしい。それがいつか地蔵盆の信仰と繋がり、盆踊りも行われるようになったそうだ。では、いつから変装は行われていたのか?日本の盆踊りに変装が伴うことは、じつはよくあることらしいのだが、その起源は各地それぞれにあるようだ。
ここの人たちの話によると、どうも踊りをするなかで「派手な人」があらわれたことからスタートしているそうだ。「派手な人」と書いているのは、実際にみなさんが、「なんか派手な人がいて、その人の真似をみんなし始めた」ということを言っていたところから、このように書いている。僕はこの「派手な人」に、理想的なアーティスト像を見ることができた。アーティスト(仮にそう呼ぶ)が社会に存在する必要性はこういう役割にあるのかもなあと思う。
慰霊の文化として盆踊りを調べる中でこのような特殊な盆踊りに行き着いたが、地蔵はあるものの、この地区の地蔵はそもそも川から流れてきたものであり、言ってしまえば外部からの存在だ。彼等はそこに自分たちの祖先をみたのか、それともとにかく縁起の良いものとして信仰したのかはよくわからなかった。
山田淳也